第186話:全ての後で
「……わ、私が……ダンデールと組んでこの島を手に入れようとしたのは……南方領土を独立させるためです……」
脂汗を流しながらオミッドが答える。
ゲイルの
「独立!?」
オミッドの言葉にアルマが目を丸くする。
ルークもこれには驚きだった。
オステン島を支配するだけでなく南方領土の奪取まで企んでいたとは。
ゲイルが愉快そうに口の端を吊り上げながら鼻を鳴らした。
「ふん、大それたことを考えたものだな。詳しく話せ。何から始めてどのように行うつもりだったのか、全てだ」
「わ……わたしはまず魔界のダンデールと手を組みました。魔界の厳しい規制を逃れて商売を広げようとしていたダンデールとは利害が一致していたからです」
オミッドが苦しそうに言葉を続ける。
「計画は三段階に分けられ、第一段階は我々が不仲を演出することから始まりました。これには我々の密約から目を逸らす以外にいくつもの効果があるからです……有力者である我々が険悪になれば二国間に緊張が生まれます。緊張は治安の悪化を生み、犯罪が横行するようになります」
滂沱の涙を流しながらオミッドは自らの罪を告白し続けた。
全てを話せば破滅が待っているのはわかっているのだが止めることが出来ない、それを悟った絶望の涙だった。
「我々は裏で山賊や海賊らの金主となって略奪品を着服しました。同時に治安悪化を口実に魔石取引を増やしてオステン島からキックバックを得、それらを元手に私兵を雇い入れたのです。治安の悪化は私兵を増やすことを正当化させる効果もあります」
「酷い……」
オミッドの独白を聞いていたアルマが眉をひそめる。
山賊たちがアロガス王国と魔族の装備を身に着けていた理由がこれではっきりした。
全身を震わせながらオミッドが話を続ける。
「第二段階はオステン島の離間です。お互いがあからさまに一氏族に肩入れすることで島の二氏族を対立させました。対立することで価格競争が起こり魔石を更に安く買えるからです。そして島内で戦争を起こすようエラントを焚きつけました。戦争は島に眠る神獣を起こす理由となるからです」
「てめえのせいかよ!」
キールが怒号と共にオミッドに掴みかかった。
「てめえが……てめえが島のみんなをそそのかしやがったのか!」
「キール、落ち着いて」
「放せ、ルーク!こいつぶっ殺してやる!」
ルークに羽交い絞めにされながらキールが暴れまわる。
その顔に見たこともないような怒りの形相が張り付いている。
「こいつの……こいつのせいで何人死んだと思ってるんだ!族長も……エラントもこいつのせいで!こいつは100回殺したって足りないくらいだ!」
「わかっています。彼にはふさわしい罰を与えることになります。そのためには彼に全ての罪を告白させないと」
ルークの言葉にようやくキールの動きが止まった。
肩で息を切らしながら顔を真っ赤にしながらもなんとか自制しているようだ。
「……わかったよ。ルーク、今はあんたの言葉に従うよ。でもこいつは死罪以外認めない。執行の時はあたしがこいつに引導を渡してやる。もしそれ以外の判決が下ってもあたしが殺す」
キールはそう言うと射殺すような視線でオミッドを睨み付けた。
なんの感慨も沸かない表情でゲイルが先を促す。
「気が済んだのならさっさと話を続けるぞ。神獣を目覚めさせてからどうするつもりだったのだ」
「は……はい、エラントは神獣を手懐けることができると考えていたようですが、我々ははなからそんなことは信じていなかった……というよりもエラントが神獣を操れるようになるのは都合が悪かったからいずれにせよ暴走させるつもりでした」
オミッドが話を続ける。
「過去に南方領土を恐怖に陥れた神獣を倒す、これは独立を先導するのに欠かせない偉業となるはずです。それに大衆心理も混乱したこの地域を治めるのは神獣を討伐した我々において他ならないと傾くでしょう。大衆の支持をもって南方領土を実効支配する予定だったのです」
「ふん、自分たちで火をつけて消してみせようというわけか。実力の伴わない小者が考えそうなことだな。そういう奴は得てして最後の保身のために証拠を残しておくものだ。それはどこにある」
「そ……それは……」
オミッドが苦しそうに顔を歪ませる。
物的証拠を与えてしまえば本当に破滅だと最後の抵抗を試みているのだろう。
しかしそれもゲイルの
「言え」
「は……わ、私の私室に掲げられた絵の裏に隠し金庫があります。防御魔法がかけられていますが私が身に着けているネックレスがあれば解除できます。その中にダンデールと交わした密約や裏取引の証拠が全て揃って……」
オミッドの目がぐりんと上を向いた。
そのまま糸が切れたように崩れ落ちる。
「力尽きたか」
ゲイルは立ち上がるとオミッドに近寄っていった。
その首にかかっていたネックレスを無造作に引きちぎる。
「話は聞いていたのだろう。さっさと証拠を抑えにいくんだな」
「流石ですね、ゲイル殿下」
「フ、フローラ様ぁ!?」
振り返ったアルマが驚きの声を上げる。
そこに立っていたのはフローラだった。
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