魔法が使えるのに戦国時代の日本に転生しました〜国盗りには興味ない〜
真夏さん
第1話 40代って若いのよ
中田タケミ、72歳。中田トメノ、73歳。
「ここは、どこかしら?」
真っ白く閉ざされた広い部屋。そこに取り残された様に佇む2人。
「転生の間にようこそ」
「え?」
「転生の間?」
「私は運命の女神、ノルンよ」
「あれ、あれかしら、あれあれ」
「異世界転生ってやつかな」
孫のタケルに薦められて読んでた物語だ。
「そうね、あれかしら、あれあれ、サマンサみたいなあれ」
「魔法使いに俺はなる!って感じかな」
「私は運命の女神、ノルン」
「……でも、あれよ、あれよね、赤ちゃんからやり直しは辛いわよね」
「そうだな、ちょっとキツイな」
「どうにかならないものかしらね」
「そうだね、25歳くらいに転生出来たら最高だね」
「ちょっと!貴方達、70過ぎよね!人の話を聞きなさいよ!」
ここで初めて後ろを振り向く2人。そこには、怒って翼を広げた、長身の白人女性がいた。
「あらあらあらあら、神様かしら。あらあら、その長くて綺麗な髪、羨ましいわ」
「済まんの、少し耳が遠くてな」
「そ、それじゃあ、仕方ないわね。説明した方が良いかしら?」
「そうね、そうして頂けるかしら」
「分かりました。貴方達2人は、事故に巻き込まれてお亡くなりになりました」
「あ、そこら辺の件は省いて結構です。テキスト読みました」
「テキスト?」
「はい、孫に借りて」
「あ、あれよね、やたら題名が長い本ね。まるまるしたってもう遅いみたいな」
「ラノベをテキストって……まあ、あながち間違ってないわね。では、そこら辺の説明は省きますね。20代に転生とかは無理ですが、そこそこ楽しめる年代には転生出来そうですよ。ご都合主義モードでの転生になります。是非、残りの人生を楽しんで下さい」
〜・〜
次に視界が広がると、そこは見慣れぬ森?山?崖?の斜面だった。斜面からは少し離れた海も見渡せた。日当たりからすると、南向きかな。横には小川が流れて、なかなかの立地かも。物音に振り向くと、そこには40代の頃のトメノさんが居た。
「あらあらあらあら、タケミさん。タケミさんはこんなに逞しかったかしら、ふふ」
「そう言うトメノさんは、相変わらず素敵なままだ」
そこはかとなく品のあるトメノさんは、40代頃からほとんど年を取らなくなってた様な気がする。それでも、40代のトメノさんはむせかえる様な色気があって、つい抱き寄せて、キスをして、暫く見つめ合い、そして激しく求め合った。
「相変わらず、素敵だったわ、タケミさん」
「ごめん、我慢できなかったんだ」
また、抱き寄せて、キスをして、暫く見つめ合う。終わった後に、肩で息をしてないのはどれぐらいぶりだろう。
「あ〜、ダメダメ、キリがない。日が暮れちゃうよ」
「そう?私は構わないのに、ふふ」
俺がトメノさんと結婚した理由の一つは、上品に微笑みを浮かべながらセックスをするからだ。大事そうに求めてくれる。そう、柔らかいセックス。トメノさんとのセックスは柔らかいんだ。わ〜わ〜、70過ぎた爺さんのセリフじゃないな。糸井重里かよ。
「さて、この場所は南向きで良いね。誰も居なさそうだから、ここに基地を作ります」
崖に両手を当てて、
「洞窟になれ!」
と、心の中で唱える。さすがに口に出して唱える勇気はない。ハハハ。すると、手の先の崖に洞窟が現れる。あれ、ヤバいのかな。洞窟分の土砂が入り口の周りに山盛りになる。等価交換かよ!違うか、質量保存の法則かよ!当たり前か。
「タケミさん、土砂の中にキラキラ光る物が」
「えっ?」
良く見ると、金の様だ。金を掘り当ててしまったのか?そこで、『物質ごとに分かれろ』と思い浮かべながらスナップ。
「おおおおお〜!」
金と銀と銅とその他で分かれた。『こんなに土の中に虫とか居るのか』って思うくらいの昆虫も、気味が悪いくらいウジャウジャ出て来た。
「あら〜、あらあら、良い土になったわね」
家庭菜園大好きのトメノさんは、土を弄りながら嬉しそうに呟いている。
「じゃあ、外はトメノさんに任せるね」
外の片付けはトメノさんに任せて、俺は洞窟の中を弄り始める。1本の洞窟を横と上に広げて、床と壁を滑らかにして行く。広いワンルームだ。外に出ると、トメノさんは庭作りをしていた。ちょっと海から目立つなと思い、ハリーポッターの映画で見た、目眩しの魔法をイメージして、この一帯にかけてみた。海に向かって立ってみると、ビニールの幕で覆われた様に、空間の歪みが見てとれた。たぶん、これで大丈夫。
「トメノさん、ここのスペース使って良い?」
「後で使えるなら良いよ」
脇の森に行き、スナップ。木が伐採されて、洞窟の前のスペースに山積みになった。山積みの木の前でスナップ。入り口にドアが出来る。そして、もう一度スナップ。ドアを開けると屋内が板張りになっている。さらに、もう2回スナップ。椅子とテーブルが。スナップ。ベッドが。あ、失敗。風呂場を作らなきゃ。スナップ。予定場所の板張りをどけて、壁に手を当てる。あ、スナップしてみよう。スナップ。壁の先に風呂場スペースが出来た。よし、風呂はタイル張りで、スナップ。窓は木窓だけど仕方ないか。
