第8話 薄屋のミンリン

 タケルになって物凄い水流の渦に身体が捻じれるのを堪え、息ができないのも少しだけ我慢すると、色の違う海の中にいた。魚も見たことのない海だ。俺はすぐに海上へと泳ぐ。

 

 ここが水の惑星だ。

 ほぼ水しかない星。

 ここが宇宙のどこなのかは、恐らくわかる人はいないだろう。

 七色の月が三つ昇る星。

 雲は澄み渡り。遥か天空がよく見える。

 

 ここ竜宮城の住まう水の惑星で、俺は波もない大海のど真ん中で浮かんでいた。穏やかな風に撫でられ。どこへ行っていいのかわからなくなり周囲を窺う。


 しばらくすると、俺のところまで遥か東の方から北龍が泳いできてくれた。


「大丈夫か? タケル?」


 北龍は竜宮城から東龍にお願いでもされて来たのだろう。きっと、ここまで俺を気遣って泳いできてくれたんだな。辺りを見回すと一人で泳いできたようだ。東龍は確かに気さくなところがややあるんだった。その逆に北龍は俺と同じく少々真面目過ぎなんだな。でも、とても助かった。


 俺は北龍と大陸の竜宮城へと周囲を覆う大海や潮風の真ん中から戻ることにした。どうやら、水淼の大龍から竜宮城は今のところ無事なのだろう。

 竜宮城の軍隊はことのほか優秀なんだって。

 そう、北龍が言った。

 俺はタケルから元に戻り、海の上を歩いた。時折、後ろの海に今も発生している渦潮を何度も振り返った。


「麻生……またきっと……君と……いつか……必ずな……」

  

 俺はまず竜宮城の城下町へ向かった。

 海の上を歩くのは最初は結構疲れたけど、だいぶ前にもう慣れてしまった。

 数時間後。

 俺と北龍は竜宮城へと辿り着く。海から砂浜へ歩いていると、東龍が大陸の砂浜から少し離れたところにある城下町から走って来た。


 海を歩いている時に北龍から聞いたんだけど、シンと静まり返った城下町には、今は魚人は数少なくなり、代わりに魚人の将たちの武家屋敷がポツリポツリとあるんだって。そこの一つに東龍、四海竜王が住んでいることも聞いた。


「どれだけ強くなった?! もっと強くなったんだよな?! 武よ?!」

「ああ……」

「そうか!! だんだん、戦いが面白くなって来るぜ!!」

「なあ、東龍よ。私も期待しているんだが」

 

 俺の元へ駆けてつけた東龍と海の上からの北龍も俺の強さに期待をしているようだった。

 西龍も南龍までも、渦潮が発生し俺の帰りを知ったようだ。こちらに歩いて来た。

 俺は警戒して後ろを見ると、未だ天と地を繋ぐ壁のような水淼の大龍が佇んでいた。

 だけど、魚人たちの大軍は皆、口から大量の泡を吹いて、水淼の大龍の前に水の壁のような水泡を発生させていた。

 

 どうやら、泡がバリケードのように水淼の大龍の足止めになっている。


 前の戦いで俺たちは惨敗だったが、これで竜宮城は無事だったんだな。


 この大陸から北に数千キロ先にまで行くと。

 敵対している竜王のいる水晶宮は更に遥か遥か北にあるって。

 そこは寒い風の吹き荒れる氷山で覆われた身体の芯すらも凍る場所で。八部衆が守る竜王のその姿は、まだ誰も見たことはないと言われているんだって。


 後ろを見ると、ここからでも水淼の大龍の姿がわかる。雲一つない空へと想像を絶する巨大な一本の水色の柱が海水をまき散らし遥か彼方まで伸びていた。


 北龍から色々と聞いたからわかるんだ。ここではよくある景色なんだって。だけど、退治しないと東龍や乙姫たちは生存できないんだって北龍が熱心に言う。俺でも乙姫たちや龍が水が必要なことはわかるんだ。全ての命の脅威は水を失うだけではないっていうし。それもなんとなくわかる気がするんだ。


 だから俺は決意と共に、居合い腰ではなく。雨の村雲の剣を抜刀し仁王立ちをした。水淼の大龍に背を向け。タケルになって、ありったけの気を開放した。今から龍尾返しを放つ。だけど、まだ未完成のはずだ。


 タケルの気が極限まで高まると、四海竜王や魚人たちが脅威を感じたのか、それぞれ水淼の大龍から物凄い勢いで離れていった。いや、正確には俺や海から離れている。北龍と南龍は人間の姿に戻って、竜宮城の城下町まで走っていった。

 西龍も砂浜に上がり必死に海から離れた。ただ東龍だけは俺の傍で興味津々だった。

 

 俺は振りかぶった。

 

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