第6章 そんなはずないのオンパレード ⑤
今日はバイトがないんで、そのまま〈生徒会〉の本部に向かった。
ちょっと早いけど、誰かとしゃべっていれば時間をつぶせる。
(そういや響貴のこと、どうすっかな…)
七桜に言った通り、響貴に変わった様子はない。探りを入れるのはどう考えても難しかった。
もし彼女に何か目的があって、俺に適当なことを吹き込んでいたら?
あるいはどこかタチの悪い情報源があって、彼女がそれを真実だと信じ込んでいるだけだとしたら?
妙なことを言い出した俺のほうが疑われる。
何しろ響貴はにわか幹部の俺とはちがう。英信の幼なじみで、〈生徒会〉起ち上げ時からの主要メンバーで、実務の総責任者。実質的には明らかに副会長の崇史より上の立場なくらい。
(もし言うとしたら…やっぱ二人きりになったところで、顔を見ながら遠まわしに反応をうかがうしか…)
つらつらと考えながら廊下を歩いていた、その時。
「おい」
すれちがいざまに突然、崇史に話しかけられて飛び上がった。
「――――な、なに…?」
内心動揺しまくる俺に、崇史はカバンをごそごそした後で「作りすぎたから」と、アルミホイルに包んだ何かを渡してくる。
「これ…」
「キャロットケーキだ」
あくまでクールに、崇史は答えた。
「………」
いかん。頭が事態についていかない。なんで俺、こいつにケーキもらってんだ?
「〈生徒会〉の活動について、家族の理解を得られないメンバーは大勢いる。気を落とすな」
そう言うと、崇史は俺の肩をたたいて去って行く。
家族と喧嘩して翔真の部屋に転がり込むことにした云々の話が耳に入ったのか。
「マジか…」
ありがたいような、困惑するような、なんとも微妙な気持ちでアルミホイルの塊を見つめていると、立ち去ったばっかりの崇史が戻ってきた。
「斗和。英信が呼んでる。今すぐミーティングルームに集合だ」
※
地下三階のミーティングルームには英信と結凪がいた。亜夜人と響貴は姿が見えない。
俺がドアを閉めると、長い足をテーブルの上にのせていた英信が、不機嫌そうににらんできた。
「夜まで待てない。今すぐ確かめなきゃなんねぇことができた」
「何を?」
「響貴の家だ」
「……っ」
変な声が出そうになるのを、何とか堪えた。
結凪は意味がわからないって感じで訊き返す。
「どういうこと?」
英信は、俺が七桜から聞いたのと同じことを説明した。でも七桜の話より少しだけくわしい。
響貴が〈リスト〉に名前の載ってるゴキブリを自宅にかくまっているという情報があること。
いざという時には、パントリーの床の下にある穴に隠れるよう指示しているらしいこと。
「パントリー?」
「台所の横にある食料品庫だ。…業者を入れると情報が漏れるからって、あいつが夜な夜な自分で穴を掘ったんだってよ」
英信は難しい顔でうなる。
「…なるべく騒ぎにならないよう、俺が自分で行くかとも思ったけど――地下のネットワークじゃけっこう話が広まってるらしいから、いずれ〈生徒会〉の末端メンバーの耳にも入るかもしれない。その時、俺がひとりで動いて確かめたって言ったところで、みんな納得しねぇだろ」
「…それで?」
崇史の問いに、英信は俺を見た。
「――斗和」
「俺?」
「響貴と一番付き合いが浅いのはおまえだ。翔真の班を連れて、おまえが行け」
「…わかった」
こわばった顔でうなずくと、英信はテーブルから足を下ろす。
「あいつの親は共働きで、帰宅は毎日遅い。通いの家政婦がいるが、午後の三時には帰る。今、亜夜人が響貴を適当に連れまわしてるから、本来なら家は留守のはずだ」
説明をしながら、ポケットから出したキーホルダーをテーブルの上に放り出した。
鍵と、人差し指くらいの大きさのリモコンがついている。
「あいつんちの合い鍵だ。誰もいないことを確かめてきてくれ」
「――――」
俺はキーホルダーを手に取った。
「…もし、仮に誰かいたらどうする? この時間じゃ人目があるかもしれないけど――」
今は午後五時。七月だし、夕方といってもまだしばらく明るい。〈生徒会〉の活動をするには時間が早すぎる。しかし――
「いねぇよ」
英信は俺の懸念を撥ねつけた。どえらく不機嫌そうに吐き捨てる。
「いるわけがねぇ。俺達を嵌めて、仲間割れさせようとしてる、くだらねぇ噂だ」
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