見上げてはいけない窓

不可逆性FIG

学校の怪談

 これは友人のT君から聞いた話。

 T君の中学校には見上げてはいけない窓があるらしい。それは一学期終業式の日、学校正門から見て奥まった場所にある、花壇から正面真上三階の封鎖された空き教室の窓である。

 しかし、怪談としては存在するが、肝心の内容については曖昧で確かなことがなかった。なので昔、とある男子生徒が冗談半分な度胸試しでその窓を見上げたことがあるそうだ。そのとき体験した出来事が、今もまことしやかに生徒から生徒へ語り継がれてT君も知ることになったそうだ。


 その彼が曖昧な怪談の噂を知ってから、二年生になった一学期終業式の放課後。いつになく「そんなもんただの噂話だ。さっさと帰りなさい」と担任の先生に強く注意され、どうにも釈然としない違和感に逆に興味が出てきたのだった。

 シンと静まり返る奥の花壇のレンガにひとりぼっちで腰掛ける。怪談の通りなら三階の窓に何かが起こるはず。

 だが、待てども何も起こらない。しかし下校を告げる物悲しいチャイムが響いたとき。


「あっ」


 と、思わず彼は声が漏れる。

 見てしまったのだった。退屈でぼんやりと見上げていた窓に映っていたのだ、長い髪の人影が。

 あの噂は本当だったんだ! 彼は興奮と緊張で息を殺しながら人影を見つめていると、長い髪の女は突然窓ガラスにビタリと両手を貼り付けた。窓の外を覗き込むようにして酷く青白い女生徒の顔が露わになる。

 聞いたことがあった。以前にあの窓から不可解な転落死した女生徒がいて、怨念となった今もまだ後ろから突き落としたであろう誰かを探すために現れるのだ……と。


 すっかり血の気が引いた彼は、やがて気付いてしまう。三階の窓から彼を見下ろす女のを理解した途端バッグをひっ掴み、後悔の中、息も絶え絶え無我夢中に逃げ出してしまうのだった。

 見なければよかったのに、彼は見たのだ。見てしまったのだ。

 にんまりと微笑みながら、青白い女の唇が繰り返し動いていることに。


「み、つ、け、た」と嬉しそうに動いていたことに。



〈了〉

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