聖森聖女~婚約破棄された追放聖女ですが、狼王子の呪いを解いて溺愛されてます~今さら国に戻れって言われても遅いですっ!
山口じゅり@聖森聖女3巻まで発売中
聖森聖女① ルチルと狼の呪い
第1章 追放聖女ルチルと狼さん
第1話 聖女の私、婚約破棄され、追放聖女になっちゃいました。
「お前は追放だ」
巫女や神官たちの静止を振り切り、静かな祈りの神殿に荒い足音で乗り込んできたオズワルドは、開口一番、冷たく言い放ちました。
アイスブルーの瞳に黒髪、恐ろしく整った美貌と合わせると、それはとっても怜悧な美しさではありますが、今はそれどころじゃありません。
「は? 追放?」
いつもは淑女らしくを心がける私も、これにはらしくなく呆けてしまいました。
「ああ。ルチル・マリアステラ。今すぐここを出ていけ」
そう、今日も今日とて私は神殿の天明宮で祈りをささげていたのです。
祈りは聖女である私の日課。祈りによって国を守る結界をはり、魔物の侵入を退けるのが私の仕事です。
しかし、最近私の婚約者オズワルドが、私の仕事でもあり日課でもある祈りの時間に、何度も何度も何度も何度も呼び出してくるので、そのたびにいけません、いけません、行くことはできません、聖女の仕事は祈ることなので無理です、と言い続け、最終的にちょっぴりキレてしまった私が、
「あなたは仕事に対して真面目にお考えではないのでしょうか?
私の仕事について少しはお考えいただきたく……」
といさめたのが昨日のこと。
そして、今日は手紙ではなく、オズワルドが直にやってきたというわけで……私はいきなり追放宣言されてしまったわけですが……。
「オズワルド、どういうことですか」
「追放は追放だ。ついでにお前との婚約も破棄する」
私は何も言えずに彼の前で口をつぐみました。
なぜこんなことを?しかし彼が言うなら本当にやるのでしょう。でもなぜ?どうしたら撤回させられる?どうして?
そんなことがぐるぐる頭を巡ります。
オズワルドは魔術の素晴らしい腕を幼少から見込まれ、王立魔術局へやってきた天才です。千年に一人も出ないだろうといわれる逸材、この国で、彼にかなう者はまずいないですし、この世界中でだって、魔法でオズワルドに敵うものはそうそういないでしょう。
しかしその半面、その美貌通りの冷たさと横暴さもあわせもった、婚約者の私から言ってもとても面倒な人物であり、下手なことを言えば状況はますます悪くなる……と悩む私をよそに、
「宮廷魔術師オズワルド様!リディス王国唯一の聖女であるルチル様にあまりにも無礼ではありませんかっ!」
私が何かいう前に、血気盛んな私付きの第一の巫女、ララが猛然とオズワルドに喰ってかかりました。
反論されたオズワルドはぎっとララを睨み、今にも殺しかねない顔をしています。
ああ、なんてことを……そもそも私達神殿に使える巫女や神官と、魔法局に勤める魔術師達は仲があまりよろしくないという事情もあるのですが、これは、火に油です。
「おやめなさい、ララ!」
ううっ……もう自体がややこしくて頭痛がしてきましたが、私はなんとか二人の間に割って入りました。
それでもなおルチルさま、でも、と食い下がるララを引き寄せ、静かに、というように腕を握れば、ようやく口をつぐみます。
史上最年少で聖女付きになった天才巫女、なんて言われていますが、わきまえはまだまだですね……。
私もララも無視して、オズワルドは言葉を続けます。
「ルチル、聖女の任を解き、神殿から追放とする。同時に俺との婚約も破棄だ。俺はこの国の聖女と婚約したんであって、お前と婚約したわけでもない。
聖女じゃないならお前はもう俺の婚約者でもなんでもないというわけだな。
今この瞬間から、お前はこの国の聖女ではない。代役もすでに立った。さっさと荷物を引き払い神殿を出よ」
聖女の任を、解く……?
そして代役が、立ってる……?
周りはざわめき、意味が分からず呆然とする私の横から、ララが立ち上がり
「こっ、この無礼者!
この国のために責任を果たすルチル様に何という言いぐさですか!万年ぶらぶらしているくせに!!
聖女の結界に守られているからこそ、魔物たちがこの国に入ってこないのですよ!
結界がなければ町々は魔物に襲われ、この国は滅びかねません!
この国の民をはじめ貴族王族が安寧にくらせるのは聖女様の力のおかげだとあなただって知らないわけではないでしょう!
それに代役など……!ルチル様に代わる人間などこの国のどこを探してもありませんわ!!」
ララ以外のその場にいた高位神官、巫女たちの血の気がひいていく音が聞こえるようでした。
オズワルドの無茶苦茶ぶりと権力に逆らえるのは確かに血気盛んなララくらいではありますが。
「もう一度言えるものなら、」
「うるさい女だな」
言いかけたララ一瞥し、オズワルドが有無を言わせず放った雷撃が神殿の床に大穴をあけます。
どーんってものすごい音がしました……。この神殿の大穴にさすがのララも皆も黙り込みました。
オズワルドは煩わしそうにため息をつくと、懐から何か出しました。ちらりと王の印章が見え、私は息をのみました。
「それは……王命……」
「そうだ。これは王命において決定された。俺は冗談でこんなことを言いに来たわけではない。俺の言葉に逆らうものは死罪だ。
王の名において命ずる。
聖女は罷免、したがって俺との婚約は破棄。今この時をもってお前を天明宮から追放する」
掲げられた紙には、確かに、私が聖女を罷免されること、オズワルドとの婚約が解消されること、それにともなって天明宮から出ていくようにと書かれていました。
間違いない、王のサインと印章と共に。
私は何が何だかわからないまま、あまりのことにただ立ちすくんでいました。
「オズワルド……どうして……」
彼は肩をすくめました。
「早く消えろ、ルチル。くそ真面目で可愛げもないお前のような生意気な女、俺の婚約者にも聖女にもふさわしくないからな」
「……一つだけ確認しておきます、オズワルド。
私をここから追い出せば、この国を守る結界は解かれます。結界がなくなれば、多くの魔物たちが王国に侵入し、人々を襲うでしょう。その責任があなたに負えるのですか?」
「おもしろい冗談だ!
すでお前の代わりの聖女候補は見つけてある。
その娘は、結界など簡単に張れると言ったぞ。よくも簡単な作業を、これまでさも重大事のようにみせかけていたものだ」
はっ、とオズワルドは笑うと、衛兵に顎で指図しました。
衛兵二人は黙り込み、私を見ます。
この二人も王の信任厚いオズワルドには逆らえないでしょう。オズワルドが連れて行けと言ったら私は引きずってでもつまみだされる。
彼らは同情からか、無理に私を連れ出そうとはしませんでした。
「大丈夫、あなたたちに連れられなくても、私、一人でいきますから」
私は微笑みました。
「オズワルド、そして皆様。今までありがとうございました」
聖女らしく、いえ、今は元聖女らしくというべきでしょうか、私はにっこりと微笑んで礼をすると、踵を返しました。
「お待ちください!ルチル様!ルチル様!!」
ララの声を背に、私は部屋を出ました。去り際、オズワルドが大声で笑うのが聞こえました。
ほっぺたが冷たい。ああ、私、泣いていたんですね。
この涙は誰にも見られたくありませんでした。
なけなしのプライドと共に身をひるがえして、私は神殿の廊下を駆け出し、まっくらな外の夜の中に飛び出しました。
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