第28話 砦急襲と装備倉庫
セラさん率いるエムド伯騎士団と合流してから、一晩経った早朝。
太陽もまだ顔を見せていない薄明の下。
僕たちは裏装備ギルドの根城近くに陣取っていた。
裏組織の根城というと、洞窟や小屋みたいなものを想像していたけど、実際に僕が見たのは――。
――堅牢な砦だった。
「すごいな、これは……」
『裏組織のアジトにしとくには、もったいないわね』
セラさんの話では、数十年前に使われていた廃砦を裏装備ギルドが補修して使っているらしい。昔の廃砦をここまでしっかり補修できるという点でも、裏装備ギルドの力がうかがい知れる。
「ノロア殿」
と、そこで、セラさんがやってきた。なにやら回復薬の小瓶を持っている。
「あ、セラさん。それは?」
「支給品の回復薬だ。ノロア殿には必要ないかもしれないが、念のためわたしておく」
「ありがとうございます」
回復薬なら自前のものがあるけど、多いに越したことはない。小瓶程度なら荷物がかさばることもないし。割れないように鞄の中の瓶ケースにしまっておく。
「それで、そろそろ攻めますか?」
「その予定だ。ノロア殿の準備はできているか?」
『できてるわ! ばっちりよ!』
なぜか、ジュジュが僕の代わりに答える。そういえば、ジュジュはさっきからストレッチとかしまくってたけど、暴れるつもりじゃないよね……?
「まあ、ジュジュの言う通り、僕ならいつでもいけますよ」
「そうか、さすがだな」
セラさんが満足げに頷く。
まあ、僕は今回の作戦の要みたいなポジションを任されてるからね。
僕がなにもできないと、逆に作戦が狂ってしまう。
ちなみに、今回の作戦の大まかな流れは、次の通りだ。
――夜中のうちに砦に接近し、早朝に急襲をかける。まず僕が血舐メ丸で砦の壁を破壊し、それから短期決戦で砦を落とし、敵のボスが逃げる前に捕まえる。
と、こんな感じだ。少しシンプルというか安直な感じもするけど、わかりやすくていい。
もともと昼間に攻撃することも考えていたようだけど、裏装備ギルドの警戒心が強く、昼間でも跳ね橋が上がっているため断念したらしい。夜間にこっそり忍び込んで、内側から門を開けるという方法も、見張りの多さのために断念。
その結果もあって、この無難なプランAに落ち着いたんだとか。
もっとも、このプランAでいくことにしたのは、僕の存在も大きいようだけど。
ちなみに、シルルは上空からの見張り役だ。セラさんたちの前で竜化を解くわけにもいかないし、竜化状態だと砦の中を移動できない。というわけで、敵のボスが逃げないように見張ってもらうことにした。
「――団長、隊員の布陣が整いました。合図があれば、いつでも攻撃できます」
セラさんの部下が報告に来る。
「じゃあ、ノロア殿……頼む」
「わかりました」
セラさんが信頼したように肩を叩いてくるのが、少しだけこそばゆかった。
うれしいんだと思う。今まで誰かに頼られたことが、あまりなかったから。
『一発かましてやりなさい!』
「うん」
僕はこっそり茂みから出て、砦の前に立った。
目の前に立ちはだかるのは、見上げんばかりの重厚な壁。こちらにのしかかってくるような威圧感を覚えるが、心の水面は不思議と静かに凪いでいた。
目を閉じて、血舐メ丸に手をかける。
「……ふっ!」
抜刀。
それだけで、事は済む。
素早く刀を鞘に納めて目を開くと、すでに砦は崩壊していた。壁は大部分が綺麗さっぱり消え去り、立ち並んでいた塔も瓦礫の山と化している。
早朝の突然の急襲に、砦がにわかに騒がしくなった。ただ砦の壁を壊しただけだが、
『ま、こんなもんでいいんじゃない?』
「そうだね」
血舐メ丸を振り回せば、この砦を完全に消し去ることもできるだろう。だけど、そうしてしまったら、ギルド員を捕縛して情報を得ることができなくなる。僕としても、この砦にあるという〝表に出回らない装備〟を壊すのは避けたいところだった。
「あ、あいかわらず、でたらめな威力だな……」
セラさんが血舐メ丸の一撃に、ぽかんと口を開いている。
周囲の騎士たちも、唖然としたまま固まっていた。
「あの、セラさん。合図は?」
「あ、ああ、そうだった……皆の者、突撃ぃっ!」
そうして、エムド伯騎士団と裏装備ギルドの戦いの火蓋が切られた。
騎士団が一糸乱れぬ統率された動きで、砦に乗り込んでいく。
ギルド員たちがそれに応戦しようとするが、早朝ということもあってか、まともに装備をしていない人も多かった。騎士団の圧倒的優勢のまま、またたく間にギルド員たちが捕まっていく。
「はぁぁっ!」
セラさんもやはり騎士団長というだけあり、活躍が目覚ましかった。九本に枝分かれした蛇腹剣のような鞭を起用にふるい、九本それぞれを意思のある生き物のように動かしている。それぞれの鞭が別々の敵を叩き伏せていく様子は、いつまで見ていても飽きない。
なるほど、複数攻撃用の鞭か……初めて見たけど、すごい萌えるね。あのくねくねしてるやわらかそうなボディとか、ちょっとエロすぎる。心がぴょんぴょんするってレベルじゃないぞ。
『……なに、他の装備にデレデレしてんのよ』
「あだだっ」
ジュジュに耳を引っ張られて、我に返る。
ジュジュって意外と力があるから本気で痛い。
『あんた、自分の目的を忘れてないでしょうね?』
「も、もちろん。呪いの装備を見つけることでしょ」
だからこそ、僕はこの裏装備ギルドの襲撃に参加したのだ。
『それをわかっていながら、戦場で鼻の下伸ばしてたの? 馬鹿なの? 死ぬの?』
「ご、ごめん」
『ま、いいわ。とっとと呪いの装備探すわよ。
「うん……そうだね」
呪いの装備に関わっているところを、騎士団の人たちに見られたくはない。それに騎士団が先に呪いの装備を見つけるのも都合が悪い。
さっさと目的を済ませておくか。
僕は羅針眼の針が指すほうへと足を向けた。
「……ここかな?」
しばらく針に従って歩いていくと、半壊した建物にたどり着いた。壁や屋根などがところどころ剥がれ落ちていたが、それなりに頑丈に作られていたのか、なんとか瓦礫化はしていない。
『とりあえず、入ってみましょ』
「うん」
幸い、周囲には誰もいない。
僕は倒れた扉を足場にして、建物の中へ入った。
「うわぁ……」
思わず、感嘆の声が漏れる。
建物の中には、大量の装備が並べられていた。
おそらく、ここは装備の倉庫なんだろう
見回してみると、心なしか黒っぽい装備が多い気がする。見るからにワルっぽい装備の数々。セラさんが言ったように、表では出回るようなタイプの装備ではない。
「ふふふ、天国はここにあったのか……」
『え? なに、いきなり……怖い』
ああ、どこを見ても、装備、装備、装備……。
これは興奮が止まらない。この光景を見れただけでも、ここに来た価値はあった。
問題は、どこに呪いの装備があるかということだけど……。
そう考えながら、倉庫内を見回していたときだった。
「――だ、誰だっ!?」
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