第5話

 次の日。


 大広間では、武は隅っこで朝食を食べていました。私の知っている限り。四海竜王や私たちと戦った武士たちや巫女たちは、この時期にはみんなそれぞれの国に帰るのです。

 

 今の大広間には、数人の巫女と鬼姫、蓮姫、地姫、光姫しかいません。光姫は更なる日本の危機だと言って、高取家からここ存在しないはずの神社まで遥々歩いて来たのです。

黙々と食べている武は、本星からヤマトタケルとなり渦潮を使い。ここまでようやく来ました。本星は当然、今も地球へと可能な限り近づいているのです。


 時に、地球はやはり繭のような厚い雲によって覆われ、雨こそ降らないのですが、いずれ水海と化すでしょう。


 ここまでして、武は本星を救う決意をしました。

 当然、幼馴染のためです。


 水淼の大龍には、実は大きな意志というものはありません。龍と同じく誰かが使役しているのでしょう。

 それがわかれば居ても立っても居られないのが、武なのです。


 ここ存在しないはずの神社に来る前に、一目会いたかったはずです。幼馴染の麻生 弥生と……。


 ですが、時間がありませんでした。

 そこで、武は私に一枚の手紙を渡しました。

 そうです。麻生 弥生という命よりも大切な幼馴染に渡してくれとのこと……。ですが……。


 大広間の松や竹の模した襖が開きました。

「武!!」

 武は開いた襖に目を向け、びっくり仰天しました。


 そうです、麻生 弥生です。

 私がいち早く。鳳翼学園へと向かい。手紙を渡そうとしてオロオロとしていると、高取さんに会いました。「渦潮を使えばいいのに……。麻生さんも行きたくて……もう、準備をしている」とのことでした。すでに、高取さんは何もかも知っていたのです。


 大広間で、武と麻生は抱き着いています。

 昼食の膳が幾つかひっくり返っていますが、私もそれを見てしばらく泣いてしまいました。


 やっと、会えたのでしょう。

 二人とも無言でした。

 そう、いつまでも……。

 

 何やら、恐ろしい威圧感を後ろから受けますが、きっと鬼姫が焼きもちをやいているのでしょう。でも、ここはこのまま。

 

それからかなり経って感動的な再会の後です。

 武は神社の外へ居ました。


 私には早くに水淼の大龍に打ち勝つ力が欲しいのです。

 何故なら……理由は後にしますが、武には一分一秒でも早く本星へと戻ってほしいのです。

 武もそのつもりのようです。


 丁度、昼の15時頃。


 鬼姫と蓮姫は武装して、武と大海の前にいます。存在しないはずの神社から小舟を漕いで、少し離れた小島に来ました。


「では、武様。しっかり見ていてくださいね」


 そういうと、鬼姫は数打ちの刀で、一度大海に背を向け、振り向きざまに大地を踏んで刀を振り下ろしました。


「えい!」


 鬼姫の掛け声とともに、天と地を一周したかのような刀の軌道から発せられる気は、大気を震わせ大海のど真ん中に、ガコンとまるで空気の拳で殴ったかのような大穴を開けました。 


 海が悲鳴を上げる。

 大穴からは、両脇へと海水が物凄い勢いで噴出していきます。

 なんと、大海は全て消え去り、断末魔と共に大地が見えてきました。

「これが……幻の剣。龍尾返し……」


 轟々と音のする大海の大穴からは、珊瑚やカニやウニまでがここから見えています。

 少し額に浮き出た汗を拭って、鬼姫はニッコリと微笑んで武を見ました。

「すぐに覚えられそうですか?」

「武なら大丈夫だね」

 蓮姫が武の肩をポンと叩きました。

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