第79話
アリサが小さな椅子に座る。
果物の入ったバスケットから果物を一つ取り出しその皮をむき丁寧に切り分けられる。
彼女が持ってきた皿にそれらが並べられ、無言で俺はそれを食べる。
食べ終えた後の数分間の静寂。
「…………ねぇ」
先に言葉を発したのはアリサだった。
「ん?」
「あんたは……これからどうするの?」
「どうって言われても……」
「あなたは真剣にこれからのことを考えるべきなの。あなたのことを心配するのはなにも私だけじゃない……カルナやシエン、シエスタ……ムセンやポールもそして役所で働く同僚の人も……花蓮だって……きっと」
「……そうだな」
「別にあなたの人生だから私がとやかく言うつもりはないけど、これだけはあなたにいうべきかもしれない―――――」
あなたは何をしたいの?
その言葉だけを残してそそくさと彼女は去っていった。
彼女はきっと多くの仲間が俺を守り、倒れていったこと、そして彼女自身も目標もなく冒険につきまとう俺に嫌気がさしていたかもしれない。
決して俺もそして彼女も別にふざけているわけじゃない。
ましてや彼女に悪意はないのだろう。
だが、その言葉は今の俺にとって同級生から言われたどんなひどい言葉よりも重く、俺に現実をまるで銃口のように突きつける。
それから一週間ほどたって、完全に回復した俺は役所でボーナスをもらった。
まぁそれなりの金額だったし、嬉しくないわけじゃない。
だが、俺は一体何がしたいのだろうか。
漠然とした不安感を拭い去ろうと毎日やれと言われてきたことをやり続け、結果を出した。
だが、それには俺の意思がなかった。
いやもっと言えば、意志がないのだった。
そしてこれからも俺は目の前に起こった出来事に翻弄され続けるのだろうか。
陰キャというレッテルを自他ともに認め、どこか暗い毎日を過ごしていた。
俺の理想、そしてこれから。
思うような答えも出ず、漠然と役所で働く日々が続いた。
※ ※ ※
ある日。
俺の全快祝いだとシエスタが酒場で一緒に美味しい料理を食べる。
「そんなに思い詰めた顔をして、どうしたの?」
「俺は一体何がしたいんだろうなって、ちょっと考えてた」
「……そっか」
彼女はそういって、木樽ジョッキの中に入っている酒を無言で見つめる。
「私も……あなたの十倍は長く生きているけど、自分が何をすべきか、何がしたいのか、時々わからなくなる時くらいあるわ」
「そうなのか?」
「えぇ……でも、そんな漠然とした不安を解決するのはいつだってとてもシンプルな答えなのよ」
「シンプルな……答え」
「自分を必要とするものへの愛よ」
そして彼女はジョッキの中の酒を一気飲みしてさらに言葉を続ける。
「いつだって人はふと頭にうかぶ人への想いによって突き動かされるものなのよ」
彼女はどこか遠くを見つめながら懐かしそうな笑みを浮かべて物思いにふけっていた。
騒がしい酒場の中で、彼女だけが静寂に包まれていた。
「酔っているのかしらね……柄にもなく偉そうなことをいっちゃったわ」
俺は首を振る。
シエスタの顔を俺はまっすぐに見つめる。
俺は彼女の言葉をきっかけにうかんだ、自分なりの答えを話す。
「俺は……俺がしたいことは――――――」
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