22話「決壊」ー前編
(前回のあらすじ)
デザインの祭典"TOKYO ARTWORKS FESTA"に出展が決まった"アヌビスアーツ"の面々は、前日に関東入りし横浜での観光を楽しんでいた。
熊谷、栗栖、マイケル、怜子の4人がみなとみらいで海をバックにランチを楽しんでいた傍らで、辰実は横浜中華街でパーソナリティの水掫と会食。話題はもっぱら、出展したアクセサリーのモデルを務めた怜子の話。
「明星」
水掫は、怜子をそう表現する。怜子が辰実と出会い、現在に至るまでの経緯を聞いた彼は、その晩に怜子への取材を申し出る。
話を押し切った辰実は、"何かが起こる"と呟いた。
*
横浜市。
いい大人が4人、テーブルを囲んでやっている事が大富豪でなければ夜のオーシャンビューに文句を言う事など無い。月光とネオンが昏く染まった海を好き勝手に飾っているのに、何故か心を撃つ景色だった。
「…大の大人が4人揃って、どうして大富豪なんだ?」
ホテルの一室で横になっていた辰実が、栗栖に呼び出されたのは30分前の話。
"トランプしませんか?"とドアを開けるや否や仏頂面で185cmもある筋骨隆々の男に言われるも、"やだ"と一蹴する。"コーラ買ってきますんで"と言われ、しぶしぶ隣の3人部屋に来たのであった。
「どうして僕達だけ3人部屋なんですか?」
「部屋が無かったんだよ。本当は1人部屋を5つ取りたかったけど、2つしか取れなくてな。残りは2人部屋が1つしか無かったんだが、伊達さんが無理を言ってくれて3人寝泊りできるようにしてもらったんだよ。」
「この3人で寝泊りなんて合宿気分で楽しいじゃないか、トビ。」
「やだよ栗栖、それにマイケルだって騒がしそうじゃん。明日は大事な日だってのに寝れないじゃん。」
「"TOKYO ARTWOKS FESTA"、そう"オマツリ"だよトビ。トゥデイイズ前夜祭。」
明日の緊張で、眠くなれば静かに寝てしまいたい熊谷に対しワクワクして寝られない栗栖とマイケル。間に挟まれた辰実は、ただ冷静に時が来るのを仏頂面で待っているようであった。
「いいトリオじゃないか、トビ」
「ちょっと、黒沢さんまで!…の隙にはい8切り!」
ダイヤの8を出して、熊谷はその場を流す。残り1枚はスペードの3、出して即"上がり"宣言をして大富豪になると、そこにマイケルが続いた。続いて栗栖がハートの10を出して最後の1枚を捨ててしまうと、瞬く間に辰実は"大貧民"に落とされる。
「"大貧民"は"大富豪"に2枚渡せばいいのか?」
「いや、1枚で行きましょう」
その年代によってもコミュニティによっても、ルールというのは微妙に異なるらしい。8で切らない所もあれば7でカードを渡さない所もある。
大人になるとその辺りのルールを確認し、後からあれこれ言われないための予防策を張ってゲームが始まるのだが、カードの渡し合いを確認する事を辰実は忘れていた。
この"認識の違い"が、辰実の命綱を切らずに済ませた。
("ジョーカー"は2枚だな。1枚をトビに渡しても手札は十分に強い、2も7も8は2枚も、10まである。出せる手の数は、それだけ潰しができるって意味だ。)
栗栖から時計回り。マイケル、辰実を経て熊谷。
ゲームが始まると、定石通りに2より上の数字で小さいものから出していく。使いどころの分からなかったダイヤの4を出したマイケル、その次には定石通りに小さい数字が出てくると思いきや、辰実が出したのは"ジョーカー"であった。
