第190話 過去からの報酬



 バルビロン要塞奪還作戦が終了し、俺は姐御とガーネット、ラット君と一緒に帰る事になった。


 姉御とは王都まで一緒だったが、女神神殿に用があるとかで、姐御とはそこで別れた。


 俺とガーネットとラット君とで王都から出て、三人でクラッチの町へ帰還した。


 クラッチに着いたので、今度はガーネット達が冒険者ギルドに用があるらしく、そこで別れた。


 一人になった俺は、とりあえず依頼をこなしたので、魔法の杖の持ち主であるユーシアさんの下へ向かう事にした。


「確か、噴水広場で待っていると言ってたよな。早速行ってみよう。」


歩いて噴水広場まで出向き、辺りを見回す。


「ふーむ、居ないな。」


ユーシアさんらしき人を探すも、どこにもその姿は確認できなかった。


確か、白いローブを纏っていたよな、ベンチにでも座って待っていよう。


「お昼時だからな、きっと飯でも食ってるんだろう。」


 しばし待つことにする。そういやあ俺も腹が減ったなと思い、屋台で肉串を買ってベンチで食べる。


「うん、旨い。やっぱ寒い季節には温かい物だよな。」


時折吹く風が肌寒く、冬の季節を感じさせる。


「ふうー、寒いなあ~。ユーシアさん、まだかな~。」


ここで待っていればいいと思うのだが、さて、………来ない。


ふーむ、待てども待てども、一向にユーシアさんがやって来る気配は無かった。


 おかしいな? もうそろそろ夕方になるぞ。ここで待っているという事だったが。はて?


 試しにアイテムボックスから、ユーシアさんに依頼された魔法の杖、ウィザードロッドを取り出し、確認してみた。


「うん、間違いない。ユーシアさんに頼まれた依頼の品、ウィザードロッドに間違いない。」


杖を手に持ち、色々と眺めていたら、旅装をしたお爺さんに声を掛けられた。


「おお!? あんた、それ、ユーシアさんの杖じゃないかね?」


「え? はあ。そうだと思いますけど。」


お爺さんは俺の手に持っている杖を見て、なにやら感慨に耽っている様子で話した。


「そうか………お前さんが見つけてきてくれたのか。」


「ん? どういう事でしょうか?」


俺が訪ねると、お爺さんは何か、思い出話をするかのように語り始めた。


「あれは、30年前の事じゃった。要塞奪還作戦当時、アリシア軍は劣勢でな、バルビロン要塞から撤退するところまで追い込まれていたんじゃ。」


「えーと、確かその時ですよね。四種族連合軍が救援に駆けつけてきたのは。」


「うむ、そうじゃ。じゃがな、その撤退戦の時、儂とユーシアさんは味方の撤退を支援する為、殿しんがりを務めたんじゃが、最後の最後になって、ユーシアさんが儂にこれを渡してきたんじゃ。」


そう言って、お爺さんは懐からポーチのような物を出した。


「これはマジックアイテムのポーチでな、ユーシアさんは儂にこれを渡して、こう言ったんじゃ。「もし私に何かあれば、遠慮なく使って欲しい。」とな。」


「へ~、マジックポーチですか、中々価値がある品で、アイテムを入れる鞄ですよね。」


「うむ、しかしのう、これを使う事を、儂は遂に出来なんだわい。ユーシアさんは結局、戻ってはこなかったんじゃ。売る事も使う事も出来なんだわい。」


「え? それって………。」


「うむ、ユーシアさんは戻って来なかったんじゃ。儂等を逃がして、自分は撤退支援に専念しての。」


それって、つまり………。


「ユーシアさんは、戦死したという事でしょうか。」


「うむ、そうじゃろうな………………これでも儂は待ったんじゃ。今の今までな。じゃが、ユーシアさんの杖がここにあるという事は、そう言う事であろう。」


「そんな………………。」


じゃあ、あの時のユーシアさんは一体。


「儂はユーシアさんを探したんじゃ、じゃが、結局見つからなかった。」


30年も前に、ユーシアさんは………………。


「そして今、町の噂でバルビロン要塞が奪還されたと聞き、儂は決心したんじゃ。ユーシアさんをもう一度探そうと思っての。」


「そうでしたか。」


「じゃが、お前さんがその杖を持っているという事は、これは何かの知らせだと思うのじゃ。のう、お前さん、その杖を儂に預けんか? 儂はこれからユーシアさんの故郷へ赴こうと思っておったのじゃ。」


ふむ、このお爺さんはユーシアさんと知り合いらしいし、いいかな。


「………………そうですね、俺が持ってるより、その方がいい様な気がします。」


俺は、ウィザードロッドをお爺さんに渡した。


「ありがとう………………これで、ユーシアさんへの恩を返せるわい。」


 ふう~、やれやれ。やっと肩の荷が下りた気がする。これで良かったんだよな、きっと。


「そうじゃ、お前さんに何か差し上げよう。杖の替わりじゃ。」


そう言って、お爺さんは懐から指輪を3つ取り出した。


「これはのう、魔法の指輪じゃ。これが力の指輪、こっちが守りの指輪、そしてこれが氷の魔法が封じられたアイスリングじゃ。」


ふむ、マジックアイテムか。


「なるほど、金貨10枚に、マジックアイテムを一つ………………か。」


「ん? 何か言ったかの?」


「いえ、何でもありません。では、力の指輪を頂けますか。」


「うむ、いいとも。………………懐かしいのう、この指輪は儂がまだ現役だった頃、ユーシアさんと共に手に入れたアイテムなんじゃよ。二人共自分の物だと主張しての、ケンカばかりしておったわい。ふぉっふぉっふぉ。」


「そんな貴重なアイテムを、頂いてもよろしいのですか?」


「な~に、引退した儂が持っていても役に立たんわい。それよりお前さんのような現役に使って貰ったほうがええわい。」


 こうして、俺は力の指輪を手に入れた。こいつは攻撃力が上昇するマジックアイテムだ。きっと重宝するだろう。


「ありがとうございます、大切にします。」


「うむ、ではな若いの。儂はユーシアさんの故郷へこれらのアイテムを届けに行くでな。達者でな。」


「はい、お爺さんも、お気を付けて。」


 別れ際のお爺さんの背中は、どこか寂しそうだったが、そこでふと、こちらを振り向き笑顔で声を上げた。


「おお、そうじゃ。噂を聞いたんじゃが、どうやらあのアリシアの英雄が要塞奪還の折、オークキングを倒したらしいぞい。流石じゃのう。」


「ええ、………………そうですね。」


 お爺さんは、ゆっくりと歩き出し、町の外へ向けて進んで行き、雑踏の中へと消えて行った。


ふむ。そうか。


 なるほど、報酬の金貨10枚に一つのマジックアイテムってのは、こう言う事だったのか。



 {キャンペーンシナリオをクリアしました}

 {経験点30000点獲得しました}

 {ショップポイント10000ポイント獲得しました}



 おや、いつもの女性の声だ。キャンペーンシナリオをクリアしたらしい。沢山経験点を貰えたな。


不意に、夕方の空を仰ぎ見て、渡り鳥が飛んで行くのを眺めた。


ユーシアさんも………………きっと………………。


 冷たさを、風が運んでくる。


 冬の季節らしく、寒さが空を、滲む景色へと変えていく。


 そんな冬の、出来事であった。











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第3部      完

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