第34話 好きな人が私のことを好きだったらいいのに

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 秋斗に花火大会の誘いを断られた里緒奈はバスケ部の長濱琴ながはまこと久世彩芽くぜあやめに連絡をし、3人で花火を見る約束を取り付けた。


 当日、部活が押していて遅れると連絡を受けた里緒奈は一足先に会場に足を運び、出店で食料を確保して回った。

 途中で他校の男子グループに声を掛けられるハプニング? イベント? が発生したが「私彼氏いるんで!(嘘)」と一蹴。

 その後もしつこく絡んできたのでできる限りの塩対応で追い払った。


 かなりの量を買い込んで両手が塞がったところにタイミング良く部活終わりの琴と彩芽が合流した。

 花火そっちのけで食べ物が食べられるスペースを探し、木の影に陣取った。


「やっぱり出店と言ったら焼きそばだよね」


 彩芽が焼きそばを口いっぱいに頬張る。

 花見ではないから花より団子ではないが、完全に花火より焼きそばといった様子だ。


「里緒奈、後でお金返すから金額教えてね」


「うん、大体でいいよ」


 しっかり者の琴がお金の心配をしてからフランクフルトをかじった。

 去年までだったら里緒奈も花火をメインに楽しんでいたが、今年は去年までとは状況が違う。

 花火の音と虫の音が夏を感じさせる夜。

 人々が空を見上げる中、3人は人目も気にせず爆食を開始した。


「週末に東高と練習試合があるんだけど、祭先輩も出ると思うんだよね。多分スタメンではないと思うけど」


 早くも焼きそばを完食した彩芽。

 次の獲物(お好み焼き)に手を伸ばす。


「やっぱり祭先輩上手なんだ」


 直接プレーを見たことのない里緒奈は感心の声を漏らす。


「最初は半信半疑だったんだけど、1on1を挑んで対峙してみてスキルの差を感じたね」


「彩芽、祭先輩に負けてからバスケ熱が一段と上がったよね」


「中からも外からも打てるのは反則だと思う」


 仕方のないことだが部活の話になると里緒奈は蚊帳の外になってしまう。

 と、同時に里緒奈はそんな2人が羨ましくもあった。

 部活に所属していれば同じ熱量を持った仲間とこうやって語り合う未来があったのかもしれない。

 クリエイターの仲間はいるが、秋斗や颯や美結は関係性的に先輩になってしまう。

 ましてやジャンルも違うから専門的な相談や意見交換はできない。

 里緒奈が次のステージに上がるには切磋琢磨し合えるライバルのような相手が必要なのかもしれない。


「祭先輩、部に馴染めたならよかったね」


「うん、先輩たちの反応を見るに中学の頃のようにはならなさそう」


 琴が頷きながらフランクフルトの串を容器に置いた。


「玉越部長のフォローも大きいよね」


 口の周りにお好み焼きのソースを付けた彩芽が部長の名前を挙げる。


「そうだね」


 部長の玉越が率先して新部員を受け入れる雰囲気作りを行ったことで祭も早く部に馴染むことができた。

 すでに3年生が引退していて祭と同学年の2年生が部の中心になっていたことも大きい。


「花火、そろそろクライマックスかな?」


 里緒奈が振り返り、木の影から顔を出す。

 夜空に咲き乱れる無数の光が滝のように流れ落ちる。


「綺麗」


 琴も彩芽も食べる手を止め、里緒奈の横に並んで空を見上げる。

 せっかく花火大会に来たのだから1枚くらい。

 そう思い、里緒奈が両手でスマホを持ち画角を調整する。

 消えかかる花火を写真に収めようとシャッターを切ろうとするがその手が寸前で止まった。


「秋斗先輩……?」


 スマホを下ろし、視線をゆっくりと下げていく。

 視線の先には秋斗と祭の姿があった。

 2人は手を繋いでいて楽しそうに笑い合っている。


「先輩、用事ってそういうことだったんだ」


 自分といる時には見せない表情を目の当たりにして里緒奈が下唇を噛んだ。

 薄々勘づいてはいた。

 誰よりも秋斗のことを側で見てきたから。

 表情や声色から大体考えていることは読み取れた。


 昨日、公園で花火大会に誘った時も。

 なんとなくは分かっていた。

 いつからか秋斗の目は祭を追うようになっていたから。


 

『私、先輩のこと諦めませんからね』



 そう宣言したのも本当はただの強がりだった。

 どんなことをしても秋斗の気持ちは変わらない。

 じゃあ、秋斗を好きだというこの気持ちはどうすればいいのか。

 どこに向ければいいのか。


 好きな人には好きな人がいる。

 それは自分じゃない。

 好きな人が自分のことを好きでいてくれたらどれだけ幸せだっただろうか。


「私だって先輩のことが好きなのに」


 花火が散る中で吐かれた里緒奈の震えた言葉。

 同じ光景を見ていた琴と彩芽が優しく里緒奈の背中を撫でた。

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