第2話


 そうして臨んだ王城での立太子パーティー。


 開会の挨拶を済ませた瞬間に、


「リリアラ・フォルテ! 王太子であるこのわたしへと毒を盛った罪、許されるとは思うまい! 貴様との婚約は今をもって破棄し、取り調べの為にその身を拘束させてもらう!!」


 そう叫んだ。


 一気にざわつく会場。


 婚約者……いや、元婚約者のリリアラ・フォルテが注目を浴び、一瞬だけ驚いた顔をした。そして、


「婚約破棄については、喜んで応じさせて頂きます。けれど、殿下が毒が盛られたことに付いては、全く身に覚えがありません。冤罪です」


 冷たい表情で言った。


「惚けるつもりか? 貴様がわたしへと送り付けて来た食料品や香などの怪しい品々、そして医師だと偽ってわたしへ差し向けた不審な男のことだ」

「ああ、アレ・・ですか。アレ・・については……後日お話ししますので」


 どことなく浮かない表情で言葉を濁すリリアラ。


「後日ではなく、弁明があるのなら今この場で聞いてやるっ!」

「それは…………」

「その身にやましいことがないというのなら、この場で話せる筈だ! それともやはり、貴様はわたしの暗殺を企んでいたのではないかっ!? だから皆の前で話すことができないのだろうっ! 違うかっ!?」

「王族の暗殺未遂とは、穏やかでない。証拠があって言っているのだろうな?」


 俺の厳しい追及に、国王である父からの重々しい問い掛け。


「はい。リリアラ・フォルテから送られて来た食料品などは概ね保管してあります。きっと、この国では見られない毒物のたぐいが検出される筈です」

「そうか。リリアラ・フォルテよ。直答を許す。弁明があるのなら聞こう」


 国王であるからか、一応は罪人であるリリアラの言を聞くつもりらしい。さっさと牢にでも入れてしまえばいいものを。


「…………わかりました。このような場で話すことではありませんが、国家反逆罪という冤罪を掛けられ、一族にまで累が及んでは堪りません。全て正直にお話し致します」


 リリアラは、国王へと視線を向けて訴えた。


「実は…………わたくしは、第一王子殿下の身を案じていたのです」

「嘘をくなっ!? 案じている振りをしてわたしを害するつもりだったのだろうっ!?」

「今はリリアラ・フォルテの言を聞いている。邪魔をするでない」


 低い声で威圧的に睨まれ、思わず身が竦んだ。


「も、申し訳ありません」

「リリアラ・フォルテ、続けよ」

「はい。わたくしは、真実殿下の身を案じておりました。わたくしの行動が、殿下のご不興を買っていることは重々承知しておりました。ですが、殿下の御身を案じての言動や贈り物であったことは、ご理解くださいませ」


 婚約者を案じる振りを続けて同情でも買うつもりか? この程度で父が絆される筈はないだろうに。


「そうか、しかしそれは息子には伝わっていないようだが? 息子の言っている、其方が送ったという食料品、その他の品は真実毒物ではない、と?」

「はい。ですが、体質に合わなくて具合が悪くなってしまう可能性もまれにはあります。その場合は、申し訳なく思いますけど」

「成る程。では、不審人物を息子へ近付けというのはどういうことだ?」

「それ、はっ…………」


 リリアラは言葉に詰まり、俺を見やる。その頬が、なぜかサッと赤く染まった。そして、意を決したように真っ赤な顔を上げ、


「わたくしは婚約を破棄された身。このような身で、なにを恥じらうことがありましょうか…………」


 大きく息を吸い、


「殿下が性病にかかっていないか心配になり、性病の専門医に秘密裡に診察を受けてもらおうとしましたっ!!!!」


 デカい声で物凄い爆弾発言をかましやがった~~~~~っ!?!?!?


 しんと静まり返る会場。集まっていた紳士淑女の皆が、愕然とリリアラを見ている。


「殿下の浮名は、以前にもご報告しました通りです。無論、わたくしも殿下をお諫め致しましたわ。けれど、『婚約者だからと今から妻のような顔をするな』、と。『学生の今のうちに自由を謳歌させろ』、と。『交友関係に口出しするのはやめろ』、と強く叱責されてしまいました。父にも、陛下にもそのことをご相談させて頂きましたが、浮気を許すのも女の甲斐性なのだと、『悋気りんきを起こしてはならない』、と。そう諭され、相手にされることはありませんでした。そして殿下は、わたくしの口出しが無くなると、更に羽目を外すようになって行きました。殿下が側近の方々と幾度も城を抜け出し、下町の安宿で、私娼ししょうを相手にしていたことをご存知でしょうか? そんな色欲旺盛な殿下へ、鎮静効果・・・・のあるハーブや食べ物、お香などをお送り致しました。しばらくは殿下の侍従が、羽目を外している殿下を心配して殿下へ出したり、お香を焚いたりしていたようですが、その後、その侍従を含めた使用人の幾名かは殿下の世話役から外されている筈です。そんな乱れた生活を送る殿下を心配して、性病の専門医を手配致しました。けれど……殿下はその診察をっ、拒否なさいましたっ!!」


 切々と訴えるリリアラ。


「な、なっ、貴様っ!? 女のクセになんてことを公衆の面前で言うんだっ!?!?」

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