第10話





「時音。心配したよ、だいじょうぶ?」


 翌日、登校すると悠斗が心配そうに駆け寄ってきた。


「だいじょうぶ。マリアさんと修司さんに助けてもらったから」

「本当によかったよ。びっくりしたんだから」

「ごめんね。心配かけて……」

「おい」


 悠斗と話していると、機嫌の悪そうな顔の涼がずかずかとやってきた。


「なんで、一人で洋館に行こうとしてたんだ?」


 じろりと睨みつけられて、あたしは思わず目をそらした。


「だって、マコトくんを帰さなくちゃって……」

「お前が一人で行くことねぇだろ。怖がりのくせに、よけいな真似するからそんな目にあうんだよ」

「涼っ、そんな言い方は……」


 悠斗が注意しようとするが、涼はそれを無視して冷たい声で言った。


「怖がりを治したいんならもっと他に方法があるだろ。よく考えろよな」


 あたしはぎゅっとくちびるを噛んだ。

 確かに、涼の言うとおりだ。だけどーー


「涼にはわかんないよっ!」


 あたしは思わず叫んでいた。騒がしかった教室がしん、とする。


「落ちこぼれトリオなんて言われていても、涼はすごい実力があるじゃん!落ちこぼれなんかじゃないのに、わざと授業サボって落ちこぼれのフリしてるだけじゃない!悠斗だって、方向音痴さえなおせばすごいサイキックになるって先生からも修司さんからも期待されてるし……本物の落ちこぼれは、あたし一人なんだもん……」


 くやしくて涙がこぼれた。


 落ちこぼれトリオの中で、本物の落ちこぼれはあたしだけだ。追試でもいつも何もできずに、涼の背中を眺めて悠斗に守られているだけ。

 箱を持って立っているだけのあたしの気持ちは、涼にはわからない。


「マコトくんを帰しにいくぐらい、一人でできないと……あたしはグロウスの生徒なんだから……もう、あたしのことは放っておいてよ!涼にはあたしの気持ちなんてわかんないんだから!」


 八つ当たりだとわかっていたけれど、口から出た言葉は止まらなかった。涼は少し目を丸くしてあたしを見ていたけれど、あたしが「放っておいて」と怒鳴ると、黙ったまま背を向けた。


「時音……涼……」


 悠斗があたし達の間でおろおろしていた。


 涼は教室から出ていって、その日は一日戻ってこなかった。




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