「出すの、早くないですか?」
「何言ってるんだトビ、ジョーカーは取っておかないものだろう。」
ルールでは、ジョーカーもしくは2であがる事は禁じられている。だからこそあがる"直前"に切り札よろしく強いカードを出して、最後に自分が適当にカードを出して終了できるようにすると言うのが定石だと、熊谷の中"では"決められていた。
それを、平気でジョーカーを出した辰実に打ち砕かれる。
「今回の件で水掫さんにあの子が注目された事は、間違いなく"強いカードが手に入った"と考えて良い。…だが本当に勝負する時に出すべきカードでは無い。」
「何となくですが、分かる気がします。」
動物の群れがコミュニティに、社会に拡張しても変わらない事実がある。見られるのは本人の実が伴うかだ。
「理解が早くて助かる。」
10で余計な札を捨て、2で仕切り直し、8を出してまた仕切りなおす。7を出してあがる時に、"いくらでも学ぶ事はある"と言いながら、残った1枚を渡した。
「よし、中華街に行くぞ!」
折角の横浜、留守番で過ごす訳にもいかない。男たちはトランプを片付け夜の中華街に繰り出した。
*
東京、六本木。
スーツ姿のキツそうな女性が運転する、黒のクラウン。後部座席から見える景色も時速50kmで流れていく。シンプルな黒のワンピースに着替えて、迎えの車に乗った怜子だけが都会の中で場違いに感じた。
ようやく暗がりになってきた夏場の日没の中に、過ぎていくネオンや照明が尾を引いている。
「本日はお誘いを受けて頂き、ありがとうございます」
「いえ、折角のお誘いでしたので」
「水掫さんから、伝えておくようにと」
運転手の堅苦しい挨拶に、緊張が膨れ上がってしまう。ビルの明かりが、溜息を置き去りにした。ビルの群れ、その中に一際そびえ立つ。オレンジと灰色が混ざっていく日没に、窓という窓の明かりは混ざらない。
「お待たせしました。あれが森ビルです。」
「ありがとうございます。」
"平凡な名前ではないか?"と怜子は思ってしまう。中世の塔を現代的な素材とデザインで作り上げて、大胆にも一部をカットして"これでもか"と未来を走ったのに"森ビル"なのだ。覚えやすいのは良い事なのだが。
どれだけ着飾っても、結局は普通の女の子と何も変わらない自分と重なってしまう。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」
色黒で、パーマをかけた細身の男が出迎えてくれる。堅苦しいスーツ姿が、低い声と合っていた。入口の前に停止したクラウンの後部ドアが開けば、怜子は踵を少しだけ浮かせたサンダルを大理石の上にカツンと置いた。
「52階の"Star Lounge"です、ご案内しましょう。」
息を潜めるような、白い床と天井に黒の壁。悠々と迎えてくれた男は歩いていく後ろを、怜子は肩を潜めてついていく。
慣れない都会の、慣れないデザイン。
若松商店街がやっぱり田舎だと思い知らされるも、ほんの少し古臭くたって怜子を暖かく迎えてくれる商店街が嬉しかった。
「お話に聞いた以上に、綺麗な方ですね。」
「そんな…、お上手なんですね。ありがとうございます。」
「先程、水掫さんから話を聞いてはいたのですが。あの方が"運命を感じる"と言っていたのも分かりますよ。」
ただ低いだけの声では無い、そこに"品格"があるのだ。
「水掫さんは、私の事をどのように?」
