第1話 Bパート
Bパート(紅葉と雪乃の学生生活、雪乃=ねいじゅ疑惑から紅葉が雪乃にストーキングを行った末に確信に至り、本人にそのことを伝える)
そのあと紅葉は数日にわたり放課後に雪乃の跡をつける。駅前のボイスレッスンスタジオに入っていくところ、秋葉原でPCのパーツを調達する姿、高級タワーマンションに帰っていく様子を目撃。
ある日、ゆきのの後をつけている姿を海姫に見られ、声をかけられる。
「コーヨーくんやっほー」
「うわあっ!」
驚いてあげた声に慌てて口を抑える。
「なに? そんなにびっくりして。はっはーん、雪乃ちゃんをストーカーしてるところを見られて焦ってるんだねー?」
「そっ…… そんなんじゃないよ! あぁっ、こっち、こっち来て!」
雪乃にばれないように慌てて海姫の手を取り死角に引っ張りこむ。
「あはは、コーヨーくんって意外と大胆だね」
「あっ…… ご、ごめん……」
海姫に言われてとっさに手をつないだことに気づき、慌てて握った手を離す。
「ねぇ、コーヨーくんって雪乃ちゃんのこと好きなの?」
海姫の手の柔らかさとぬくもりの余韻を感じて心ここにあらずの紅葉の顔を覗き込んで聞く。
「なっ……! ななっ、なっ、なにをっ……!? 何を言ってるのかな……? そっ、そんなわけないでしょ……! ひっ、柊さんとは…… えーと…… たまたまっ、そう、たまたま帰り道が一緒なだけだよっ!」
「ふーん、コーヨーくんの帰り道、逆方向だと思ってたけど。まっ、いっか。それじゃあコーヨーくん、残念だけど今日は私と一緒に帰ってもらうから」
「えっ!? なっ、なんで……? 僕、陽夏さんのことよく知らないし、そんなに仲が良いわけでも……」
「うん、私もコーヨーくんのことよく知らないし、別に仲が良いとも思ってない」
「じゃあなんで?」
「え? よく知らないからに決まってるじゃん。お互いを知れば仲良くなれるかもしれないのに、知らないままでいるのはもったいないっしょ」
「はぁ…… そんなもんかな?」
「ま、こんなに可愛いJKと一緒に帰れるんだから喜びなよ。それとも、雪乃ちゃんと一緒に帰りたかった? 地味であんまり目立たないけど、雪乃ちゃんも意外と結構カワイイもんねー」
「それは……」
「んっふっふー、さては図星だなー。私、こうしてクラスのみんなと一緒に帰ってるから、雪乃ちゃんのこともちょっとは知ってるよん」
「ほんとにっ!?」
紅葉の食いつきにニヤッといたずらっぽく笑う海姫。
「はい、じゃあ決まりー! 雪乃ちゃんももう行っちゃったみたいだし、海姫ちゃんと一緒に帰るしか選択肢のないコーヨー君なのであった……」
「はぁ、わかったよ。一緒に帰ればいいんでしょ」
つっけんどんに返事をし、踵を返して歩き出す紅葉。
「ちょっとなんで嫌そうなのよー それより、ぷぷっ、やっぱり逆方向だったね」
海姫との帰り道、趣味などを聞かれオタク趣味を早口で喋る紅葉とそれを楽しそうに相槌を入れながら聞く海姫。話の途中、鞄についているねいじゅアクリルキーホルダーが気が気になる。
「そのキーホルダー、気になる」
「そうでしょ! Vライバーの詠永ねいじゅちゃんっていうんだ」
「あっ! 聞いたことある! 時々TLに上がってくる子だね。私も有名なVの子の動画はよく見てるんだ。その子はあんまり知らないけど」
「ねいじゅちゃんは大々的にプロモーションしてる大手事務所所属じゃなくて、プロデュースもプロモーションも全部自分でしてる個人勢だからね。今では知名度では大手の人には負けちゃうけど、負けないぐらいすっごく可愛いし、配信もすっごく楽しいんだ! 僕が初めてねいじゅちゃんに出会ったのはそうだなぁあれは……」
早口でねいじゅのことを話始める紅葉を無視してスマホを取り出してイヤホンを耳に差し、ねいじゅの動画を再生し始める海姫。その声を聴いて目を細める。
「わっ! ホント、可愛いっ!」
「へへっ、そうでしょー」
「あはは、ねいじゅちゃんを褒めてるのに、なんでコーヨーくんが得意気なのよ」
「推しを褒められて嬉しくない奴なんて居ないっ! ああっ、そうだ、それより、柊さんのことなんだけど……」
「んー、雪乃ちゃんとは何話したかなぁ…… あれ? コーヨーくんの話聞いてるうちに忘れちゃったかも。ん、それじゃあ私、お買い物の用事があるから、またねー。コーヨー君のお話が聞けてたのしかったよん」
手をひらひらとさせて笑顔で別れを告げる海姫にドキリとする紅葉。
自宅に戻りねいじゅのライブ配信の時間、新曲発表があり、雪乃が聞いていた歌が流れ始めてねいじゅが雪乃であることを確信する。
次の日の放課後、紅葉はいつものように雪乃の帰り道の後をつけ、マンションの前で雪乃に声をかける。
「あのっ……! ねいじゅ…… ちゃん?」
「へっ……!?」
思わず振り向き、紅葉を見て「しまった」という顔をする雪乃に、紅葉はさらに声をかける。
「やっぱり……! 柊雪乃さん…… いや、詠永ねいじゅちゃん…… だよね?」
長い沈黙、雪乃は覚悟を決めたように息をのみ、紅葉の瞳をまっすぐに見据える。
「ついてきて、秋月君」
それ以上何も言わず踵を返し、マンションのエントランスのドアをくぐる雪乃、紅葉はその反応に戸惑いながら慌てて雪乃の後に続く。
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