第22話 夫婦の絆 [にいづましょうぎコラボ(3/3)]

前もってエントリーしていた修司と香織が対戦相手と決まり、振り駒を穴熊が振ろうとすると修司が止める。


「穴熊さん振り駒すると運命が決まっちゃうので俺が振りますよ。」

「そうだったな。運命は対局者同士で決めるべきだな。」


?マークが頭に浮かんでいる遼と彩香を横目に、修司が振り駒。

歩が3枚で先手は修司&香織チーム、後手遼&彩香チームと決まった。


「「「「よろしくお願いします」」」」


ペア将棋はチーム戦だ。一手ずつ交代交代で将棋を進める。

チームワークが何より大事で、ペアが差しやすいように打つのがポイントと言われている。

対局中は無言。1分の相談タイムが3回まで使える。


香織が角道をあけ、彩香も角道をあける。

修司が角道を止めて、遼が飛車先の歩をついた。


「ターーーイム!!」

「相談タイムをもう使うのか?構わんが。。」

驚く穴熊に構わず、遼を問い詰める彩香。


「ちょっとりょーくん!私に居飛車させって言うの?」

飛車先の歩突きは居飛車の宣言である。


「いや反射的に、、修司さんたちも振り飛車みたいだし、相振り飛車とかほんとわかんないよ。」

「しょうがないわね。。居飛車やってやるわよ。フルーツ牛乳のため悪魔に魂を売ってやるわ。」

「悪魔って。。。」


香織と修司は、まだ検討するような話もない。穏やかに雑談している。

「しゅーくん、私に合わせて振り飛車にしてくれたんだ」

「ペア将棋は1+1を2にも3にもしないと勝てない。彼らにそれができるかな」

「なんか負けフラグっぽいよ。。?」


1分が経過して穴熊が相談タイム終了を告げる。

「時間である。」


対局再開。

地力に勝る、遼&彩香チームが居飛車での戦いをなんとかまとめ上げる。

修司&香織チームは時々香織の指し回しが怪しくなるが修司のフォローで良い戦いになっていた。


中盤戦で、修司&香織チームが大駒の交換を迫る。

駒を交換して手持ちに駒を持っていくことを、捌くと表現するが、振り飛車は駒を捌けると有利になることが多い。

手番の彩香はノータイムで駒の捌きに応じる。


「え、捌かせちゃうの!?タイム!」


遼がたまらずタイムを要求する。


「あやちゃん、その飛車交換こっちがまずくない?修司さん達に駒捌かせちゃってるじゃん。」

「だめ、だめなの。私が捌いてるつもりになっちゃうの。駒を捌かせて。。。」

「振り飛車中毒だったの忘れてたああ」


順調に指しているように見える修司&香織チームだが、香織には少し疲れが見える。

「ここまでは順調なのかな。しゅーくん振り飛車もさせるんだね。」

「かおりんの将棋をたくさん見てるからね。指したい手がなんとなくわかるんだ。」

「ちょっと疲れてきちゃった。手を握りながら指してもいいかな」

「うん。頑張れ、かおりん。」


1分が経過して穴熊が相談タイム終了を告げる。

「時間である。」


ここから一気に終盤戦に突入して行く。

数分後。


「。。。タイム」


力なく彩香がタイムを宣言した。


「ねえ。りょーくん」

「うん。あやちゃん」

「これ無理よね。そして、暑いわ。」

「そうだね。指すところないね。そして、暑いね。」


局面は修司&香織チーム勝勢で挽回はかなり難しい。

相談タイムだが、修司と香織の手は離れていなかった。


「「まいりました」」

「「「「ありがとうございました」」」」


修司&香織チームの勝利でペア将棋が終わった。


「良かったー、勝てました。ペア将棋って楽しいのね」

「負けちゃったわ。香織さんも修司さんも以心伝心って感じ。」(手握ってるし)

「本当。休憩タイム一回も使わなかったし。色々完敗だなあ。」(手握ってるし)

「お二人とも強くて。かおりんとのペアじゃなかったら負けてたと思います。」


感想戦をして、交流を深める四人。

そのあと、遼と修司で指してるのを見ながら彩香と香織でだべったり、四人で『実践!穴熊講座』を受けたりしてあっという間に時間は過ぎていった。

スパの退場時間が迫ってきたため、遼と彩香は撤収準備を進める。


「彩香さん、また今度!」

「香織ちゃんも、またね!」

「遼さん、また指しましょう」

「修司さん、今度は矢倉のコツ教えてくださいね」


和やかに別れの挨拶をしてリラクゼーションルームを出ていく遼と彩香。

振り向いて出て行く二人は小声で何やら話している。


「りょーくん、うち帰ったら反省会ね。」

「そうだね。あれはひどかったね。」

「少なくとも事前に戦型くらいは決めておくべきだったわね。」

「間をとって中飛車とか右四間とかかなあ。」

「そこら辺ね。」

「手はどうする。繋ぐ?」

「。。。大きな敗因よね。帰って検討しましょう。」


ペア将棋負けたのが相当悔しかったらしい。

リラクゼーションルームを出て行く二人を見送る修司と香織。

その二人の手はこっそり握られていた。


「夫婦の絆にもいろいろあると言うことだな。」


暖かく見守る穴熊。

全然違う夫婦二組がサロンに来訪する日を楽しみにしつつ、今日一日イベントに他の客が来なかったという事実への憂い、指導対局権が忘れられている物悲しさを噛み締めながら、後片付けに追われるのであった。

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