第3章 駆除は数こなせば慣れる ②
現在、唐京〈生徒会〉は総勢七百人ほど。本部の他に九つの支部。
末端は班ごとに動き、ひとつの班が五人前後で構成されている。
といっても全部が全部、駆除のための班ってわけではなくて、事務やその他の業務を手がける班も多い。
各支部の班を束ねるのが支部長。
この本部だけは支部長のいない、唐京〈生徒会〉を率いる五人の幹部の直属だった。
会長は
副会長が
総務担当が、イケメン眼鏡の
広報担当が、
そして情報担当が、
「中学生が幹部で、オッケーなんすか?」
翔真の問いに、中井先輩はうなずく。
「あいつは特殊な仕事してるから」
「特殊?」
「だから情報だよ」
そもそも〈生徒会〉の駆除対象は、首相暗殺事件のときに警察がテロリストの家から押収した〈リスト〉――警察が呼ぶところの〈反社会的組織のメンバー、及び支援者リスト〉の中に名前が載っている人間だ。
あとは市民から「言動が怪しい」って通報のあった人間。
そういう連中の所在を突き止め、行動パターンを探り、襲撃が絶対に失敗しないようお膳立てするのが情報部の仕事ということだった。
で、IT関係に強い亜夜人はそういうのが天才的に得意であるらしい。
「ま、それはそれとして、翔真と斗和は俺の班に入る。で、俺の班の直属の上司は響貴」
「ってことは俺ら、総務?」
オレが訊くと、美穂子先輩が「そうよ」と笑った。
「広報と情報収集以外は全部総務。仕事は色々あるけど、新人のうちは駆除に慣れること。それに尽きる」
その後、他の班員がコンビニで買った食料を持ってきて、みんなで夕飯にする。
中井班は、俺と翔真、それから紅一点の美穂子先輩と、あとは二年の
「先週までもう一人いたんだけど。一八になったんで卒業した」
「よかったよ、二人が来てくれて。四人だと大変で…」
竹地も宮野も他校の先輩。いちおう挨拶するとき「先輩」ってつけたけど、「かゆいから止めろ」って言われたんで、そのまま呼びで。
ちょいちょいお互いのことを話して、うち解けたところで、美穂子先輩が手をたたいた。
「さぁ、ちゃきちゃきご飯食べて出るよ!」
この班は実質、彼女が仕切ってるらしい。
食べ終えてゴミを捨てに行った時、柱についてた等身大の鏡に映った自分の姿に、足を止めた。
黒いジャケット。胸には剣と天秤のエンブレム。
なんだか…見慣れない。居心地の悪い思いで、翔真と目を見合わせる。
「…ま、そのうち板についてくるよ」
席に戻ると、うちだけじゃなくて、そろそろ出ようって感じの班が幾つか集まってた。
バスケの試合の前と同だ。緊張感と昂揚感、両方が伝わってくる。じっとしてられないような、そわそわと落ち着かない気分。
そんな班員をよそに、班長達はスマホ片手に打ち合わせをしていた。
「あ、そいつ、この間うちの班が駆除し損なったGだ」
「ハハッ。うちが今日きっちり潰してやるよ」
「すげー逃げ足速い上に身軽だから気をつけろ。中井んとこのは?」
「元SEだって。体力なさそうだしチョロいと思うけど…新顔ふたりいるから、無難に行くわ」
どうやら駆除の対象になるゴキブリは、〈生徒会〉の上が選んで、班長に獲物のデータが送られてくるらしい。
夕方の八時を過ぎた頃になって、班長達が、その場にいる班員を集めた。
「英信も言ってた通り、G退治は誰にも見られないようにするのが鉄則だ。世間が見て見ぬふりできる範囲内で活動しなきゃならない。それが〈生徒会〉の絶対的なルールだ。できないヤツは強制退会。いいな?」
ひとりの班長の言葉に、「はい!」って全員で返事をする。
「うまくできない仲間に対しては、みんなで励まし、アドバイスをすること」
「はい!」
次に中井先輩が口を開いた。
「失敗しても気にするな。もし失敗したやつが周りにいたら、みんなでフォローしろ。俺達の使命は特殊だ。最初のうちはできなくてもしかたがない」
「はい!」
「大事なのは、やり遂げること。そのために力を合わせろ!」
「はい!」
「みんなを守るために!」
「守るために!」
「この国を守るために!」
「守るために!」
「俺たちは!」
〈生徒会〉!
「louder(大きな声で)!」
〈生徒会〉!
「louder(大きな声で)!」
〈生徒会〉!
活動内容はともかく、このコールには、文句なしに興奮させられる。気持ちよく煽られる。
たぶん他のメンバーも同じはず。
「よし、行くぞ!!」
班長の声に、オォォ!! と勇ましく叫び、メンバーは出口に向けていっせいに動き出した。
といってもいきなり駆除に向かうわけじゃなくて、最初はゴキブリによる追いはぎや空き巣が多発してる地域のパトロール。実際、これでゴキブリにねらわれた人を助けることも多くて、〈生徒会〉が世間から支持を受ける理由のひとつになってるらしい。
三、四時間歩きまわって、人通りの少ない時間になってからが駆除の始まりだった。
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