第71話  シエスタの想い

 「お前らもお前らだ……なんでこんな奴に従う?なぜこんな平和ボケした野郎の言うがままに闘ってやがる……それはな、お前らの言っている仲間とか冒険があまりにも薄っぺらいからだ」


 ローガが言い放つ。


 光の三本の弓矢が奴の心臓を狙う。


 だが、いとも簡単にその弓矢は奴の剣によって消失する。


 「好き勝手言うな、犯罪者!」


 シエスタが弓を構え、奴に矢を放ちながら、距離を詰める。


 「お前にあいつの何が分かるのよ!」


 「…………お前がこいつと慣れあっているのはただ……そうした方が自分の存在のちっぽけさに気づかないでいられるからだろ?」

 

 「違う!」


 「違わない。お前らが奴とつるんでいるのは、奴の中途半端な優しさに居場所を求めているからだ」


 「うるさい!」


 シエスタはナイフを両腕に装備し奴に立ち向かう。


 奴は鼻で笑い、その攻撃をあえて受け止める。


 「お前!あいつがお前に何をしたっていうのよ!」


 シエスタのナイフと、ローガの剣が火花を散らせる。


 「あいつは何もわからないまま異世界に召喚させられた。誰も頼りになってくれず、花蓮の厚かましいお願いにあいつは命を懸けた……まだ生まれて二十年もたっていないガキがよ!それを批判して、侮辱して……何が楽しい!何が可笑しい!この世に完璧な人間になんていやしない!まだ冒険者になったばかりのあいつの全てが半端なのは、別にあいつのせいじゃない!」


 「そうか……お前はあいつに同情しているのか」


 ローガがあっさりとシエスタを後方に剣でもって弾き飛ばす。


 「違うわ…………いや最初に会った時、私もあいつのことをただの幸運な奴だと思っていた」


 「…………」


 沈黙を保ったまま距離をゆっくりと詰めるローガ。


 「えぇ……確かにあいつのことを私は都合のいいようにしか見てないかもしれない……あいつの優しさにどこか自分の居場所を求めていたかもしれない」


 シエスタのナイフを握る手に力がこめられる。


 「だが逆を言えばあいつは、こんな孤独を決め込んだ私にあっさりと温かい居場所をくれたのよ……私は森の動物たちが家族とその住処を大事にするように、私は私の大切な人を、その人が私に与えてくれた時間を、居場所を、かけがえのないこれから先の果てしない冒険の夢を守りぬく。それが今の私の―――――――」


 


 シエスタの後ろにいたムセンが立ち上がる。


 「そうだぜ、あいつは確かに非力だし、魔力もねぇ。だがな。あいつは俺の獣人化した姿を見ても、過酷な突然の任務にも逃げずに立ち向かっている。決してあいつは卑怯じゃない、ましてや臆病でもない。ただ弱いだけだ。いつだって強いものに弱いものが守る義務がある。だから――――」


 ムセンとともにシエスタの隣に来たアリサも頷いて言い放つ。


 「えぇ、私たちは」


 「「「あいつを守る」」」


 三人の勇敢なる仲間の声が、想いが、信念が、ローガの前に立ちはだかる。


 

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