第115話:やってきた黒幕

「証拠……そうですね、こんなのはどうでしょう」


 ルークが地面に手をかざした。


痕跡顕現レベレーション。対象は足跡、期間は1年以内」


 ルークの言葉と共に地面に残っていた足跡が光り輝いた。


「これはこの1年以内にここへ来た者の足跡です。僕は彼らとダンジョン討伐に行ったことがあるからわかりますが、これは《蒼穹の鷹》の4人の足跡です。あとこちらも」


 ルークが手をかざすと破壊された太古の水門オールドゲートにいくつもの手形が浮かんできた。


「これは4人の手形です。照らし合わせれば一致するはずです」


「そ、そうなのか……?しかし……何故連中はこんなことを……まさか!?」


 自分の言葉の意味に気が付いたミランダを見てルークが頷く。


「彼らのスポンサーはクラヴィです。彼の商売は水道局以外にもあるのでは?」


「ああ、あるとも」


 苦い顔でミランダが答える。


「元々クラヴィは魔法薬の卸が専門だ。特に黒斑熱の薬はクラヴィが独占している」


 ミランダが壁に拳を打ち付けた。


「あの守銭奴め!やっていいことと悪いこともわからんのか!」


 怒りの声をあげながら何度も拳を叩きつける。


 ルークが慌ててミランダを羽交い絞めにした。


「落ち着いてください」


「これが落ち着いてなどいられるか!本来黒斑熱は薬でも治るんだ!それなのに奴は黒斑熱が広まるや否や価格を3倍にあげたんだ!街中に患者が溢れているのもそのせいだ」


 ミランダの怒りは留まることを知らない。


「気持ちはわかります。でも今は黒斑熱を解決するのが先です。それができるのは僕たちだけなんですから!」


 ルークの言葉にミランダの動きが止まった。


「……そうだな。確かにその通りだ」


 怒りで顔が紅潮しているが呼吸は落ち着きを取り戻していた。


「確かにこんなことをしてる場合じゃない。原因が分かった以上解決策を考えなくてはな」


「この水門が黒斑熱を抑えていたんでしょ?直せないかな?」


「それはちょっと難しいんだ」


 アルマの言葉にルークが首を横に振る。


「師匠の魔導紋は複雑すぎて僕ではすぐに直せない。解析も含めておそらく1週間以上はかかると思う。黒斑熱の伝染速度を考えたら時間がかかりすぎてしまう」


「そうか……」


 ミランダが唇を噛んだ。


「それなら元凶そのものを叩いてしまえばいいんじゃないか?この水門の奥に魔素を発生させている何かがあるのだろう?だったらそれを倒せばいいじゃないか」


「そう上手くいくでしょうか……」


 ルークが水門を眺めながら眉をひそめる。


「この水門を作ったということは師匠ですら倒しきれなかったということになります。いや、これは倒せなかったというよりも……」





「そこで何をしておる!」


 突然後ろから怒号が響いてきた。


「貴様ら、何故こんな所にいるのだ!ここは聖域だぞ!」


「クラヴィ殿……」


 その声に振り返ったミランダが睨みつける。


 もはや憎しみを隠そうともしていなかった。


 やってきたのはクラヴィだった。


 背後に武装した兵士を数十名従えている。


 クラヴィは尊大に辺りを見渡すとミランダへと向き直った。


「怪しげな一行が浄水場へやってきたと報告があったから来てみれば……ミランダ、警備隊長ともあろう者がこんな所で何をしているのだ」


 まるでルークとアルマなどこの場にいないとでもいうような態度だ。


「黒斑熱の原因を究明しに来たのです。我々はメルカポリスの飲用水に混ざった魔素が黒斑熱の原因であることを突き止めました」


ミランダがクラヴィに指を突き付ける。


「此度の黒斑熱の拡散は水道局長であるクラヴィ、あなたの責任だ!」



「はて、なんのことやら」


 クラヴィはしらばっくれるように肩をすくめてみせた。


「無断で入り込んだ挙句にそのような世迷いごとで誤魔化そうとは、警備隊長ともあろう者がとんだ醜態をさらしたものだな」


「しらばっくれる気か!これも貴様の仕業だろうが!」


 怒りに震えながらミランダが後ろで破壊されている太古の水門オールドゲートを示した。


「貴様が手勢にしている《蒼穹の鷹》が太古の水門オールドゲートを破壊したことで飲用水に魔素が混入され、それが黒斑熱を引き起こしたんだ。そして黒斑熱の特効薬を牛耳っている貴様がその裏にいるのは間違いない!貴様は国民の命を金に換えようとしているんだ!」


「それは聞き捨てならないですね」


 クラヴィの背後から声が聞こえてきた。


「私たちが太古の水門オールドゲートを破壊した?どこにそんな証拠があるというのです」


 前に出てきたのはランカーだった。


 後ろには《蒼穹の鷹》の3人も控えている。


「警備隊長と言えども証拠もなしに人を犯罪者扱いは感心……き、貴様!何故こんな所に!」


 にやにや笑っていたランカーはルークの姿を認めてぎょっと立ち止まった。


「お久しぶりです」


 ルークがぺこりと頭を下げる。


「来ていたのならいい機会です、何故この水門を破壊したのか納得のいく説明をしていただけますか」


「な、なんのことだ?私はこのようなところ入ったことはおろか見たことも……」


「誤魔化さないでください」


 ルークの声には静かな怒りがこもっていた。


 その迫力にランカーも押し黙る。


「あなた方がここへ来てこの水門を破壊したことはわかっている。何故そんなことをしたのかと聞いているんです」


 ルークがついと左手を上げた。


「ひぃっ!」


 思わず腕で顔を庇うランカー。


痕跡顕現レベレーション。対象はランカーの足跡と手形、期間は1年、視覚による確認を可能とすること」


 ルークの魔法と共にランカーの手の平とブーツが淡い光を放った。


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