第48話

 テントの中で暖をとりながら食事をする七人。


 食事を終えた後、テントを仕切りの布で二つに分けて女性陣と男性陣に分かれる。


 俺は慣れない革装備を外すのに手間取る。


 ポールが手伝ってくれて、ムセンはあくびを一つもらす。


 「眠れそうか……?」とポールは優しく問いかける。


 普段の俺なら無視する質問も、バジリスクの戦闘、その後もクラスメイトの奪還という壮大な冒険の旅に参加して身も心も悲鳴を上げたせいか俺は曖昧に頷く。


 雨が降り、地面にたたきつけられる雨粒の音が聞こえる。


 振り返れば、ムセンは感覚的に戦闘を教えるが、ポールは素人の俺にも武器の扱いを道中わかりやすく教えてくれた。


 そういうところから考えてもポールはなんだかムセンとは違ったタイプの頼もしさを感じていた。


 俺は正直に眠れないという。


 そうかとポールはいって、ココアを俺に淹れてくれる。


 この世界では貴重な角砂糖まで入れて。


 「これでも飲んで少しでも体力を回復してくれ、わがままで同行させてすまない」


  俺はその言葉をすぐに否定する。


 「いつか……冒険はするかもしれないとおもったからいい経験……だとおもう」


 「……君はもっと……なんというかネガティブな人かと思っていたが意外だな」


 「いや……ただ初めての冒険でどうしていいかわからないからとりあえず気持ちだけでも前向きにした方がいいかなって」


 そう俺が呟いて、「すいません、素人のくせにそれっぽいこといって」と慌てて撤回するがポールは微笑みながら首を振る。


 「俺も最初の冒険は怖かったし、まともに魔物一体解体すらできなかった」


 その言葉にムセンは思い出し笑いをする。


 「俺は先に寝る。適当に喋ったらさっさと寝ろよ」


 ムセンが毛布をかぶって寝返りをうち、ポールはわかったと返事する。


 「本当は……冒険者が自分の過去を語るのは、無意味に同情を引き出して仕事に差し支えるからダメだけど……君になら話してもいいかな」


 ポールは自分用にお茶を入れたコップを見つめながらゆっくりと自分の過去、そしてパーティの成り立ちについて話し始めた。


 ※ ※ ※


 最初のメンバーはポールとムセンだけだった。


 結成の発端となった出来事は、酔ったムセンが腕相撲勝負をポールに仕掛けてポールが勝ち、ムセンが悔しさとその実力に惚れこんでパーティを結成したのが始まりだったらしい。


 そこから二人でFランク時代の下積み時代を乗り越えて、Dランクの補佐として同行し、そこでムセンとポールはDランク以上の戦果を挙げた。


 そこからさらに数か月いろんなトーナメントと呼ばれる武術大会でのし上がり、Cランクになった後。


 植物系の魔物にとらわれていたシエンとカルナ、アリサを助け、さらに冒険という冒険を重ねて、気が付いてみれば迷宮探索までできるBマイナスまでランクをあげたという。


 「それから?」


 「それからは……あんまり寝る前に話すようなものじゃない胸糞悪い冒険が続いたよ……それでもコツコツと着実に戦果を挙げて、Aランクにも媚びへつらい、手探りでここまで来たんだ」

 

 ポールはそこまで一気に話したあとコップに口をつける。


 「ムセンもなんというかガキ大将みたいな奴だけど酒さえ飲まなければいい奴だ。アリサは冷静沈着だけど怒らせたら一番怖い。シエンはああ見えてお酒がメンバーの中で一番強くてさ……カルナはなんというか君に似ているよ」


 「俺に?」

 

 「あぁそうさ、常に刺激を……理想をどこか追い求めている」


 俺は沈黙する。


 「気を悪くさせたならあやまる。だけど、君や花蓮を見ていると思い出すんだ、純粋に冒険に……達成感を求めていたあの頃を」


 「…………俺は酒を飲んでもいい奴だぞ」とポールは起き上がる。


 「悪いムセン、起こしたか」とポールが振り返る。


 「いや、どうにも胸騒ぎがして眠れねぇ……今度はお前が寝ろ。俺からも話したいこともあるしな」


 素直に眠るポールをよそにムセンはあぐらをかく。


 「単刀直入に聞くぜ……兄弟……いやリョウキ」


 「……なんだ?」


 「お前、俺が怖いか?」


 そう真剣にムセンがいうけど俺は「別に怖くない」と無難に返事する。


 するとムセンはみるみるうちに全身から毛をはやし黒い狼男になる。


 「……これでもそういえるか?」


 鋭い獣の眼光が俺を睨みつける。


 

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