「まるで、"星"のようだと。突き刺すような恒星の輝きではなく、淡い輝きでありながらも確実に"そこに在る"。」
「手の届かない場所にある星を、私はいつだって近くで観てきました。私と同じ世代のグラビアだって、私なんかより綺麗な子だってスタイルのいい子だっています。」
「水掫さんの仰った通りですね」
"ポン"と、エレベーターのドアが到着した音が鳴る。2人だけが入った空間、"52階"のボタンを押すと空間は上昇を始める。
「水掫さん、ですか?その人は何を言っていたんですか?」
「貴女はまだ、貴女自身の魅力に気づいておられないと。」
広々とした空間に比べて、雑音が無い場所だからではない。案内の男がトーンを落とした訳でもないのは、それだけ水掫の言葉が"真剣味"を帯びているという事なのだろう。
「私の魅力…、ですか。」
「案外、ご自身の事はご自身では分からないものですよ。」
52階。気づけばすぐに到着した。
「私の案内は、ここまでにしておきましょう。真っすぐ行けば水掫さんが待っておられます。」
"ありがとうございました"と、頭を下げる怜子。暫くして上げた頭と共にこみ上げる緊張。
「さあ、行ってらっしゃいませ。くれぐれも貴女の道を見失わぬよう。」
*
52階、"Star Lounge"
黒い大理石の廊下には、一定の間隔で間接照明が埋め込まれている。セピア色のスポットライトを1つずつ数えていく度に、緊張が"呼吸している"という自覚を奪っていった。
看板の置かれたスカイレストランの入り口が見えたのは、少しだけ踵を低くしたサンダルの音まで薄くなってき始めた時である。ユーカリの木材を千切りにし、並べた隙間からはほんの少しだけ緑が見える。ビルの中にありながら"空中庭園"を感じさせる装いが、計算されたように怜子の心に一息入れさせる。
壁の所々に引かれた、ステンレスの縦線が照明の光を反射。"ちょっとだけ眩しいな"と思いながら少しだけ思いユーカリの木材で枠組みされたドアを開く。
「いらっしゃいませ」
「水掫さんに呼ばれていた篠部です」
「お待ちしておりました、ではこちらへ」
一連の流れ作業にも、洗練されたモノが感じられた。音量を低めにしたアシッドジャズが包み込む空間、所々に垂れ下がったグリーンネックレスや天井から吊り下げられた鉢植えのハンギングフラワーが、基調になっているウォールナット材と調和を取っている。
座席の布地やカウンターの壁に使われている青が、やっと見慣れた誰かを思い起こさせて怜子を落ち着かせてくれた。
「こっちよ」
黒いテクノカットの、中性的な男性がゆっくり手を挙げて迎えてくれる。七分丈の黒いシャツに同じ配色のパンツ、カマイユ配色の恰好は敷居が低い。
「お待たせしました、篠部怜子です。」
「水掫よ、黒沢から話は聞いているかしら?」
「"取材"だと聞いています。」
「ええ、取材よ。でもリラックスして頂戴、ディナーを頂きながら楽しくお話できれば構わないから。」
"よろしくお願いします"と一礼し、怜子は水掫に対面するように座る。窓際を縁取る冷たいステンレスに沿うように、青いクロスが敷かれたテーブルの窓際に置かれたコールボタンを水掫は押した。
"持ってきて"と、少しだけ擦れた中性的な声でやってきた店員に話しかける。
「お酒は飲める?」
「嗜む程度には」
「赤ワインを冷やしてあるわ、料理には合うと思う」
「本当ですか?楽しみです」
(夕食をとりながらお酒を飲むのは、いつぶりの話だろう?)
