14

 梶は思わず目を閉じ、その音にすべてを委ねていた。さっきまで心中渦巻いていた不穏な気配は微塵も感じない。



 やがて音は途切れ、演奏が終わったのだと気付く。梶は顔をあげて橋本文香を見つめた。


 「……すごかった」


 単調な感想しか出てこない。


 他に気の利いた言葉を知っていれば違ったのだろうが、こればかりは致し方ない。


 しかしそんな梶の心中を他所に、橋本文香ははしゃぐように身を揺らした。釣り上げられた魚のように、その身体が飛びあがる。


 「そうなの!ユーフォってすごいの!」


 身を乗り出してそう話をする橋本文香の瞳はきらきらと眩しい。


 一途に輝くその視線の先にいるのが自分であるのだと、梶は勘違いをしそうになった。


 恐らく彼女の瞳が見つめているのはユーフォニュームという楽器なのだろう。

 さっきまで頬を赤く染めていた彼女とは打って変わった姿に、梶は自分を律するようにそう言い聞かせた。


 「中学でも吹奏楽だったの?」


 梶はもとあった距離感を保とうと、やや身を後ろに引いた。


 「うん、小学校の頃から吹奏楽をしていて。ずっとユーフォを担当していたの」

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