第10話 七魔王から人類を救ってみた

 食人森でミコりんと冒険者活動をしていたら、七魔王・第5席――樹王ユフィールとエンカウントした。


「しかし、我が君は……このような場所で、いったいなにを?」


 ユフィールは敬礼した姿勢のまま、不思議そうに首を傾げる。


「我が君が自ら動かれるとは、よほどの事態が起きていると愚考いたしますが」


「そ、それはだな……」


 さすがに部下の前で、『皇帝しごとやめて、未成年の女の子と遊んでました』とは言えない。

 なんと言い訳したものか、と言葉を濁していると。


「我が君のことです。さぞ、崇高な目的のために動かれているのでしょうね。正しい生物を選別し、この星にはびこる人類うみを洗い流すなど……」


 と、ユフィールが目をキラキラさせながら、さらっとハードルを上げてくる。


 ……俺への崇拝が重い。


 俺、さっきまでカブトムシ探してたんだが……。

 まあ、ユフィールを初めとする七魔王の多くは、俺が【魔物創造】スキルで0から作り上げた魔物だ。七魔王のやつらにとって、俺は神みたいな存在なのかもしれない。

 俺は溜息をついてから、半分だけ正直に答えることにした。


「いや、皇帝をやめたから、その報告に来たんだよ」


「……はい?」


 ユフィールが笑顔のまま固まった。


「今、なんと……?」


「皇帝やめてみた」


「な、なぜですか!?」


 ユフィールの感情とリンクしているのか、ざわざわと森が震えだす。


「我が君は、あれほど帝国のために心血を注いでいらしたのに!」


「それが、革命軍にクーデターを起こされてな。なんか、もういいかな、と……」


「革命軍……? クーデター……?」


 ユフィールの全身から、どろどろとした黒い瘴気がほとばしる。


「ふふ、ふふふふ……愚かな人間どもめ。こんな国、我が君がいなければ……ふふ……とうの昔に滅んでいたというのに……ふふふ……やはり、あの下等生物は根絶やしにしなければダメだ……ふふふふふ……」


 ユフィールの瘴気で、さぁぁぁ……と森が枯れていく。


「あ、まずい……」


 これは、国どころか本当に人類がやばいパターンだ。

 ユフィールは七魔王では第5席――つまり、純粋な戦闘力では七魔王の中で5番目だが……【植物操作】スキルの応用で世界中に感染爆発パンデミックを引き起こすこともできるし、人間の栽培している作物を全て枯らすこともできる。


 人類を絶滅させることに関しては、七魔王の中でも随一の力を持っていると言えるだろう。この世界の人間はまだ低レベルだし、本当に人類が根絶やしにされかねない。


「お、落ち着け、ユフィール。皇帝をやめたのは俺の意思だから。仕事に疲れて転職したくなっただけだから」


「し、しかし……」


「それに勘違いするなよ。皇帝をやめたとはいえ、ノア帝国が“俺のもの”であることには変わらん」


「む……なるほど」


 ユフィールは一応、納得してくれたらしい。

 異形の右手で、ぱしんっと指を鳴らした。

 すると、枯れていた森が、ぼふんっと一瞬で葉を生い茂らせる。


「……愚かな人類よ、我が君の寛大さに感謝するがいい」


 こうして、人類は滅亡の危機から救われたのだった。

 いや……なんで、元ラスボスが人類救ってるんだ。


「しかし、我が君は今後なにをなさるご予定で?」


「まだ、はっきりとは考えてないな。とりあえず、“自由に生きる”ということだけは決めているが」


「では、影から世界の支配でもしてみますか? そして、人類の虚栄に終止符を」


「人類滅亡ルートに誘導するな」


 だが……なるほど、影から世界の支配か。


「……意外と、悪くはないのかもな」


 人類滅亡は抜きにしても、なかなかに面白そうだ。

 それに俺がぶっ壊したストーリーが、どう転ぶかわからないしな。『レジノア』のストーリー的に、下手するとすぐに人類滅亡エンドになりかねないし、できれば世界をコントロール下に置いておきたいというのもある。