年が明ける前の事を、怜子は思い出していた。グラビアでいた時の"わわわ"の忘年会、元マネージャーの古浦や先輩のグラビアアイドルと歓談し、"来年もまた楽しく過ごせるのだろう"と期待していた。
その期待は裏切られたにせよ、別の形で怜子は舞台に戻ってきている。
「"アヌビスアーツ"は、飲み会とかしないの?」
「私が入社した時に、歓迎会で食事に連れて行ってもらった事はあります。…お酒は、今の所ないですね。」
「寂しいわね、黒沢は下戸なのかしら。」
「それが、めっぽう強いらしいんですよ。…それでも飲み会が無いのはもしかしたら、私の事を気遣ってくれてるのかもしれません。」
「気遣い?」
水掫の返事が、少しせっかちだと怜子には思えた。"辰実の事"ではなく、"怜子の事"を聞きたがっているのだろう。
「水掫さんは、私がグラビアアイドルだった事はご存知ですか?」
「黒沢から聞いたわ」
「その契約が切られたのは、忘年会の後に年が明けてすぐでした。だから、酒の席をしようとしないのかと。…占いとか縁起とか、信じるタイプみたいですし。」
「分かってると思うけど、悪いジンクスなんてのは必ず乗り越えなきゃならないわ。黒沢が待ってくれているかどうかは分からないけど、乗り越えさえすれば必ず貴女を綺麗にする物語になる。」
「待ってくれてるんだと思います。」
「待ってくれているなら、貴女が動き始める事ね。」
「分かりました。」
すぐに運ばれて来たのは、プレートの上で焼ける音をじんわり響かせる牛赤身のステーキ。運ばれてきたパンやスープも、出来立てで彩度の高い色合いを見せてくれる。
「そうそう、"取材"って言っても本格的な取材は明日になるんだけど。今日はその時に向けて、"何を話すか"私が考えたいだけだけよ。今は食事でもしながら楽しくお話できればいいわ。」
焼きたてのブリオッシュに、丁寧にバターを塗っていく。濃厚なきつね色に焼き上げられた小麦の味に、薄く塩味が効いて胃から食欲が刺激される。普段では頂く事のできないパンの味で、怜子は嬉しくて話を切り出せずにいた。
「元々はローカル誌のグラビアだったのよね?」
「はい。大学生になったすぐに、"わわわ"というローカル誌の方にスカウトされてグラビアをする事になりました。」
奮発して食べるディナーよりも、遥かにランクが上に見える都会の食事に驚いていた怜子は、既にステーキを切り分け始めている水掫の声を号令にフォークとナイフを手に取る。
「スカウト?」
「私がいた大学の近くに、"若松商店街"と呼ばれる商店街があるんです。そこで買い物をしてたら、"わわわ"の人に声をかけられたんです。」
緑の多いサラダを丁寧にフォークでまとめ、水掫は咀嚼する。怜子からすれば、"表現者"としての圧力をすごく感じるにも関わらず、その作法は慎ましいものであった。世界的ブランド"Mone"を展開し、時代の先を往く第一人者も人として見れば人という器に収まっているように見える。
そんな事を口に出せば、"貴女は何を言っているのよ"と言われそうで怜子は口をつぐんだ。
「水掫さんでしたら、どんな人をスカウトするんですか?」
「もし私が、貴女をスカウトした人みたいにグラビアのスカウトをしてたらって事よね?…だったら簡単よ、その子の見た目に"スター性を感じるか"で決めるわ。」
予め輪切りにされていたバケットにバターを塗って、水掫は口に含んだ。話をする傍らで店員が注いでいた赤ワインには、未だに手を付けていない。
サラダを食べた口をパンでリセットしたのだ。次にステーキを切る準備はできている。
「自分の才能は、自分で収める事ができないのよ。」
水掫がステーキを切り始めるよりも数十秒前に、怜子はナイフとフォークを持ってステーキを切り始めていた。前に行った事がある、県内の私立大学付近のステーキ屋で食べたものは切れば肉汁が溢れ出していたのに、今切っているのは肉汁があまり出てこない。
それが良い肉なのか悪い肉なのかは、怜子には分からなかった。
「私は、貴女をスカウトした人を心から凄いと思うわ。」
白銀のナイフが、肉に切り込まれる。
「少なくとも、私が見る限り貴女は"普通の女の子"よ。私がさっきスカウトするって言った女の子とは別の所にいる存在。」
"普通の女の子"。グラビア時代に怜子が嫌と言う程言われてきた事だった。怜子自身も、周りにいるモデルやグラビアで人気のあった人に対しては、"煌びやか"だと思っている節はある。見た目に出てくるような華を感じさせないのは、自他共に認めている事実であり怜子にとっては問題点であった。
