第26話 のぞきは許さぬ! と思っていたものの
しばらくたって、私がやや危険な殺気をはらみながら帰宅すると、例の青年とルカが並んで玄関で待っていました。
「お嬢さん、驚かせてしまって本当にすみませんでした。
本当に天地と女神さまにかけて、この森にルカ先輩以外の人がいるとは思わなかったし、女の子の鼻歌が聞こえたからセイレーンでもいるのかってびっくりして確認しちゃっただけなんす、ほんとーにそれだけなんす。
今後はこのような事は二度と起こしません。ごめんなさい……」
一息で長文のおわびを言う彼の言葉を引き取り、ルカが
「俺からも詫びよう、こいつがすまなかった」
としおらしく〆ました。
怒涛の謝罪攻撃ですね……。もー、一度は許しましょう。
「……わかりました。
二度目はありませんからね」
そういうと、目の前の青年は、明らかにほっとした顔をしました。
「あー良かった、ルカ先輩を人間に戻したのはお嬢さんなんでしょう?
そんなルカ先輩の恩人に嫌われたら俺どうしようかと思ったんすよ。
ほんと許してもらえてよかったっす。じゃあ仲直りの握手を」
「あ、おい!」
ルカがなぜか止めようとするそぶりをみせたものの、私はそれより早く、青年が手袋のまま差し出した手を、何の気なしに握りました。
「え? きゃ!」
私は思わず手を放しました。
それは人の手の感触ではなく、岩か石みたいなごつごつした感触、それに冷たくて、私はちょっとびっくりしたのです。
「あはは、やっぱりびっくりしました?」
「お前、まだそういう悪ふざけをしているのか?」
とお叱りモードのルカを気にかけることなく、彼は私が握った手を蔽っていた手袋に手をかけます。
「というわけで、じゃーん!」
手袋からでてきた手があるべき場所には、金属でできた義手が収まっていました。まるで骨みたいな不思議な形状です。私はまじまじと見ました。
「手……どうされたのですか?」
「ずっと昔、騎士団にいたときに、こわーいドラゴンと戦って失くしちゃいました。あ、でもあの時ルカ先輩が居なかったら、俺は手じゃなくて首を失くしてたからまぁ生きてて何よりってやつっす」
彼はおかしそうに笑いました。
「というわけで、俺はルカ先輩のかわいい後輩騎士だった、アルドって言います。
今は騎士団を退いて、しがない商人をやっています。よろしく、お嬢さん。」
「……よ、よろしく、アルドさん」
「いやだなぁ、もっと気安くアルドって呼んでくれていいんですよ!ほらほら」
何か調子の狂う明るさですね……。ルカも少し困った顔をして私を見ます。『すまんな』とでもいいたそうな顔です。
「よろしく、アルド……私はルチル」
アルドは一瞬、え?というような顔をしたあと、
「ルチル、よろしくっす」
とにっこり笑いました。
「それにしても、今日はどういった用事でここにいらしたのですか?」
「ああ、アルドはいつもここに、色々と必要な物を持ってきてくれる」
代わりに応えたのはルカでした。
「そうっすそうっす!
ほら見てください。今日はこんな感じですよ」
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