第80話:キックの決意
「なんのことかな?」
ランカーは肩をすくめながら空とぼけている。
「これから先は危険なダンジョンボス戦だ。君らのような不確定要素を抱えたくないだけさ」
「出鱈目だ!ダンジョンボスの遺留物といやあ今まで集めてきた素材よりも遥かにレア度が上がるに決まってる。それを独占するつもりじゃねえか!」
キックが叫ぶ。
「そうだそうだ!」
「卑怯な真似をすんな!それでも勇者かよ!」
抗議の声を上げる獣人たちの前にグスタフがずいと出てきた。
「雑魚共はすっこんでろ!」
「ひっ……」
グスタフの一喝に獣人たちは波が引くように黙り込む。
長年の苦役が《蒼穹の鷹》への恐れとなって身体の髄にまで染みついているのだ。
「ま、そういうことだ。言っておくが今回の依頼は《蒼穹の鷹》が受けている。君らが横から入ってきた時は妨害されたということで正式にギルドに報告させてもらうからそのつもりで」
「き、汚え……」
獣人の間から声が漏れる。
「何とでも言うがいい。だがルールはルールだ。君らの処遇は
ランカーは勝ち誇った視線をルークに送ると踵を返した。
「では我々は最奥部へと向かうとしよう。これからダンジョンボス戦なのだから貴様ら獣人どもには今まで以上に働いてもらうからな。銀貨分の働きはしてもらうぞ」
「それは認められない」
ルークがその前に立ちはだかった。
「あなた方が彼らの安全を保証しない限り行かせるわけにはいかない」
「ほう……」
ランカーの眼がすっと細くなる。
周りを囲む《蒼穹の鷹》の3人が臨戦態勢に入ったのがわかった。
「ではどうするというのかね?ここで我々と一戦交えるかね?言っておくが君のその態度は既に冒険者同士争ってはいけないというギルドの規範に反する行為なのだよ?」
「状況によってはそれもやむなしかと」
ルークが身構える。
その背後ではアルマが背中合わせになって牽制していた。
シシリーは獣人たちを背にして剣を構えている。
「ちょ、ちょっと待った、待った!」
張り詰めた空気を破ったのはキックの声だった。
「どちらも落ち着いてくださいよ!こんなところで争ったってなんの得にもならねえ、そうじゃねえっすか!」
「しかしこのままでは君たちが危険に晒されるだけだよ。それは見過ごせない」
ルークはあくまで譲らない。
そしてそれはランカーも同じだった。
「こちらはこいつらを雇用しているのだ。どう使おうが我々の自由だ。こいつらだってそれを覚悟してきているんだろうが。そして《蒼穹の鷹》から放逐された貴様にそれを咎める権利はない」
「それ、それなんすよ!雇用!それが重要なんす!」
それでもキックは食い下がった。
「確かに《蒼穹の鷹》をクビになったルークさんたちは本来だったらダンジョンから去らなきゃいけねえ。で……でも正直言わせてもらうと俺らにはルークさんが必要だ。正直このままダンジョンボス戦になったら俺たちが生きていけるとは思えねえ。だ、だったら……」
キックがごくりとつばを飲み込む音が聞こえた。
「俺がルークさんたちを雇うっす!」
「「……は?」」
ルークとランカーの言葉が見事にハモった。
「い、一般人が身の危険にある時にギルドを通さずに冒険者を雇うことは認められてるっす!それなら俺がルークさんたちを雇っても問題ないはずっす!」
「……そうなの?」
ルークの問いにシシリーが頷く。
「確かにそれはどのギルドでも認めてることだよ。というかそうじゃなきゃ突然魔獣に襲われた時にどうすんだって話だし」
「ふざけるな!」
ランカーが吠えた。
「我々に雇われている貴様らがこいつらを雇うだと!?そんなこと認められるか!」
「あ、あんたらには関係ないことっす」
キックは震える声で、それでもきっぱりと言い放った。
「あんたらが俺を雇っているのはその通りっすけど、どういう準備をするのかは俺らの自由のはずっす」
「貴様……私に歯向かうつもりか」
ギリギリと歯を噛み締めるランカー。
「それがどういうことかわかっているのか!今後貴様らには一切剛力を頼まんぞ!なんの収入源もないあの村で干からびたいのか!」
「か、構わねえ……す」
キックはそれでも引き下がらなかった。
貧乏な村で死んだように生きていたキックだったがルークたちと共にダンジョン討伐をして行くなかで消えかけていた何かに再び火が灯るのを感じていた。
それが久しく得ることのなかった達成感なのか、それとも単に魔獣を倒したことによる高揚感なのかはわからない。
ともかくその熱がキックを動かしていた。
「も、もうあんたらに奴隷みたいに扱われるのはうんざりなんだよ!あんたらが魔獣の囮に使うせいで毎回何人も死んでるじゃねえか!毎回毎回生きて帰れるかわからねえんだ!それなら村で干からびてくのと何も変わりはねえ!」
キックがランカーを睨みつける。
「でもルークさんは違う。俺たちを仲間だと認めてくれた。俺たちだってやれるんだって教えてくれたんだ。何にもねえ村で死にかけてる俺たちにだってプライドがある。あんたらに家畜みてえに扱われるのはもう御免だ!」
「キック……」
ルークがキックの前に膝をついた。
「この依頼、謹んでお受けするよ。最後まで君たちを守ると約束しよう」
「本当っすか!?」
「もちろんだとも。ここまで来たら引き下がることなんてできないからね」
「俺もキックにつくぞ!」
1人の獣人が歩み出た。
獣人たちのまとめ役をしているボルズという名の猪人の男だ。
「ダンジョンボスと戦えば死人だって1人や2人じゃ済まねえはずだ。そんな賭けに乗るくれえならルークさんに来てもらった方が良いに決まってる!そうだろ、みんな!」
「その通りだ!」
「俺も賛成だ!」
「ルークさん、俺たちを手伝ってくれ!」
キックとボルズに続いて獣人たちが口々に叫ぶ。
「ク、ククゥ……」
これにはランカーも黙るしかなかった。
「どうやら決まりのようですね」
ルークが高らかに宣言した。
「ここから先は彼ら獣人たちの護衛として参加させてもらいます」
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