第8話 Aパート
第8話
Aパート
最終枠
開幕の外郎売チャレンジ、何度か詰まり完走。「あれは奇跡だったのかな?」と言って笑い、最終枠を始める。
最終日となり、「最初は辛かったけど、みんなに出会えて、楽しんでもらえて、こんなにも支持されて、今となっては今日で終わってしまうのかと思うと、とても寂しいです」と改めてリスナーへ感謝を述べ、自分の現状とオーディションへの思いを嗚咽混じりに語る紅葉。
本戦進出はできなくても仕方がないとは思っているが、自分のために自分を応援してくれる人のために最後まで希望は捨てず全力で走り切ると宣言する。
改めて挨拶&自己紹介、企画の発表をカワボで行う。
『男だって美少女になれる! 崖っぷちバ美肉限ヲタライバー♂ツクモ♀プレゼンツ 変身美少女アニソン限定耐久カラオケ!!』
リスナーからの応援と拍手
「それでは最初の曲は僕が子供の頃にハマってオタクへの道を歩みだすきっかけになった魔法少女シリーズの最初の作品からーー」
配信用モニターの隣に並ぶ作業用モニターに視線を向けると、曲ごとに紅葉が歌うのに最適なキーが書かれたリストと五線譜の音符の代わりに1音ずつ歌詞が書かれた楽譜が表示されている。
ーーもう、今日に間に合わせるの、大変だったんだからね。
ホントに、ありがとう。ねね。
ーーそれにしても、なんと言うか、コーちゃんらしいセットリストだね。小さい頃は私の方が魔法少女アニメが好きで、嫌がるコーちゃんを無理矢理ごっこ遊びに付き合わせてたんだったよね。あはは、まさかコーちゃんが可愛い女の子に変身しちゃうとは思ってなかったよ。
僕も、まさか自分が美少女になるためにこんなに一生懸命になるとは思ってなかった。最初はねいじゅちゃんの引退を止めるためだった、でも今はそれだけじゃない、リスナーのみんなに喜んでもらうため、そして…… 僕自身のために!
最初の曲を歌い終えると拍手とともに歌声を誉めるコメントが付き、今日のためにこっそり練習してきたことを明かす。
「それじゃあ次の曲はシリーズの続編、初代の後輩の魔法少女見習い達が奮闘するシリーズ第2弾のオープニング曲!」
そうして1曲歌ってはその作品の推しキャラやストーリー、熱い展開や演出等を語る。
セットリストを歌い終えてオーディション終了30分前、残っているリスナーは十数人、リアルタイムランキングを確認するとランキングは21位に上がり、20位と50000ポイントあまりの差がついている。
「ええっ、21位っ!? ホントに? うそ、じゃないよね……? あれ? なんで? こんなはずじゃなかったのに…… どうしよ? どうすればいいの? 僕が、僕なんかがっ…… うぐっ、こんなっ…… 昨日まで、絶対っ、うぅっ、無理だって、思ってたのに…… 絶対にっ、手が届かない、はずだったのにっ…… あぁっ、ちょっと待って、目を覚ますから……」
しばらくBGMだけが流れる。
「あー、マズっ!」
『wwww』
『ノニかよwwww』
「ああ、ホントに21位だ。みんな、ホントにいいの? 予選最終日だよ? 最推しの人の応援しに行かなくていいの?」
『最推しは安全圏だから、最後になるかもしれないツクモの配信を聴きに来たんだよw』
「あはは、キツイなぁ…… ぐすっ。同じオーディションに参加してるみんなの配信を見て、みんな僕より可愛くて、面白くて、歌もうまくて、すごい人ばかりで、僕なんか到底及ばないと思ってた…… 実際今でも、僕自身がこの人に合格してほしいと思っている人がいて…… でもっ! できるなら、もう少し、もう少しだけ、ツクモとして生きたいっ、みんなと楽しい時間を過ごしたいっ! だから…… 今はただ、歌うよっ、もっともっと、僕の『好き』を届けるためにっ…!」
拍手と応援のコメント多数。それに応じてアンコールでリクエスト曲を歌い続け終了三分前、リスナー全員がポイントを投じ終えてリアルタイムランキングでは22位。
「はぁ…… みんなっ! 最後まで僕の配信を聴いてくれて、僕を好きでいてくれてありがとう! やっぱり、本選には追いつけなかったね…… ごめんね、応援してくれたみんな。全力を尽くして、後悔なく笑って終わるつもりだったけど…… うぐっ、やっぱり、悔しいよっ……! でも、絶対、いつか、また、会える日がっ、来るからっ! あぁ、もう時間だ…… それじゃあ、いつものお別れのあいさつで締めるよ。……みんな! おツクモー! また来世で!」
健闘を称え別れを惜しむコメント、最後の挨拶、拍手などのコメント。
配信終了ボタンを押すと同時に紅葉の瞳から涙がこぼれ、堰を切ったように泣き出す。
しばらくして寧音子からスマホに着信が入り、紅葉以上の嗚咽混じりの涙声で紅葉の頑張りを労う。紅葉は逆に寧音子を慰める形となって冷静さを取り戻す。
通話を終えると雪乃から「1週間お疲れ様。希望を見せてくれてありがとう」と短く素っ気ないメッセージが入っていた。
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