第8話

 存在しないはずの神社でもう三週間が経とうとしていました。

 武は幻の剣の初歩を一通り習得した模様です。

 私としては長い三週間でしたが、武にはあっという間だったのでしょう。


 ですが、なにぶんこちらには時間がありませんでしたし、幻の剣は一通りの知識だけのところでも早くに持ってきてほしいのです。

 

 恐らく、今のところ実戦で使える幻の剣は龍尾返ししかありません。


 武は麻生とデートと修行の日々のようで、とても充実していたのでしょうが、とうとう武は水の惑星へと戻ることを決意してくれました。


 サンサンと日光が照らす赤い橋の上に、高取さんに湯築。そして、鬼姫たちが集まりました。波風が多い日で、生い茂る草木が風を受けては揺らぎに揺らぎます。


「武! 頑張ってね!」

「必死で頑張ればいい。死ぬことはないはず」

「御武運を」

「幻の剣。思いっきり見せてやりな」

「ご無事……を」

「ご無事を森羅万象に祈りますね」


 湯築。高取さん。鬼姫。蓮姫。地姫。光姫。みんなの応援に武は頷きました。

 

 それから、武は麻生に真摯に向くと、


「行ってくるよ!」

「武! 頑張ってね!」

 麻生はいつものように明るい笑顔で手を振りました。


 私は早速、武たちの前方の海に渦潮を発生させました。

 轟々と海に穴が空いたかのような中心ができ、水の円が描かれていきます。

 これで惑星へと私たちは戻れます。


 そして、天敵である水淼の大龍と私たちの決戦になるでしょう。


 ここは水の惑星。

 水しかない星です。

 ここが宇宙のどこなのかは、恐らく宮本博士でもわからないのでしょう。

 七色の月が三つ昇る星です。

 雲は澄み渡り。遥か天空がよく見えます。

 さあ、ここは竜宮城の住まう水の惑星です。タケルは波もない大海の真ん中に浮かんでいました。穏やかな風に撫でられ。海水の上を浮かんでいます。おや、タケルは遥か遠い星から星への移動で渦潮から上がる時に気を失ったようですね。無理もありません。ですが、それでもすぐに戦って欲しいのです。

 しばらくすると、タケルのところまで北龍が泳いできました。


「大丈夫か? タケル?」


 北龍は大陸から東龍にお願いでもされたのでしょう。ここまでタケルのためにと気遣って泳いできたのでしょう。辺りを見回すと一人で泳いできたようです。東龍は気さくなところがややあります。その逆に北龍は少々真面目過ぎなのです。


 北龍がタケルの背を何度か叩くとタケルは気がつきました。北龍はそのまま武を連れ大陸の竜宮城へと戻りました。どうやら、水淼の大龍から竜宮城は今のところ無事なのでしょう。

 私の軍隊はことのほか優秀なのですね。

 タケルは武に戻りこちらへ海の上を歩いてきますが、時折、後ろの海に発生している渦潮を何度も振り返ります。

「麻生……またきっと……君と……」

 と、呟いています。

 

 武には申し訳ありませんが、仕方がないのです。ですが、訳は後で話しますが、これも地球のためでもあります……。

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