第237話 動き出す陣営 ①



  カナン王国 王城 謁見の間――――



  玉座に座る大柄な男、カナン王 ガバディ・T・カナンが呟いた。


 「もっと早くこうすべきだったのだ。」


 「左様で御座いますな、王の決断に多くの民は納得している事でしょう。」


 相槌を打ったのは玉座の隣に立っている男、現相談役の妖術師ダストである。


 他に玉座の間に控えているのは、近衛騎士が数名とメイド、それと。


 「お父様、もうこの様な事はお止め下さい。一体どうなされてしまわれたのですか? 父上。」


 カナン王に意見したのは、その娘、エストファーネ姫だ。


 エストファーネ姫は愁いを帯びた目で、玉座の間中央に横たわっているモノを見つめ、震える声を発した。


 「何故、この様な事を………。」


 それを見たカナン王は、しかし動じる事無くスラスラと言葉を続ける。


 「この者が儂に不快を与えたからだ、のう、ダストよ。」


 「まったくもってその通り、陛下の仰る通りで御座いますな。」


 二人のやりとりに、エストファーネはキッとした目を向け、声を荒げた。


 「だからと言って、なにも殺す事はありませんでしょう!」


 「大丈夫だエストよ、こうなる事は想定済みなのだよ。」


 玉座の間の中央には、一人の男が息も無く横たわっていた。


 「どうするのです父上! 聖リーアベルト王国の使者を殺すなんて、何をお考えなのです!」


 「まあまあ、お気をお鎮め下さい。エストファーネ様。」


 「あなたの指示でしょう!」


 エストファーネは王の隣に佇んでいる男を見やり、睨み付けた。


 「仕方ありませんでしょう、まさか陛下に戦争をやめるよう意見するなど、ましてや、これ以上続けるなら聖リーアベルト王国はレダに味方するとほざくなど。」


 「そもそも! あなたが我が国に来てからというもの、おかしな事が続いています! 父上! 何故賢者マリアを追放したのですか?」


 「仕方なかろう、ダストとの魔法勝負で負けたのだから。より優秀な人材を我が相談役に据えるのは当たり前の事であろう。」


 「父上………。」


 このやり取りに、エストファーネは心を痛め、また、相談役のダストに良くない感情を抱いていた。


 「戦になりますよ、父上。聖リーアベルト王国と。」


 「寧ろ望むところだ、初めからレダ王国など二の次三の次、儂の目的はあくまでリーアベルトだ。あそこの女王は大層美しい女だからな、儂のコレクションに加えたいと思っていたところだよ。」


 この発言に、エストファーネは心底嫌な感情が溢れ、堪らなくなり玉座の間を辞した。


 「わたくし、これで失礼します。」


 「待て、エスト。」


 しかし、ここで王から言葉があった。


 「メディオンの事は諦めよ、良いな?」


 「………………失礼します。」


 エストファーネは振り返る事も無く、玉座の間を出て行った。


 「まったく、女というのは御し難いな。」


 「しかし、エスト様は何故ああも機嫌が悪いのでしょうか?」


 「知らんよ、兎に角だ、これでリーアベルト王国との戦争は避けられないだろう。使者を殺し、それを送り返す訳だからな。」


 「ですが、良い判断かと。そろそろあの国にも我慢の限界だった訳ですからな。」


 カナン王とダストは顔を見合わせ、二ヤリとした笑みをして頷き合う。


 「いよいよだ、いよいよ我が望みが叶う。これからも頼むぞ、ダストよ。」


 「は、お任せを。それと、改宗の件は何時頃?」


 「近いうちにだ、女神教を捨て去り、ゲンドラシル教を国教とする話であろう、任せておけ。」


 「はは、よろしくお頼み申します。陛下。」


 王の相談役ダストは、頭を垂れつつも、口元がニヤついているのだった。



   レダ王国 プロマロックの町 うみねこ亭――――



  「で、そのカナンの賢者様が何でこんな所に?」


 俺は疑問に思った事を訊き、様子をみた。


 もう「答え合わせ飲み比べ」は終了している、今はお互い普通に会話をしている。


 「その前に、貴方の事を聞きたいわね、「聖剣の勇者」殿。」


 ……この人、どこまで俺の事を知っているんだろうか?


 「流石は賢者様といったところか、色々と物知りですな。」


 「うふふ、私、「時の賢者」と呼ばれていた事もあるのよ。」


 な、なんだってー!?


