第20話 友達

夕方にも匠くんに生存確認の電話をした。


ビバークした登山者みたいで変な気分だけど

会えない今は唯一のコミュニケーションtoolだから、しっかり熟(こな)して繋ぎ止めておきたいと思った。


勉強は教科書とアマゾンで注文しまくったドリル的なやつをしながら、いつ来るでも無い学校からの指示を拙(つたな)く待つことにした。


出来る事はしとく。


謹慎になって以降お母さんは出来るだけ家に居てくれていて、無論お手伝いもするけれど、身の回りのサポートをしてくれた。


「お家から出れないもんねー」とお母さん


確かに【謹慎】の意味合からすればそうなる。



しかしそれに関しては


私自身が元々積極的に出かける性分でもないから、軟禁を余儀なくされていても苦ではなく

逆に他人からの冷たい目を気にしなくていいものだから、教室とかより断然快適に感じてしまっていた。


蛇足に外へ出ても、変に【ニート】扱いされるだけだからね。


まぁ、お母さんの気遣いには感謝。






そんなこんなで朝夕は匠くんにcallをし


日中はお勉強とお手伝いをし


夜にはお父さんと公園にお散歩などの

謹慎ルーティーンをしながら


更に2日程を過ごして、学校からの連絡を待っていた。



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数日経ったある日の夜に、私の家に人が訪ねてきた。

夜10時位の遅めの訪問で

「指定された時間でしたので・・」と訪問者が玄関で力なく言っていて


それを聞いたお父さんが怪訝そうに

「とにかく上がってください」と促していた。


父さんとアポイントを取っていたみたいだけど


誰だろ?


当初は取引先の人が来たのかなと思って聞き耳を立てていたけれど

(ずっと部屋に籠りっきりなので刺激欲しさに盗聴)


その後の会話で違うと直ぐに分かった。


お父さんの声がデカい・・・・・ってか


怒ってる?



父「ちゃんと調べもせずに犯人扱いなんて馬鹿げてる!」


来訪者「すみません」


父「どう責任を取るおつもりですか?校長!」



校長?




来訪者「すみません」


父「これで2度目ですよね?」

 「前回警告しましたよね?」

 「無視ですか?教職の風上にもおけませんねぇ」


父「先ず娘に謝罪してください、そこからですよね?」


私?


言い忘れたけど、私は一人っ子なのだ。


父「娘を呼んできます」


それを聞いて慌てて部屋に戻る。




程なくしてお母さんが私を呼びに来た。



応接室で、私の学校の校長先生と教頭先生、それに学年主任の先生の3人が立っていた。

私の顔を見るや否や一斉に頭を下げて


「この度は不快な思いをさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」と


弱々しい声で謝罪した。





お父さんが静かに私に言った。


「告発動画が届いたらしい」



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 送り主は判明しているけど非公表にしていて

【その時】は誰なのかは解らなかった。


形式上の身柄の安全確保らしいけど


今更感が凄いする。



明日にでも復学して欲しいと校長先生は提言していたけれど

お父さんの

「信用できない」の一言で話が停滞した。


この期に及んで公にしたくないと願い出る学校側に

何度も首を横に振り父は抵抗していた。


まぁ監視カメラのこれだからねぇ、メンツ丸潰れだわなぁ


それにしても学校側はいい加減だよなぁ


他もそうなのかなぁ?



埒(らち)が明かないそのやり取りに、お母さんが

「夢に決めさせて欲しいです」と言って割り入ったものだから

発言マイクが私に渡ってきて、この場で答えを出す羽目となった


まぁそれが普通ですけどね。






本音を言えば家でリモートがしたいけど・・・・


結局私は「考えさせて欲しい」と一言だけ口にした。




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次の日の朝、一人の女の子が家にやって来た。


暫くしてお母さんが部屋に来て

「夢ちゃん、お友達が来たよ」と言った。


お友達?



残念ながらあの学校にはお友達、お友達風も

話し相手すらもいない。


変だ


学校の陰謀かな?


不思議に思い玄関に行くと



そこには



安藤春奈さんが居た。



春名「おはよう田嶋さん、プリント持ってきたよ」



夢「何で安藤さんが?」



春名「ごめんね、動画の編集に手こずっちゃってさぁ」

と笑う春奈さん。



春名「田嶋さんの雄姿、ちゃんと収めたよ、カメラに!」



アッ、告発動画!


春名さんだったんだ・・・・・



安藤春奈さんは

「学校で待ってるね、お昼ご飯一緒に食べよ!」


そう言うと


私にプリントを手渡して、手を振りながら去っていった。



あれれ?


これって


私が正しかったって事?


そう思うと両目から大量の涙が出てきた。


それはビルの時とは違う


嬉し涙だった。


あー私、間違って無かったんだ


死ななくて良かったんだーって


その瞬間にこの世界に存在と云う名の楔を打ち込めた気がした。



それから暫くして、匠くんに電話をし


「私、正しかったよ」と言った。






















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