第63話:最後の戦い
「う……うん……ここは?」
ルークはゆっくりと意識を取り戻した。
何故かさっきから身体が大きく揺れている。
「ルーク!目を覚ましたのね!」
頭上から聞こえてきた声に上を見るとアルマと目があう。
そこでルークは自分がアルマに抱きかかえられていることに気付いた。
ルークを抱えたアルマはベヒーモスから逃げている最中だった。
「アルマ!?何故君が?というか僕は一体……」
「話はあと!」
アルマが神殿の陰に身を滑り込ませる。
そこにはフローラを含む兵士たちが避難していた
2人を見失ったベヒーモスは鼻息を荒げながら周囲を探し回っている。
「ルークさん、アルマさんもよく御無事で!」
フローラが喜びの声を上げる。
その顔を見てルークは頭を抱えた。
「思い出した……!僕は……僕はなんてことを!」
全て思い出した。
ベヒーモスを倒すために他の全てを、アルマすらも見捨てようとしていたことに。
アルマが首を振る。
「ルークは悪くないよ。今はベヒーモスを倒す方法を考えないと」
フローラも頷いた。
「その通りです。ルークさんがいなければ私たちはとうに死んでいたでしょう。それよりも今はこれからのことを考えましょう」
「そ、そうですね。うっ……」
頷いたルークは顔をしかめて額をさすった。
「なんかこぶができてる?何があったんだろう。アルマは知ってる?」
「な、なんでもないから!」
アルマは慌ててそっぽを向くとこっそり額を押さえた。
「うう……まさか頭突きをかましてしまうなんて……そ、それよりもどうやって倒す?私は何をしたらいい?」
「そうだね……実は1つ思いついたことがあるんだ。これをやったらおそらく僕はもう何もできなくなる。それでもやる価値はあると思う」
ルークはそう言うと周囲を見渡した。
兵士たちの眼がルークに注がれている。
その眼はまだ絶望に染まっていない。
ルークは大きく息を吐くと頭を下げた。
「みんな、僕に力を貸してください。お願いします」
「わかりました。ルークさん、あなたに従います。これを最後の勝負としましょう」
フローラが頷く。
「私は既に君を信頼している。遠慮なくやってくれ」
「ルークさん、俺たちはあんたに賭けたぜ!やってやろうじゃねえか!」
ウィルフレッド卿とタイロンも大きく頷いた。
「俺はやるぞ!ルークさんは俺の妹を助けてくれたんだ!」
ジャック・ワーズが叫ぶ。
「ルークさん、俺はあんたについていくぞ!」
「おれだってやるぞ!50層で助けてもらった恩を返す時だ!」
「おお、アロガス兵の力を見せてやる!」
兵士たちがジャックに呼応していく。
「……みなさん、ありがとうございます」
感極まり、顔を上に向けていたルークは決意を新たに向き直った。
「それでは、はじめましょう!」
「「「「「ウオオオオォォォォォォォッ!!!!!!」」」」」
鬨の声と共に兵士がベヒーモスへと突進していった。
ベヒーモスの注意が逸れた隙を狙って魔導士たちが残った鐘楼へと駆け寄る。
再び生まれた魔力の縄がベヒーモスを拘束する。
しかしその力は以前とは比べ物にならないくらい弱まっている。
おそらく1分と持たないだろう。
(それまでに全ての準備を終わらせる!)
ルークとアルマは神殿の主塔へと駆け上がっていった。
「フローラさん、力をお借りします!」
フローラにもらったペンダントでルークの体力と魔力が回復していく。
ルークの詠唱が唄のように神殿に響き渡る。
それに反応したのか急にベヒーモスが暴れ出した。
魔力の縄があっさりと断ち切られる。
「駄目だ!間に合わねえ!」
「
フローラの放つ聖魔法がベヒーモスを地面に縫い付けた。
「ルークさん……長くはもちません……」
「フローラ……馬鹿な真似は止せ……逃げるんだ……」
魔力が枯渇して動けなくなったゲイルはただ見ているしかできない。
フローラが笑顔を浮かべた。
「逃げませんよ。私だってこの国を守護する一族なのですから」
しかしそれも限界だった。
フローラの魔法を引きちぎりながらベヒーモスが立ち上がる。
「畜生、畜生!この化け物!俺が相手だ!」
吠えるゲイルを一瞥することなくベヒーモスがフローラへと顔を向ける。
フローラは失神しそうになるのをなんとか堪えながら必死に睨みつけていた。
「ゴオオアアアアアアアッ!!!!」
咆哮と共にベヒーモスがフローラに向かって突進した。
「間に合いました」
ルークの魔法が発動した。
無数の魔法陣がベヒーモスを中心にドーム状に展開される。
強力な魔法が一斉にベヒーモスに向かって放たれた。
「ギオオオオオオオオッ!!!!」
ベヒーモスの咆哮が絶叫へと変わる。
魔法は絶えることなく続いていく。
「流石に……これはしんどいな」
ルークは全身全霊で魔法陣を制御していた。
生み出した魔法陣は全部で180、それを一分の隙もなく操らなくてはいけない。
驚異的な耐久力を誇るベヒーモスだ、少しでも乱れれば魔法陣を破ってしまうだろう。
ルークの頭の中からあらゆる雑念が消え去り、純粋に魔法にのみ注がれていく。
だが先ほどのような結果だけを求める冷たさはない。
背中にはアルマの存在を感じている。
それに眼下にいる仲間たちも。
今のルークにはみんなを救いたいという純粋な気持ちだけがあった。
魔法陣のドームは内部で魔力を反射しあい、ベヒーモスの持つ魔力も加わって圧力がどんどん高まっていく。
極限まで高まった魔力によってドーム内の魔素が自壊してエネルギーへと変換されていく。
そこに属性というものはなく、ただ純粋な魔力だけがあった。
それはルークが初めて到達した根源魔法だった
大気が魔力によってプラズマ化し、七色の光を発する。
荘厳とすら言える光景に誰も言葉を発することもできず、ただベヒーモスが魔力へと変換されていくのを見守っていた。
ゲイルですらその光景に目を奪われ、ただ茫然と見るしかなかった。
「畜生……なんだよ……なんでこんな……」
気付かぬうちにその眼からとめどもなく涙が溢れていた。
そして終わりは一瞬だった。
「グオオオオオオオオオッ!!!!!」
ベヒーモスの絶叫がひときわ大きく響き渡ったかと思うと突然その姿が消えた。
「ふう~~~~~、なんとか終わったみたいだ」
大きく息をつくとルークはへたり込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます