第50話
雨が止んでテントから出るとムセンが少し先を歩いてそこの匂いを嗅ぐ。
「どうだ、わかりそうか?」ポールがあたりのにおいを嗅ぎ終えて戻ってきたムセンに問う。
「まぁ、異世界人の匂いは独特だし、今回、大量にそれが連れ去られたせいで匂いはまだ残っている。花蓮のダチが持ってきた魔物よけのアイテムの臭いの効果でここからは比較的安全だな。俺じゃなければこの判別できないぜ」
「よかった」とポールは胸をなでおろす。
俺は聞き捨てならない単語が出たので思わずムセンに言う。
「魔物避けのアイテムなんて売ってるのか?」
「おうよ。まぁそのアイテムはバカみたいに高いし、店に入荷する時期も未定だ。今回の目的は救出だし相手は山賊だ。そんなアイテムを俺達が持っていれば匂いでまず気づかれる。山賊のメンバーには俺と同じ種族の奴もいるだろうからな」とムセンは長年の冒険者経験から推理する。
「……おそらくだけど花蓮の仲間は、その魔物避けのアイテムが運よく買えたからラクボ山への冒険を決意したんじゃないのかな」ポールは腕を組んでそういう。
彼はさらに話を続ける。
「もちろん、花蓮の仲間が冒険当時にCランク冒険者だったのは知っている。だけど大人数で冒険すればそれだけ強い大型モンスターに狙われるなどの危険が伴うはずだ。危険を乗り越えたとしてもギルドの指定した討伐数を大幅に超えて乱獲になって降格処分される可能性も出てくるしね」
「一体何でそこまで、この山に固執するんだ?」ムセンが背伸びをしながら疑問を言う。
俺はその質問に答える。
「異世界人のあいつらが……勝手にこの国に召喚されたあいつらが願うのはただ一つ、日本、つまり故郷へと帰ることだ」
「つまり、その手掛かりがこの山のどこかにある……そういいたいのね?」
いつの間にかテントから出てきたアリサがそう付け足す。
俺は頷く。
「これは……ただの噂ですけど……」シエンが杖を強く握りしめて慎重に言葉を選んで話す。
「その手がかりは異世界人を元の世界に返すアイテムへと導く鍵かもしれません」
※ ※ ※
「そのアイテムって……古代文明よね……エルフにもそんな言い伝えがあるわ」カルナがそういってシエンは「おそらくは」と端的に答える。
「そんなのを山賊が持っているとしたらこりゃ、のんびり朝食をとっている暇もなさそうだ」とムセンは言う。
「そんなこといいながらしっかり干し肉食べているし……」とアリサはあきれる。
「山賊に襲われたのはいつだ?」ムセンが花蓮に問う。
「三日前……それから一日たってから今回の旅に出たわ」と花蓮は胸に手を当てて不安そうな表情で答える。
「まずいな……」ポールがそういって、俺と花蓮以外の全員が表情を曇らせる。
「え……何よ急に、やめてよ」花蓮がそういう。
俺も嫌な予感に胸騒ぎがする。
「山賊に誘拐された場合、どんなに長くても一週間以内に山賊の拠点に行かなければ救出は限りなく難しいのよ」とカルナは言う。
「そんな……」花蓮は動揺する。
俺はポジティブに考える。
「だけど、それは何事もなかった場合だろ?」
「そうですけど……」シエンが言う。
「昨日は雨が降っているし、花蓮達は大人数だった……少なくとも山賊の方にもけが人が出ているはずだ。異世界人を殺すより奴隷商人に売り飛ばした方が山賊にとって利益になる。山の高いところに山賊がいるとしたら土砂崩れで奴隷商人が遅れているかもしれない」
俺以外の全員が黙る。
「なんだ、俺、変なこと言った?」
ムセンが笑う。
「さっすが兄弟、お前の言うとおりだ!」
ムセン以外もほっとしたように笑うのだった。
そして俺達は山賊の拠点へと出発する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。