第17話 城攻め
「――襲撃開始だ」
俺は地面を勢いよく蹴って、城門をくぐり抜けた。
両手に剣をかまえながら、全速力で城砦の中庭を駆け抜ける。
さっそく音や匂いを察知したらしく、蟻の巣をつついたようにコボルトたちがわらわらと出てきたが……まったく臨戦態勢が取れていない。
武器だけは持ってきたようだが、防具をつけていないものがほとんどだ。いつもは活動していない昼間だからということもあるのだろう。
「城砦のわりには、ずいぶんと無防備だな」
『……ま、城砦といっても、誰かが攻めてくるはずないものね。そんなことすれば、“王”に反逆することにもなるし。それもまさか、
「そんなものか」
とはいえ、さすが統率力に優れたコボルトといったところか。
しばらく進んだところで、突然――。
かかかかか――ッ! と。
俺に向かって矢が降り注いできた。
とっさに矢を斬り捨てながら周囲を見まわすと、道の先に弓をかまえたコボルトたちの一団が待ちかまえていた。
いや、正面だけではない。背後にも、側面にも、建物の屋根の上にも……どこからわいてきたのか、そこら中にコボルトの弓兵がいる。
弓兵の数が多いだけあり、矢の雨は降り止まない。
おそらくコボルトたちが放ってきているのは毒矢だろう。
コボルトは力の弱さをカバーするために、毒性のある金属を武器に塗っていることが多い。できれば食らいたくはないものだ。
「……数の暴力か」
念のため確認するが、出てきた魔物はコボルトだけ。
レベル5のザコが数をそろえたところで、レベル53の差はくつがえらない。
俺は走る勢いそのままに、地面の土を蹴り上げた。
「――
風属性の初級魔法を唱える。
渦状の風を巻き起こし、飛んできた矢を吹き散らすとともに、土埃をコボルトたちに浴びせかけた。
ぎゃんぎゃん――ッ! と吠えるコボルトの群れ。
その隙に……。
「――
風属性の上級付与魔法を発動。
剣から放たれた真空波が、正面のコボルトを数匹まとめて斬り捨てる。
コボルトのような犬系や狼系の魔物は、敵を包囲するときに権力順で並ぶ習性がある。獲物の正面にいるものほど権力が高く、獲物の背後にいるものほど権力が弱い。
つまり、正面にいるコボルトをまとめて潰せば、指示を出せるリーダー格がいなくなり、群れの統率はあっさり瓦解する。
混乱しているコボルトたちを尻目に、俺はさらに先に進む。
これだけの数のコボルトを相手にしている暇はない。
ザコを蹴散らすのはあとでいい。
俺の目当てはあくまで、このコボルトたちの首領――人狼だ。
人狼はずる賢い魔物で、不利を悟るとすぐに逃げるからな。
だからこそ……逃げる時間を与えない。
人狼のもとまで一直線に向かい、短期決戦で仕留めてみせる。
「――
左目に手を当てて、光属性の付与魔法を発動する。
視界内の魔力反応を色で識別することができるようになる魔法だ。
長時間使うと魔力を消耗するが、だいたい人狼の居場所には目星がついていた。
コボルトは地下などの真っ暗な環境を好むのに対して、人狼は月光を浴びることを好む。
となれば、採光用の窓がある部屋は、人狼専用と見ることができる。
それと、夜行性の人狼が昼間から活発に動き回ってるとも思えないし、この時間帯は屋内にいるとすれば……。
「……やっぱり、城の最上階か」
『見つけたの?』
「まぁ、予想通りの場所にいてくれてよかった」
城の最上階にある部屋の中に、ひときわ大きな魔力反応が視えた。
コボルトの反応とはあきらかに違う。
人狼のもので間違いないだろう。
「敵の居場所がわかれば、あとは楽だな」
『……? 城の入り口はあっちよ?』
「いや、入り口ならあるだろ? あんなちょうどいいところに――窓がな」
俺は“
そのまま、城の壁を足で蹴り――駆け上がる。
わざわざ敵のいる建物の中に入ってやる義理はない。
錆びた鉄格子がかかった、人狼の部屋の窓。
そこに向かって、俺は両手の剣を思いっきり振りかぶった。
「――
剣を強靭化させると同時に、窓を鉄格子ごと十字に斬り裂く。
けたたましい音ともに壁やガラスが砕け散り、辺りに瓦礫が飛散する。
壁にうがたれた穴から、俺は部屋の中へと飛び込んだ。
床を転がりながら体勢を整えて、正面を見すえると――。
――そこに、いた。
「…………あァン? なんだァ……さっきから、うるせェな……」
謁見の間を思わせる広間の奥に、人骨の山が築かれていた。
その上にどっかりと腰かけているのは、銀色の毛並みをした二足歩行の狼だ。
その手には、串焼き肉かなにかのように――人間の腕が握られている。血のしたたる新鮮な人肉を、骨ごとばりばり食べている。
その額には、“46”を示すレベル刻印。
――
まさにこいつこそが、この城の主だった。
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