それぞれの想い、浅井の決意

第77話

 ゆっくりと目を開けると俺は腹に包帯を巻かれて上半身裸、下半身は高校の時の制服のまま寝ていた。


 周囲を見やると、真っ白な壁とベッドしかない。


 どうやら個室のようだ。


 「ここは……」


 「気が付いたのね……ここは教会の治療室よ」


 シエスタが俺の傍で微笑む。


 彼女は椅子に座っていた。


 「あの後、どうなったんだ……?」


 「それよりもまず、あなた二日も寝ていたのよ、まずは何か食べなさい」


 「お、おう」


 彼女はそういってそそくさと部屋を出る。


 数分後に彼女はおかゆを持ってきた。


 俺が何とか起き上がりゆっくりと食べる。


 優しい味だった。


 食べ終えて人心地ついた後、シエスタが語り始める。


 「あなたが気絶した後、マレットさんと傷が治ったムセンとアリサであなたと花蓮を抱えて、そして私も彼女たちの肩を借りて何とか山を下りたわ」


 「そうか……」


 彼女がおかゆの皿を片付けるために部屋を出て数分間、俺は窓から入ってくるそよ風を感じ、深呼吸する。


 彼女が再び部屋へと入ってきたときには、不思議と穏やかな気持ちに包まれていた。

 

 生き残ったことの安心感からだろうか。


 「俺は……あの時、何もできなかった……」


 シエスタは黙って俺の言葉に耳を傾ける。


 「俺は…………俺は……」


 手がなぜか震える。


 「もう大丈夫、ゆっくりと今は体を休めなさい」


 そういって彼女は俺の震える手を取り、俺のそばに居てくれた。


 ふと、口からこぼれ出た言葉。


 「シエスタってさ……」


 「ん?」


 「本当にすごいな」


 「そう?」


 彼女の微笑みは幼い息子にからかわれた母親のように優しかった。


 「俺は……今までの俺には何も……何もなかった。お金も、友達も、信頼できる大人もいなくて、ただ……ただ世の中をいつもどこか俯瞰してみては上っ面だけで否定した気がする」


 「…………」彼女が俺の手を握る。


 「俺はどうしようなく、暗い奴で薄っぺらい存在だった……悔しいがローガに言われてそれを今更悟った……だけど」

 

 俺が彼女の顔をまっすぐ見る。


 彼女の長い耳がピンと上を向く。


 「俺は……俺には大切な仲間がいる」


 「そうね」


 俺がなんだか自分がとても恥ずかしい言葉を言っている気がして、ふとシエスタが握っている自分の手を見やる。


 彼女も同じ方向に視線をやり、彼女は少し赤面して俺の手を握るのをやめた。


「シエスタってさ」俺がさらに言葉を紡ごうとするとそれを遮り彼女は言った。


「勘違いしないでね……あなたがいないと退屈するのよ、それに……」


「それに?」


「まだまだ、あなたに聴きたい魔物の情報もあるしね」


 そこで魔物図鑑が欲しいといわないことの意味を俺は察し、微笑む。


「そっか」


「な……何よ、もう!」むきになって頬を膨らませる彼女に俺が今度は微笑む。


 小鳥のさえずりが聞こえる。


 しばしの心地よい静寂ののちに彼女は部屋を去り、代わりに入ってきたのは―――


 ―――――シエンだった。


 

 

 

 

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