第72話

「面白れぇ……もう少しだけ遊んでやるよ」


 シエスタがアリサとムセンに目線を合わせることで指示を出す。


 頷いたムセンは再び狼男となる。


「ふん、手負いの犬に今更何が……ん?」


 ムセンの体の異変に気付くローガ。


 以前は筋骨隆々の狼男だったムセンだが、今度の変身によって彼の体はより狼に近い細くしなやかな体となる。


 「なるほどな。体の負担を減らし、さらに速度を上げて時間を稼ぐ作戦か……最初からやらなかったのは俺様の目を慣れさせないためと同時に体力を削るため……といったところか」

 

 ローガは呟き、一人納得する。


 ムセンの爪がローガに襲い掛かる。


 さすがの元S級一位といえど、素早さに特化した狼男、それも熟練の冒険者となれば数秒間は防戦に徹する。


 その隙にアリサが高度な魔法発動の準備をする。


 アリサの魔法陣の発動方法も変更される。


 以前は両腕を前に突き出して一種類の魔法しか同時に発動できなかった。


 だが、今のアリサは仁王立ちのまま目を閉じ、集中している。


 数秒後、アリサの胸のあたりに中くらいの大きさの魔法陣が4つ発生しする。


 それはまるで彼女の体をスキャンするかのように、回転する。


 回転速度は徐々に速くなる。


 そして速さが最高潮になったとき、魔法陣が勢いよく割れたガラスのように消失する。


 体の表面に白い光が纏われてゆっくりと彼女は目を開く。


 ※ ※ ※


 ローガが目の前のムセンの攻撃パターンを把握し、ムセンに一太刀浴びせようとした瞬間、ムセンはにやりと笑みを浮かべる。


 彼が手を一度叩く。


 その瞬間、アリサとムセンの立ち位置が入れ替わり、アリサの拳がガードした奴の腕に骨を砕く音とともにめり込む。


 奴の表情がわずかに歪み、はるか後方へと奴は吹き飛ばされる。


 だが、奴も青い光を瞬時に体を纏わせ、宙に浮く。


 シエスタが叫ぶ。


 「あ、あれは……飛行魔法!?」


 「まさか、俺様にこの魔法を使わせるとはな……」


 シエスタが地面を高く盛り上げ、ローガのいる高さと同じ場所にアリサを立たせる。

 「魔法だけが、魔法使いの得意なこととは限らないわよ」


 淡々とそう言ってアリサは自分の髪をかき上げる。


 


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