第11話
あの後、マコトくんは手の空いた教師が帰してくれたらしい。米田先生からそう聞かされた。
あたしがあまりにも落ち込んでいたせいか、米田先生はそれ以上何も聞いてこなかった。
あたしは悠斗や他のクラスメイト達から慰められたり励まされたりしたけれど、戻ってこない涼のことが気になって落ち着かなかった。
完全に八つ当たりだったもの。ちゃんと謝らないといけない。
(明日、謝ろう……)
ふらふらと力なく歩いて家に帰り、早めにベッドに入った。今日の自分はダメだった。明日はちゃんと涼に謝って、いつもの元気な時音になるんだ。
そう思って目を閉じた。
夢を見た。
まだ、グロウスに入る前の、小さかった頃。
「おかあさん、おかあさん。あそこに頭から血が出てる女の人がいる」
そううったえてわんわん泣きわめくあたしを見て、おかあさんが困った顔をした。
「時音には、そういう能力があるのね。だいじょうぶよ。学校に入ったら、ちゃんとどうすればいいか教えてもらえるわ」
そうして、能力測定を受けて、グロウスに入学した。
「へえ、お前、霊能力者なのか。本物は意外と珍しいんだよな。お前きっと期待されてるぞ」
同じクラスになった男の子が話しかけてきた。
「俺は手で触らなくても物を動かせるんだ。なあ、一緒に「サイキック」になって、悪い霊とか捕まえようぜ。俺は青瀬涼、よろしくな」
そうだ。あの頃の涼は、「特殊能力者」になって国際特殊犯罪捜査組織に入りたいって言っていた。それに、ちゃんと試験も受けていた。
涼はどうして、試験をサボるようになったんだろう。いつからサボるようになったんだっけ。
思い出したいと思ったけれど、夢の中のあたしは「霊が怖い」と泣くばかりで、いつも涼の背中に隠れているだけだった。
なんだか、今もあまり変わっていないなと思った。
***
寝坊した。
「早く登校して、涼に謝ろうと思ってたのに〜っ」
あたしは泣きたい気分で走って学校に向かっていた。
早く学校に行かなくちゃ。そう思うのに、雑木林の横を通った時、林の中に入っていく人影をみつけてなぜだか足が止まった。
(なんだろう?)
引き寄せられるようにそちらへ目をやると、若い女の人の横顔が見えた。
「あれは……っ」
あたしを突き落とした、あの女の人だ。
思い詰めたような真剣な横顔に、さらに記憶がよみがえる。
(あの人、川を見ていた女の人だ……)
マコトくんを捕まえに行く前に、じっと川を見つめていたあの人だ。
あの人が、あたしを突き落とした。けれど、あの人は霊体じゃない。生きている人間だ。
だけど、突き落とした瞬間の姿は、修司さん達の目に見えなかった。
だとすると、姿を消すことのできる超常能力の持ち主なのだろうか。
(どうしよう)
特殊犯罪捜査組織に通報しようか。いや、でも、修司さん達はあの人の姿を見ていない。川に落ちる直前のあたしが一瞬見ただけでは、人違いだと言われるかもしれない。
その場でしばらくの間、あたしは迷っていた。
「一緒にサイキックになろう」と言った夢の中の涼の顔が頭をよぎって、あたしは意を決して女の人を追いかけた。
役立たずのままでいたくない。
あたしはそれしか考えていなかった。
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