第227話 ドニの場合 ①
俺の名はドニ、盗賊ギルドに所属する情報屋だ。
こう見えてクラスは上級職のマスターシーフなんだぜ。
よく勘違いする奴がいるが、盗賊ギルドってのは殺しはしない。
暗殺ギルドじゃねえからな、まぁ闇商売である事は認めるがな。
盗賊ギルドは主に都市部に拠点がある、都会じゃなきゃ足が付き易いからな。
それでも優秀な衛兵は居るものだ、ギルドメンバーをしょっ引く場合もある。
ま、盗品を扱っている訳だし、油断してると捕まる訳だな。
しかし、俺の場合は少し違う、情報ってのは価値があるものだ。
その価値を見出した者は、大抵大物や国の重鎮だったりする。
そんな訳で、今回俺が動いたのはある国の重鎮からの依頼が来たからだ。
俺の活動している場所は、もっぱらアリシア王国だ。
その王都が俺のマイホームタウンって訳だ、もう解るよな?
ある国の重鎮ってのは、アリシア王国の宰相を務めるボード氏だ。
依頼内容を要約すると、どうもアリシアとの間に交易路を確保したい国があるらしい。
海軍が既に海路を調べて、海図に印を書いたらしい。
じゃあ、俺の仕事ってのは何か、簡単な事だ。
その交易相手の国を、信用出来るか調べて欲しいって事だな。
商人ギルドでは既に取引が進んでいるらしいが、いざ国と国が、それこそ突っ込んだ関係になる相手となると、慎重になるって事だな。
つまり、武器などを輸出入しても大丈夫な相手か、調べてこいという依頼だな。
身分を装って、俺は一般人のふりをして、客船に乗り込んだ。
人の行き来はある相手国、だが、情報となるとそうはいかない。
ともあれ俺は、アリシアの盗賊ギルドの代表として、相手国のギルドへ向かっている。
先ずは情報だ、それを仕入れられる環境かどうか、そこが大事だ。
情報を軽んじる相手なら組む必要性を感じない。
逆に情報を使って得るモノがある組織ならば、協力する。
「やれやれ、宰相もお人が悪い。」
俺の今乗っている船は、なんと海賊船だった。
船長は女海賊団「ドクロのリリー」のリスティル、ジャズが「ちびっ子」と言っていた女性のドワーフだ。
「おっさんも大変だねえ、国の遣いっぱしりをするなんてさ。」
「お前程じゃない、そっちは海賊船を手配してるじゃねえか。」
「おっと、今のあたいはドクロのリリーじゃないよ。客船の船長さんだからね、間違っちゃあ困る。」
「モノは言い様だな、傍から見たらどう見えるか知ってるか?」
「何が言いたいのさ?」
「女ばかりの客船、こりゃあどう見ても娼婦船だぜ。海の上で商売するつもりか?」
「なっ!? 馬鹿にすんなよな! あたい等は娼婦じゃない! 海賊だ!」
「解ったからでけえ声を出すな、どこで誰が聞いてるか解らんのだぞ。」
「はっ! びびっちゃってさ、あんたホントに盗賊ギルドのメンバーなのかい?」
「俺の扱う商品は情報でな、高く買い取ってくれる奴なら敵地まで行く事もあるんだぜ。」
「ふ~ん、敵地ねえ。」
俺と船長が話し込んでいると、船員から声が掛けられた。
「船長ー! もうじき陸地が見えてきます!」
「ご苦労さん! 引き続き監視の目、頼むよ!」
「あいあいさー!」
なんだかなあ、女ばかりってのはどうにも居心地が悪い。
かと言って、会話を楽しむ性分じゃない。程々が一番だ。
俺は依頼の難易度を予想しつつ、時が過ぎるのを待つ。
「陸地が見えた! お客さん! あそこだろ? あんたが上陸する国ってのは。」
「ああ、あそこだ、間違いない。」
ほーう、この短期間で目的地に到着か、中々優秀な船乗り連中なのか?
これは、女だからと侮らない方が良さそうだ。
確かに、船乗りとしての腕は一級だと思う、実際にこうして辿り着いた訳だしな。
陸地を眺めていた俺に、船長のちびっ子が訊いて来た。
「ねえあんた、あそこで何やる気? 何をしてくるんだい?」
俺はいつものように帽子を深く被り、答える。
「情報収集さ。」
俺が船から陸地を眺めていると、他の船員も見に来た。
「ああ、久々の陸だー。」
「早く上がって酒でも飲みたい。」
「その前に風呂だよ風呂、いい加減臭いのはやだからね。」
「違いない。」
「「「 がっはっはっはっは。 」」」
一応女ってのを忘れてなかったようで安心した、船乗りってのはこれで中々大変らしい。
「ねえ、あんたさ、あそこが何処か解るのかい?」
「ああ、知っている、俺が赴く場所だ。」
「名前とかは知ってるのかい?」
ちびっ子が聞きたそうにしていたので、俺はこう答える。
「あそこか? あそこはレダ王国だよ。」
レダ王国、セコンド大陸の南西部に位置している国で、今回の仕事の目的地。
そう、アリシア王国の上層部はレダ王国上層部との交易を結ぼうとしているのだった。
商売と政治、両方の面で。
「さて、これから一体何が起きるのか。見物と洒落込めると良いがな。」
それは無理な相談か、俺が出張って来た段階でもう波乱に満ちている事は間違いないだろうな。
俺は船首から陸地を眺め、溜息を付いた。
「俺は外交官じゃねえんだがな。」
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