オリハルコンの牙

霜花 桔梗

第1話

 鍛冶屋の街、トーマトの朝は早い。わたしの名前はアリサ、夢は鍛冶屋の憧れのオリハルコンの牙で剣を作ること。


 師匠の鍛冶屋の聖女ことニーナと二人で暮らしている。

しかし、またの名を『裸の聖女』と呼ばれていた。裸の聖女と言われても鍛冶屋の仕事中以外の普段は普通に服を着ている。


「師匠、今日は昔の夢を見ました」


 わたしは朝食のパンをモグモグしながら師匠に話かける。呆れて見ているニーナ師匠はバターを焼いたパンにぬりながら、こちらを見ている。


「うぐぐぐ」


 パンが詰まったのである。


「水、水……」


 わたしはコップに水を入れて飲み干す。


「ふ~生き返った」


 水で詰まったパンを流し終えるとニーナ師匠が話かけてくる。


「で、その夢とは?」

「七人勇者の一人、ジルがわたしの生まれた村に来た時の夢です」

「はい、はい。また、その話ね」

「今朝の夢は完璧です」


 わたしは胸を張り、話始める。そう、わたしがわたしであるお話です。


「確かに白火は鍛冶屋の天敵ですか、そう都合よくジルがいましたね」

 

 ニーナはコーンスープに口を付けて穏やかにしている。白火とは悪鬼が起こす現象である。鍛冶屋の窯を暴走させて、最悪は爆発事故になる。


 その前の夜に旅の途中のジルが刃こぼれを起こした剣を直してもらう為に身を寄せていたのだ。


「本当に七人勇者の一人のジルなの?」


 遠い昔に黒龍と呼ばれる破壊する力を持つ龍が世界に半分を焼きつくしたのである。その黒龍を倒したのが七人勇者である。そして、ジルは火の剣士と呼ばれていた。


「絶対、ジルだよ、村のみんなも驚いていたよ」

「へーぇ」


 ニーナは興味無さそうに食事を続ける。わたしは今日も過去の夢を語り直す。


「わたしの目の前で白火が起きて恐怖で動けなくなったの、鍛冶屋の窯から白火が噴

き出した瞬間にジルが助けに入って、わたしをかばってくれたの、白火がジルを襲い恐怖の時間が続いてやがて白火が収まったの」


 わたしはニーナに熱く語る。


「それでね、それでね、その後のジルの行動が驚いたの、ジルは右腕にできた白火の火傷の後をみんなに自慢し始めたの」


 『ヤレヤレ、お嬢っちゃんを助けたら勲章が増えてしまった』


 七人勇者の一人のジルにとってみれば傷跡は勲章らしい。


『お嬢ちゃんは鍛冶屋に興味があるのか?』


「はい」


『なら、黒龍の牙であるオリハルコンの牙を探してみないか?』


「オリハルコンの牙?」

『そうだ、その牙で最強の剣を作ることができる』


 それが鍛冶屋の夢であるオリハルコンの牙との出会いであった。その後、ジルは笑顔で村から旅にでた。その背中は大きく皆が憧れる七人勇者そのものであった。


 わたしはオリハルコンの牙を打ち最強の剣を作る決意して、鍛冶屋の街トーマトに修行に出ることになった。


「お話は終わりだよ」


 わたしは気分よく、サラダを食べ始める。


「ふ、その目だ、探求に満ちている、その目だ……」


 食事を終えたニーナは満足げに着替え始める。きわどい姿になり、鍛冶屋の仕事の準備にはいる。


ニーナは鍛冶屋の聖女と呼ばれる、このトーマトで有名人である。そんな彼女が弟子を取ったのだ。ニーナは多くを語らないがわたしの探求の目が好きらしい。


「あ、わたしも作業に入る」


 残った朝食をガツガツと食べて、一階の鍛冶屋の窯に行くのであった。


「あれ?きわどい作業着は脱いでしまったの?」


 あのきわどい作業着は魔法のコーティングがされていて熱や破片を防ぐのである。


 わたしはニーナに問うと……。


「今日はアリサ、お前が打て」


 えぇぇぇ!並べられた道具に剣が置いてある。この依頼品は口うるさい傭兵のリムルの物であった。


「この仕事ができたら、鍛冶屋ギルドに推薦状を書いてやる」

「それはひょっとして、オリハルコンの牙を探す事ですね?」

「違う、それは七人勇者の四人に会い、認められ、初めてオリハルコンの牙を探す事ができる。つまりは七人勇者に会う為の推薦状だ」


 どちらにせよ、これはチャンスだ。


 わたしは作業に入る……。


 この時の仕事は良く覚えていない。ただ、何時も以上に窯の熱が暑く感じられた。


 数日後の事である。傭兵のリムルがやってくる。


「おっす、俺の剣はできているか?」

「は、はい、どうぞ」


 わたしはリムルに剣を渡す。舐めるように剣先を見て沈黙するリムルにオドオドするわたしであった。


「ま、こんなものだろう。俺の理想にはほど遠いが、妥協せねば……」


 要約すると良い仕事だと言っている。傭兵の仕事柄、常により良いモノを求めるので仕方がないのであった。


 それから、リムルは上機嫌で帰って行く。


「試験は合格だ、鍛冶屋ギルドに推薦状を書いてやる」

「あ、ありがとうございます」


               ***



 わたしはニーナの書いてくれた推薦状を持って鍛冶屋ギルドに来ていた。 今朝は不思議な夢を見た。


 『光と闇が交わる時にカオスとなる』


 そんな言葉で始まり。内容は少女と背の高い男性の夢である。 そして、昨日、書いてもらった推薦状を二人に破られるのであった。 わたしが抗議すると、邪気がどうのこうの言うのである。

「わたし達はカオスを司る浮島の神殿いる。あなたが旅に出るのは、蝶の羽ばたきの風に等しい……。しかし、その風は邪気に大きな影響を及ぼす」


 そこで目が覚めた。


 いつものわたしの幼い頃のジルの夢と違い目覚めの悪い夢であった。


 そして、鍛冶屋ギルドの前に来ると。


 重たい玄関のドアを開けると受付のお姉さんがいる。


「こんにちは」

「こ、こんにちは……」

 

 わたしは何処から出たのか分からない声で返事を返す。緊張するな。でも、ここがスタートだ。


「予約をしている者ですけど、ここが鍛冶屋ギルドで合っています?」

「はい、アリサ様ですね、こちらのエレベーターで最上階です」

「エ、エレベーター?」

「はい、魔導式の乗物です」


 田舎の村の出身なので魔導で動く機械など見た事がない……。わたしは気合を入れ直して、エレベーターに乗る。えーと、この最上階のボタンを押してと。


 あ、わわわー。動いているよ!そして、エレベーターから降りると。下にいた受付のお姉さんが座っている。


「あれ?双子ですか?」

「下のわたしは幻影魔法です。ここにいるわたしが本体です」

「はぁーーー」


 思わず声に出してしまうほど驚きの連続です。受付のお姉さんは立ち上がると、奥の部屋に案内してくれる。


 さて、鍛冶屋ギルドの会長の部屋だ。

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