「キャッ!」
声がしたので外に出ると、何事も無かった様子。
「声がしたけどどうしたの?」
「ちょっと、この部分の土が凹んだのよ」
ああ、タイル分の粘土が減ったのかな。そこら辺の木を手に取り、スナップ。猟銃型に成形する。それを構えて、遠くの木に狙いを定め『バーン』と口にすると、空気銃の様に木に穴が開く。熊が出て来てもok。あ、魔法、と思ったけど、それは奥の手にしておこう。ドラゴンとかが出たらの話だ。
「ちょっと、バスタブの為に、檜を探してくるね」
「は〜い、気をつけてね」
〜・〜
檜ってどんな木だっけ?……そうだ、鑑定有るかな。メガネに『鑑定』って言ってみた。お〜、ゲームみたいに、意識した物の名前が浮かび上がる。あ、ムカゴだ。自然薯掘れるかな?蔓を手繰って行って、土に潜った所でスナップ。自然薯が出て来た。ついでに、蔓を集めてスナップ。ハンモックだ。『ボックス』と言うと、空間収納が出て来たので、そこに全部しまう。いや、マジでタケルがラノベを薦めてくれたお陰で、不自由しないよ。ジジババで嵌ったからね。フラグだったのかな?あ、檜。檜を伐採しても洞窟には飛んで行かなかった。見える範囲内かな。収納っと。帰り道、雉を見かけたので、指で指してバン!あ、銃擬き要らなかったよ。暗くなって来たから急ごう。
〜・〜
洞窟に着くと、何て事でしょう。素敵ガーデンが出来てました。さてと、金と銀と銅を収納して、洞窟に入る。明るい。
「ただいま、明るくて良いね」
「ライトの魔法よ」
キッチンまで出来上がってた。風呂場に行って、スナップ。檜風呂を作る。
「一緒にお風呂に入る?」
「入る〜」
では、早速、お風呂にお湯を。ファイヤとウォーターのミックス魔法をイメージしてスナップ。
「沸いたよ〜、先に入ってるね」
「はーい」
魔法でシャワーを浴びてると、トメノさんが入って来た。
「トメノはぜんぜん若返った感じがしないよね。元から魔法を使ってたんじゃないの?」
「もう、嬉しいけど、さすがに70過ぎのお婆ちゃんとじゃ違うって、ふふふ」
「そうかな、昨日のトメノさんも、今日のトメノさんも素敵だよ」
つい抱き寄せて、キスをしながらのシャワーになってしまった。若いって、凄いね。すぐ元気に。
「石鹸の材料って分かる?」
トメノさんのオッパイを触りながらの入浴は、堪らなくリラックス出来る。一部位を除いてだけど。
「ん〜、クリーンの魔法で良いんじゃない?」
「あ、そうだった」
トメノさんは後ろ手にリラックスしていない一部位を触りながら、夫婦の会話を楽しむ。何年経っても楽しい時間だ。
〜・〜
風呂上がりも、クリーンとドライで時間がかからない。
「ねえ、トメノさん、ベッドが板張りのままなんだけど、何かマットレスになる様な物って心当たりある?」
「そうねぇ、何か有るかしら?羽毛かしらね」
「はっ、雉を獲って来たんだ」
「調味料も何も無いわよ」
「銅を置いておくから、調理器具を作っておいて。俺は、海に行って塩を取ってくるから」
「ガッテンだ」
海の手前でスナップ。近くの木が取っ手付きの桶になる。桶に海水を汲んでスナップ。『あれ?』ああ、そうだ、3.5%の塩分濃度を侮ってた。『ライト』海岸沿いをタイドプールを探してみる。『お、ちょうど良い感じ』タイドプールに向かってスナップ。出来上がった塩を桶いっぱいに掬って家路を急ぐ。地味に登り坂が辛い。
「ただいま」
「おかえり〜」
「お、銅鍋とか銅のフライパンとか格好良いね」
「うんうん、でもさ、油が無いから使えないね」
「そっか、じゃあ、こっちで雉を捌いてるから、肉に打つ串と焼き網を作って」
「お、良いわね」
魔法で肉と羽毛とその他で分けて、あとはクリーンと。肉にクリーンをかけるとあら不思議。血抜きも出来ると言う便利さ。外に出て土に向かってスナップ。あ、やり過ぎた。有るったけのレンガが出来た。レンガを適当に組んで焼き鳥台を作る。木に向かってスナップ。ローチェアを作り、焚き火を起こして、焼き鳥だ。
「塩味だけだけど、ヤバいね。美味しい」
「ジビエ?」
「言い方だね、ふふ」
「ねえ、トメノさん、メガネに鑑定の魔法をかけると、とても便利なんだけど、やってみた?」
「あ、それ、便利そうね。鑑定。凄い、ふふふ」
「今日は暖かいから、木で屋根を作って外で寝ないか?木のベッドじゃ寝れないよ」
「虫バリアは試してみようね」
森に向かってスナップ。伐採した木に向かってスナップ。屋根の出来上がり。もう一丁、森に向かってスナップ。下草が洞窟前にこんもりと。それに向ってドライ。乾燥した下草を屋根の下に敷いて簡易ベッドの出来上がり。一応、クリーンと。あ、虫バリアを忘れずにっと。
「何か楽しいわね。タケミさんとまたこうして、少しだけ若い時を一緒に過ごせる。夢見たい」
「そうだね、一緒に転生できて、トメノさんを探す手間が省けた」
トメノさん、可愛すぎる。もう、若いって……猿だ。
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