エルフ国との戦争編

第98話

 森の中に殺気を感じる。


 茂みの中から三人のエルフが短剣を装備している。


 俺は周囲の気配から弓兵が二人いることに気づく。


 褐色女エルフの一番背の高いエルフが問う。


 エルフ兵は全員赤い戦化粧をしている。


 「一度だけ警告する。ここはエルフ国の領域であり今は人間族との戦争中だ。部外者は去れ」


 俺は深呼吸を一つ。


 「生憎、俺にも事情があるんでね、押しとおる!」


 その言葉の最後に放たれた弓矢を弾き、三人のエルフ兵を峰打ちで倒す。

 

 「つ……強い」


 俺はリーダーらしいエルフの峰打ちをあえて加減し、情報を聴こうとする。


 「おい、捕らえられた捕虜の人間族はどこだ。それと行方不明になった人間の国にいたエルフはどこにいる」


 「誰が、教える者か……もとはと言えば、貴様らが勝手に……」


 「そうか……シエスタというエルフを知らないか」


 「どうして貴様がその名を!」


 「なぜ、うろたえる」


 「うるさい、貴様のような奴が口にしていい名ではない!」


 俺はその動揺に違和感を覚える。

 

 「あれは俺の……友人なんだ」


 峰打ちされたエルフの一人がよろよろと立ち上がり言葉を発する。


 「あのお方なら……ここから山を三つ超えた本部で保護している」


 「おい!」


 「だって仕方ないでしょ!あの方が言っていた人物とそっくりなんだから……あなたの名前は?」


 「浅井……浅井良樹だ」


 「先を急ぎなさい」


 そういって俺はそのエルフに礼を言って走る。

 

 俺はできる限り敵兵の気配のない道を選び、奥へと突き進む。


 進むにつれて、エルフ兵の猛攻は苛烈さを増すばかりだ。


 たぶん、前線が近いんだろう。


 エルフと人間族の争った形跡がちらほらある。


 とりあえず、シエスタが本部で保護されていることに俺は安堵する。


 ※ ※ ※


 一方その頃、ポール、ムセン、アリサ、シエンの4人は謎のローブを着た集団からカルナというハイエルフの仲間を守るために奮戦していた。


 ポールは汗だくになりながら、剣を振るうがその剣の切っ先が敵に届くことはない。


「お前らは何が目的だ」


「敵とかわす言葉はない」

  

 そういって敵兵の一人の手から青い魔法陣が出現し氷の玉が放たれる。


 アリサが赤い魔法陣から火の玉を放出し、相殺する。


 水蒸気があたりに霧散する。


 「こいつらの目的は人間族の中のエルフ国を自国に取り入れるのが目的よ」


 「やけに詳しいな、お前」


 ムセンが大剣を敵に振りかざす。


 敵兵と一定の距離が空く。


 アリサは淡々と話す。


 「ドワーフの国は頻繁にエルフと戦争するからね、これくらいは常識よ」


 「そうか……だが」


 後ろでシエンに守られているカルナの様子をムセンは見やる。


 アリサは溜息を一つ吐く。

 

「人間国にいるエルフは裏切り者のレッテルを張られることがよくあるの……その制裁は言葉通りよ」


「それで耳狩りか……」ムセンは歯噛みする。

  

 シエンは呟く。


 「シエスタちゃん……」


 だがその声が彼女に届くことはない。


 敵兵とポールたちの実力はほぼ同じだが、数が敵の方が多い以上、劣勢を強いられている。

 

 ムセンが呟く。


 「どこで油売ってんだよ……兄弟」

 

 彼らとかつて冒険を共にした一人の異世界人にその声が届くことはない。


 


 

 

 

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