「ふむ、少し検討してみよう」


「おお! ついに、その気になってくださいましたか、我が君!」


 ユフィールが顔をらんらんと輝かせた。

 ここ数年で一番いい顔してるぞ、こいつ。


「といっても、人類滅亡はなしだぞ。それと、面倒なことや退屈なこともなしだ」


「それでもかまいません! ええ! 人類滅亡がまた一歩近づいたと思えば!」


「お前、人類になにかされたの?」


 まあ、具体的なプランはいっさいないが……なにをするにせよ、しばらくは自由気ままに遊んで暮らしながら考えるとするか。


「とりあえず、七魔王には……今後、影からノア帝国の防衛をしてもらおう。お前たちが急にいなくなると、国の守りがぼろぼろになるからな」


 ノア帝国は、俺が長年必死になって守ってきた国だ。あっさり滅ぼされるのは、俺の今までの苦労が全て無駄になるようで気に入らない。

 ただ、主人公アレクが皇帝になったあとも、堂々と七魔王に守らせるわけにもいかないしな。アレクの配下に七魔王がいると思われたら、俺のときと同じ轍を踏むことになってしまう。

 だから、あくまで影からこっそり防衛だ。


「それに関しましては、私は問題ありません。我らが守ってきた土地を、人間ども(愚か)に任せるほうが抵抗もありますから」


「そうか。そう言ってもらえると助かる」


「それはそうと、我が君……今後は、ぜひ第4席をお側におつけください」


「第4席というと、プリモか?」


 七魔王・第4席――破壊王プリモ。

 その二つ名の通り、あらゆるものの破壊に長けた魔王だ。


「彼女はなにかと便利な魔王ですし、配下の軍団をしているため身軽に動くことができます。そして、なにより……第4席のスキルを使えば、いざというとき、すぐに七魔王と連絡を取ることができますので」


「む……? あいつ、そんなスキル持ってたか?」


「はい。七魔王はそのスキルによって、第4席を中心とした連絡網を構築し、国防に関する情報などを共有しているのです」


「へ、へぇー」


 ……そんな連絡網あるって、初めて聞いたんだが。

 というか……国防に関する情報なら、俺もその連絡網に入ってるべきじゃないの? 声をかけられることすらなかったんだが。

 ……え? 俺、ハブられてるの?

 いや、べつにいいけどさ……。


「では、これからプリモと合流することにしよう」


 どのみち、七魔王には現状を報告しないといけないしな。下手に混乱させると、ユフィールみたいにうっかり人類を滅ぼしかねないし。

 連絡係のプリモと合流するのは賛成だ。

 そう、今後の方針が決まったところで。


「…………んぅ」


 倒れていたミコりんが、ぴくりと身じろぎをした。

 そろそろ、目が覚める頃合いかもしれない。


「さて、この状況をなんと説明したものか……」


 俺が求めているのは自由気ままなセカンドライフだ。とくに意味もなく悪目立ちするのは避けたいし、できれば“なにもなかった”ことにしたいが……。

 言い訳材料を求めて、辺りをきょろきょろと見回してみると。

 ふと、ミミックマンションの側に生えている紅茶の材料Bシュガーマッシュが目に入った。

 シュガーマッシュ……胞子によって獲物に甘い幻覚を見せ、自分のもとへ引き寄せる魔物か。


「くくく……そうだ、いいことを思いついたぞ」


 これはユフィールと合流できて、逆によかったかもしれない。



「――おい、ユフィール……モーリュ草って、作れるか?」





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◇樹王ユフィール

Lv85 HP:22万 MP:2万

攻撃:S 防御:S 魔力:SS 速度:A

知力:S 器用:B 魅力:A 幸運:S


・ボス戦時の使用技(所持スキルとは別)

○パッシブなど

【マルフトの樹界】:フィールドを【樹界】にする。

【イェソドの根】:フィールドが【草原】【森】【樹界】のとき毎ターン回復&累積バフ。根のHPが残っている限り、本体は何度でも蘇る。

【ダアトの幹】:状態異常耐性。

【木霊】:常時、魔法&音系スキルを反射する。

○通常時

【ホフマの実】:植物系の魔物を召喚。

【ネツァフの蔓】:単体攻撃。束縛状態。

【ホドの葉】:全体、斬撃攻撃。

【グヴァの粉】:全体、暗闇・麻痺・毒状態。

○HP半分以下で追加

【成長】:第二形態になる。2回行動になる。

【ケテルの枝】:単体即死級ダメージ。HP・MP吸収。近接のみ。

【ビナの種】:全体、60秒後に即死級ダメージ。

【ティファレトの花】:全体、混乱・魅了・暴走状態。

【ヘセドの蜜】:自身、HP・状態異常・デバフ回復。


種族:ワールドトレント(SS)

……星の意思によって生まれた世界樹の化身。人類を観察し、この星に必要かどうかふるいにかける。エルフ族からは森神として信仰されている。

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