 賢者マリアは不敵な笑みを湛え、俺とドニを交互に見やり、反応を楽しんでいた。


 ここでドニが俺に説明があると言い、情報屋としての仕事ぶりを発揮した。


 「ジャズ、ここからは極秘扱いで頼む。」


 「お、おう。」


 しかし、ここでマリアが俺の袖をクイクイと引っ張り、自分を指差した。


 「その前に、まず私の質問に答えて頂戴。そして話を聞きなさいな。」


 ふーむ、そうだな、俺もこの賢者には聞きたい事がある。


 「時の賢者って事は、あんた、700年前の戦いの生き証人かい?」


 時の賢者の事は知っている、ゲーム「ラングサーガ」に登場した味方キャラで、優秀な魔法使いだった。


 つまり、このおねーさんは700年前の勇者率いる義勇軍のメンバーで、歴史の生き証人って訳だ。


 「どうにも話が見えねえな、一体なんの話だ?」


 ドニが疑問に思っていたが、無理も無い、俺ですらゲーム知識を持ってしてようやく知り得る情報だからだ。


 「ねえ、聖剣の勇者殿、私達は二人きりでお話をした方が良いんじゃないかしら?」


 「………………そうですね、ただ、ドニにも説明して貰わないと、俺も今混乱してますんで。」


 「おいおい、話が見えねえって。俺にも解る様に説明してくれよ、これでも情報で飯を食ってるんだ。アテにしてくれても良いぜ。」


 ふーむ、ドニはこう言うが、はてさて、どうしたもんか。


 「私は勇者殿とお話したいな~。」


 「抜け駆けは無しにしようや。」


 ドニとマリアはお互いに牽制し合い、俺から情報を聞き出そうとしている。


 「ちょっと待ってくれ、俺だって知りたい事があるんだ。ここは三人で仲良く情報のやり取りといこうよ。」


 俺の提案に、マリアは首を縦に振らなかった。


 「私は話せる事が限られているわ、聖剣の勇者とお話したいのよ。」


 「俺だって様々な情報を仕入れたいんだよ、役に立つぜ。」


 うーん、さて、どうしよう。時の賢者の事を詳しく聞きたいが、それは俺が知っているゲーム知識と同じかどうかを知るためだ。


 この世界は「ラングサーガ」だと思うが、どこか違った要素があるところがあったりして、中々一筋縄にはいかない感じだし。


 ドニも交えて情報の交換といきたいところだが、俺の知識を全て出すつもりも無い。


 自己紹介は済んだ、あとは各々の目的が一致するかどうか、ますは話し合いだな。


 「じゃあ、こうしよう。まず俺とマリアさんと二人で話す。で、その後ドニと話す。そこでドニに話せる内容だけの情報を話す。で、どうかな?」


 俺の提案に、二人は納得してくれた。まずは時の賢者マリアさんからだ。


 俺とマリアさんは酒場の奥の個室へと移動し、ドア越しに会話が漏れないように魔法で密閉処理を施した。


 「流石は賢者様ですな、声が外へ漏れない様に魔法で空間を遮断するとは。」


 「まあ、時の賢者なんて呼ばれていたし、これくらいの芸当はね。」


 個室にはテーブルが一つ、椅子が二つ、水差しがあり、コップが二つ。


 窓が無い為、ロウソクの灯りだけで部屋を照らす。


 コップに水を注ぎ、テーブルに置いて椅子に座る。


 向かい合っての話し会い、というよりただの会話だが、俺の知識とすり合わせをしとかなくてはならない。


 「さてと、何から話しましょうか?」


 マリアが口を開き、俺に質問を促した。俺は取り敢えず聞きたい事を聞く。


 「貴女は、700年前の戦いの生き証人ですか?」


 俺の質問に、マリアはにこりと微笑み、答えた。


 「人魔戦争ね、勇者率いる義勇軍と、魔王率いる魔王軍との戦。そう、私はその戦いに参加していたわ。」


 やはり、ゲーム「ラングサーガ」の生き証人だったか。ならば聞きたい事が色々ある。


 「それなら、聞きたい事はまず、この世界はその戦いから700年経っている訳ですよね?」


 にも関わらず、「ラングサーガ」のシナリオとそっくりな事案があったりする。


 この矛盾をどう説明出来るのか、いや、薄々は勘付いているが、確証が無い。


 「この世界は、いわゆる、他の世界との融合世界ではないのですか?」


 俺は思い切って聞いてみた、ところが、マリアの答えは意外なモノだった。


 「ちょっとまって、私、義勇軍には参加していたけど、この世界の成り立ちとかはまだ話せないわ。」


 「それは、何故です?」


 「まず、貴方の持つ知識がどの程度なのかを知らなくちゃいけないからよ。」


 なるほど、道理だ。


 さて、そうなると、どこまで話していいものか、俺が異世界から来たのは多分気付いているだろうし。


 「俺が異世界から来たのは御存じでしょうし。」


 「え!? そうなの?」


 「え?」


 時の賢者ってゆーからてっきり。


 どゆこと?




 


 


 


 


 


 


   

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