第2話





 特殊能力者養成機関付属学園グロウス。


 俗に超能力学園と呼ばれる通り、超常能力を持つ者がその使い方を学び社会に役立てるように導くための場所である。

 超常能力の持ち主は必ずこの学園に通わなければならないと国際的に義務づけられており、世界中に同様の学園がある。


 あたし達は初等部の五年生。

 中等部、高等部に進み卒業すると、能力を自在に扱うことのできる『特殊能力者』と認められるための養成機関に所属し、『特殊能力者認定試験』に合格して初めて公的に自らの能力を使うことを許される。つまり、特殊能力を使ってお仕事ができるのだ。


 あたしは『特殊能力者認定試験』に合格するのが目標だ。

 だから、追試は絶対に受けなくちゃ。


「いないねぇ。もう帰っちゃったのかな」


 一通り校内を見て回ったが、涼がみつからない。

 悠斗も困ったようにきょろきょろ辺りを見回して、何かに気づいて声を上げた。


「あ、兄さん」

「え!修司さん?」


 あたしは勢いよく悠斗に食ってかかった。


「どこどこどこ?」

「ちょっと、落ち着いてよ!怖いから!」


 あたしから逃げながら、悠斗は壁の掲示板を指さした。

 そこには、『国際特殊警察組織』のPRポスターが貼り出されており、悠斗のお兄さんの修司さんがモデルとなってポーズを取っている。


「はあ〜……かっこいいーっ!」


 濃紺の制服を着こなしてピシリと立つ姿はその辺のアイドルよりよっぽどかっこいい。


「そんなにかっこいいかなぁ?」

「悠斗は弟だからわかんないのよ!この顔面、さわやかな笑顔、ちょっとイタズラっぽい少年のような瞳!奇跡の超美形!」


 悠斗は大袈裟な、と顔をしかめるが、あたしからすれば毎日こんな超美形の顔を見ていて平静でいられる悠斗の方が信じられない。


「いや、九歳上の実の兄の顔を見ていちいちテンション上がってたらヤバい弟でしょ……」

「あーあ……あたしも『国際特殊警察組織』に入って修司さんの相棒になりたいなぁ」


 ポスターの中で修司さんの隣に立って揃いのポーズを決めている美しい女性を見て、あたしはため息を吐いた。


『特殊能力者認定試験』に合格した特殊能力者にとって、『国際特殊警察組織』は一番人気の就職先だ。

 世界中で起こる霊や悪魔による事件、超常能力者による犯罪を捜査し解決する国際組織で、その活躍はドラマや漫画の題材にもなり子供達の憧れの的なのだ。


 修司さんは最年少で国際特殊警察組織に入織した、すっごい人なのよね。


「先月発売された「月刊サイキック」に修司さんのインタビュー載ってたじゃん!あたし、発売日に買って五十回は読み直したから!」

「うわ……」


 悠斗が嫌そうな顔を隠さずに身を引く。


「去年の悪霊の群れを退治した事件について語ってたの!「みなさんの協力もあって大量の悪霊を捕まえることができました。しかし、逃げた悪霊もいるため、今後も油断せずに職務に励みたいです」って!くぅ〜っ、謙虚!霊能系じゃないのに悪霊に立ち向かうのかっこいい!かっこよすぎる!」

「あたりさわりのない台詞だと思うけど……普通じゃん」


 修司さんのかっこよさを力説するあたしに、悠斗は冷ややかな目を向けるだけだ。

 テンションの上がったあたしだけれど、もう一度ポスターをよく見て、その気持ちがしゅん、としぼんだ。


 修司さんの隣りに映る女性は、その能力と美しさから『人魚姫』と呼ばれる『特殊能力者』で修司さんの相棒だ。時々、テレビにも出演しているからよく知っている。

 大人で美人ですごい『特殊能力者』だ。十一歳の子供で毎回追試に苦しんでいるあたしでは勝負にもならない。


(憧れるだけなら、自由だよね……)


「ほら、時音。行こう」

「うん……」


 悠斗に促され、顔を上げた時だった。

 突き当たりの階段を下りてきた人物と目があった。


 ちょっと目つきのきつい、ひょろりと背の高い少年。


「涼!みつけた!

「げっ、時音、悠斗!しまった」


 涼は慌てて身を翻し、階段をのぼろうとする。


「こら逃げるな!」

「見逃してくれよ、時音、悠斗」

「だめ!涼が逃げるとあたし達まで叱られるんだから!」

「た、頼むよ。俺ら「落ちこぼれトリオ」の仲間だろ?」


 涼が口にしたその名前に、あたしは叫んでいた。


「その名を口に出すなぁぁぁっ!」




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