店内を包んでいたアシッドジャズの曲が、フェードアウトしていく。こんな所に来てまで知っている事実を突きつけられ、気持ちが沈む怜子。たった1℃冷める体温は、溜息にもならない。
「ミディアムね」
ステーキの中心部に残る、薄い赤身。"ミディアム"というのがステーキの焼き加減を表す言葉だというのは、さすがに怜子にだって分かる。そして、単に水掫が肉を見て焼き加減を呟いた訳ではないのも分かる。
「随分と手の込んだ巡り合わせ」
水掫の様子を、怜子は下の角度から覗く。
「さっき私、"見た目にスター性を感じるかで人を選ぶ"って言ったけど、よくよく考えればそんな事言っておいて黒沢の事を気に入ったってのも変な話とは思わない?」
"デザイナー"という括りで考えれば、あまりにも辰実は見た目にインパクトは無い。言い方は悪いかもしれないが、どこかの企業で上司に頭を下げながら判を押したように仕事をするサラリーマン風の男にも見える。
怜子からしたら、"でも格好良いですよね黒沢さん?"となるのだが。
そういう話を、水掫はしているのではない。
「物事が核心に迫ってくるにつれて、本当に問われるのは"本質"よ。矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、その本質が見抜ける人というのは本当に凄い。」
"性別を問わず、そういう人こそ魅力を感じるのよ"と付け足した水掫の言葉が、怜子にとっては矛盾しているようには聞こえなかった。ある程度の人気は、表面に出てくる部分で獲得できる。しかし一定の場所から上となると、その人自身に備わっている本質が問われるという事実を、嫌という程に怜子は見てきた。
綺羅星の集まる場所で、折角見つけた原石を埋もれさせる訳にはいかない。だからこそ、相手の奥深くを見抜く事ができる資質が必要になってくる。
「ところで、貴女をスカウトした人はどんな人?」
「私のマネージャーだった人です」
"割と近い人だったのね"と、早々に水掫は切り上げる。質問に答えた怜子が、これ以上の話をさせてくれないように見えた。まだ将来性のある怜子が"元"グラビアだと言っているのには、"嘘の理由をでっち上げられて契約を切られた"だけではない何らかの事情が絡んでいるぐらい看破できていた。
篠部怜子を中心に、彼女の周囲にいる者も"本質"が問われている。
(残念ね、できれば混ざりたかったんだけど)
"おおよそ黒沢の役どころかしら?"と心の中で思いながら、逸れかけた話を本題に戻す。
「本質、と言いつつも今は貴女のバックグラウンドが聞きたいわね。」
「私のバックグラウンド、ですか?近くの高校に通って、そこから地元の大学で4年を過ごしてました。特筆して何かと言えば、グラビアのお仕事ぐらいです。」
簡単な事でも、温度の下がってきた話でも、しっかりと切り分けながら水掫は咀嚼した。言葉だけではない、声のトーンや視線からも得られるモノはある。
「家族とは、あんまり連絡は取ってないです。妹とはたまに取りますけど、弟は…」
「…あんまり?」
「大学の時も開いている時間はグラビアの仕事をしてましたし、そもそも一人暮らしになると"親と"連絡は取らなくなると思います。」
"ごめんなさい、あまりお答えできずに"と、怜子に頭を下げられる。焼きたてで熱かったステーキも、時間が経ってしまえば温くなりやがては冷めてしまう。それでも軟らかく旨味の残った肉は本来の良さを教えてくれた。
(あまり聞いてはいけなさそうな所ね、でも色々とこの子を知る事ができたわ。)
そもそも怜子と話す事自体が、彼にとって"良い肉を食べる事"と同義だったと言っていい。
「少しだけど、貴女と話ができて良かったわ。明日が早く来るといいのに。」
「こちらこそありがとうございました。」
2人とも食べ終わり、ナプキンで口を拭く。皿には終わってしまいそうな時間の虚しさと、戻らないステーキの記憶が残る。
7月の熱帯夜を彩る、冷たい夜空が窓の外に佇んでいた。挟み挟み飲んだワインも、温くなる事なく冷たかった。
「入口まで送るわ、一緒に行きましょうか」
既に会計は済ませてあるらしく、来た道の緊張も忘れて怜子はビルの入り口まで水掫に連れられて行った。そのまま数時間前のクラウンに乗り込み、六本木を離れる。
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