第4話 復讐の後

「いや、片桐祐介は死んでないぞ」


僕たちは部屋でずっと片桐祐介の様子をプロジェクターのように壁に投影して見ていた。まるで僕がその場に立ち会っているかのような臨場感たっぷりに。ド〇ビーサラウンドが効いていた。ド〇ビーサラウンド知らんけど。


「ねえ、これどういう仕組みで見えてるの?片桐のすぐそばにいるみたいなんだけど…どうやって」

「どうして?どうして?ってうるせーんだよ。仕組みなんてどうでもいいだろ!そういうもんなんだよこれは」


もちろんそんな説明では納得できないが、納得せざるを得ないという無言の圧力、もとい有言の圧力を受けた。確かに仕組みを言われてもわからないだろうが、これからもずっと謎システムで押し通される事になるのであろう事が懸念される。


「じゃあ聞いてもいい?僕の右手が治ったのは片桐と…」

「ああそうだ。お前の右手を対価としてアイツの右手と交換したんだ。」


「じゃあ、それ以外は? 女性に訴訟をおこされたり、本社に調査が入った事や、最後に刺された事もレイの仕業なのかい?」

「フフフフ、オレにとっては造作もない事だが、もちろん単なる偶然だ! 日頃の行いの積み重ねがたまたま重なりまくったにすぎん。まあおかげで、アイツは対価交換で右手が動かなくなった事に気づかず、佐藤を殴ったときに痛めたぐらいの認識だと思うがな。」


そうなんだ。もちろん右手の交換だけでもすごい事なんだけど、やろうと思えば何でもやれそうだな…人を思うがままに操るとか…ひょっとして僕もすでに操られているんじゃあ…


「さすがに俺でもそんな事までやらないぜ。面倒くさいからな!」

出来るんかい!と軽くツッコミをいれたが、これからも絶対にして欲しくないな。

ゆずるとの約束だぞ!


「今回の対価交換で行われたのは右手の交換とインポンテンツだな。」

「は?イン・テンんツ?」


「インポンテンツまたは勃起不全。アソコが起たなくなることだな。」

「な、なんでそんな事に?」


「そりゃあ対価交換なんだからあたりまえだろう。右手の交換以外の負の部分が積もりに積もってアイツの交換に使われた罰が勃起不全だったというわけさ。別に俺が指示したわけじゃあないぜ。まあ女癖の悪いアイツにぴったりの罰なのは間違いないがな。」

確かに勃起不全はアイツにとってものすごい罰だとは思うけど…もっと重い罰があるんじゃないかと僕は思った。


「ん?そんなに大きな罪には思えないって顔だな。確かに起たないだけならと思うかもしれんが、実際は自分の子孫を残すことができないんだぜ。そう思うとどうだ?軽いと思うか?」

確かに。レイ君が言うには一生ではなく治る可能性もあるとの事、不妊治療で子も成せるとの事だが、女癖の悪いアイツがこれかの人生で反省して心から自分の子が欲しいと思わせる女性に出会って欲しいと願うばかりだ。


レイ君には右手を潰された相手に対して甘すぎる考えだなとあきられたりもしたが、自分の手が治っただけで僕は十分満足だ。えっアイツの右手は一生治らなくても良心の呵責はないのかだって?。いくら甘すぎる僕でもそれとこれは話は別だ。子供が産めなくなるのに同情はしても、僕の右手を奪って反省もせずにのうのうと楽しくやりたい放題だったのにはこう言ってやりたいね。


「それが因果応報だろ」ってね。


この後、片桐が救急車で運ばれるところまで見て終わった。


後日片桐祐介は完治して退院したらしいが、アイツが刺されて弱ったのをキッカケに

自己顕示欲で満たされていたSNSには雨後タケノコのように被害を訴える者が相次いだ。そして罵詈雑言で画面は埋め尽くされた。火消しにやっきになっていたが、一種のお祭り状態になってから慌てて削除された。


「そして女性たちの訴訟とブティックの倒産で窮地に陥ったま、片桐祐介は行方をくらましたらしい。

アソコは起たないままに…。

いや、彼ならいつかきっともう1度立ち上がってくれるだろ!

でもアソコは起たないままに…。

だが、彼なら絶対何度でも立ち上がってくれるだろう!

アソコは起た…あいたっ!」


最後のナレーションでよけいな事を付け足しまくるレイ君に僕は雑誌を丸めて頭にツッコんだ。ただ起たないって言いたいだけやん。


「何すんだよ~本当のこと付け足しただけだろうよ~」

レイ君は全く痛くないだろうに、痛そうに頭を抱えて僕に文句を言う。


「もう済んだことだから片桐のことはどうでもいいよ。それよりもレイ君の事をもっと知りたいんだけれども、相棒として。」


「俺の事。ふふっそうだな…」

レイ君は今までふざけていた態度とは一転、澄ました顔でソファーに足を組んで座り僕の顔をじっとみつめる。


「まぁオレの事は追々とな。とりあえず今後の事を話し合おうじゃないか。」

そう言ってどこからか取り出した紅茶を飲み僕と語り合った。

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