第189話 依頼の達成
要塞奪還が成功し、事後処理に追われている味方をよそに、バルク将軍と合流した。
俺達はバルク将軍を伴ない、バルビロン要塞内部へと向かい、宝物庫へとやって来ていた。
「なんかさあ、あれだよあれ。パインサラダ食って柿崎ぃぃぃーーって叫ぶんだよ。」
「………………ジャズ、何言ってるの?」
「ごめん姐御、あまりにもシュールな光景だったんで、つい。」
宝物庫には、金銀財宝の他に、人の死体が一つ、血がべっとり付いた宝箱もある。
「なんてこった、居ないと思ったらこんな所で朽ちておったとは。」
バルク将軍が呟き、目の前の惨状を見にしている。皆もそうだ。
「ザーリアスだよな、これ。」
「そのようですね、モンスターが擬態した宝箱にやられたようです。」
「なんか、こうなると私もぞっとしないわね。」
傭兵三人も、口々に感想を述べている。俺はそっとジュリアナさんを見る。
「フフフ、あらあら、欲をかくとこうなるっていう、良い見本よね。」
「よく言いますね、ジュリアナさん。」
「どうするの? これ。」
俺とジュリアナさんと姐御で話し合い、結局スライムに処理して貰う事になった。
「よーし、これでアリシアの財源も潤う事であろう。運び出せ。」
バルク将軍が、共に連れ立って来た兵士に命令した。
ケイトがぼそりと零す。
「あ~あ、お宝が、目の前を通り過ぎてゆくわ。折角ここまで頑張ったのに。」
「はっはっは、そう言うな。ここにある宝はみな、アリシア王国の物だからな。」
マトックも残念そうにして見ている。
「指を咥えて見てるだけなんて、なんだかなあ~。」
「ふむ、そうだな。お前達は要塞奪還作戦の功労者であるからな、一人金貨10枚までなら、持って行ってもよかろう。」
「よろしいのですか? バルク将軍。」
俺が訪ねると、将軍はうむと頷き、相好を崩して笑った。
「なーに、女王陛下ならば、それくらいの褒美ぐらい用立てるつもりで許してくれるわい。」
「やったあ! 流石バルク将軍、話が分かるう~。」
みんなはここ一番の元気を取り戻した。やはり俺も嬉しい。
「10枚までだぞ、よいな? 一人金貨10枚までだからな、解っておるな?」
「勿論ですよ~、ひゃっほ~!」
「有難い、路銀が増えるのは心強いです。」
みんなはそれぞれ財布に金貨を入れていた。ふと思い出し、俺は姐御とジュリアナさんに声を掛ける。
「そういえば、姐御とジュリアナさんに報酬を払わなければいませんね。」
俺が言うと、二人共笑顔でこちらを向いた。
「気にしなくていいわよ、こうして金貨が貰えただけでも良しと思うわ。」
「私も、ここの金貨を貰えた事で、ジャズからの報酬はいいわよ。それとも二人きりでどこかへしけこみましょうか?」
「ジャズ、金貨を貰ったらさっさとクラッチに帰るわよ。」
「あん、連れないわねえ。」
こうして、俺達は一人金貨10枚を手に入れた。懐があったまったな。よしよし。
そして、俺の目的を果たす為、バルク将軍へ願い出る。
「バルク将軍、実は自分はある依頼を受けまして、ここにあるかもしれないアイテムを探して、持ち帰ろうと思うのですが。」
「どの様な物だ? ジャズ曹長。」
「は、魔法使いが所有する、魔法の杖です。ウィザードロッドなのですが。」
「ふむ、ならばアリシアの物ではあるまい。探して持ち帰るがよい。」
「はっ、ありがとうございます。将軍。」
さて、宝物庫の中をざっと見渡すと、色んなアイテムが転がっている。
バルク将軍の許可は貰った、あとは魔法の杖を探して持ち帰るだけだな。
がさごそと物色していると、見つけた! ウィザードロッドだ。
「あった! これだ。間違いない、ふう~やれやれ、これで依頼達成だな。」
姉御も探してくれていたみたいだった。
「姐御、見つけました、これです。」
「あらそう? 良かったわね、見つかって。これで依頼達成ね。」
「ええ、姐御、ジュリアナさん、ここまで付き合ってくれてありがとうございます。」
「いいのよ、そういう約束だし。」
「あら、もう終わり? お姉さんの必要性はあったかしら?」
「勿論ですよ、二人共、ありがとう。お陰で助かりました。」
こうして、俺はユーシアさんの依頼の品を見つけて、アイテムボックスへと入れたのだった。
「ここでの用事は済んだし、皆、そろそろここを出よう。」
「オッケー、みんな、お疲れ。」
「「「「 お疲れ様。 」」」」
要塞の建物の外へ出て、みんなで一休みしようと水を飲んでいた時だった。
ガーゴイルゲートを馬が通って駆けて来た、誰かと思ったら盗賊ギルドのドニだ。
「よう、ドニ。どうした?」
「おお! ジャズ。要塞奪還お疲れ! ところで、リース公子を見なかったか?」
「リース………公子?」
「アゲイン公国のリース公子だよ。大事な話があるんだ。どこに居るか知らないか?」
「リースさんなら、おそらく指揮官用テントに居ると思うが、何慌ててんだ?」
ドニは馬を操り、指揮官用テントへ向けて駆けだしていった。
「別件で用事があるって事だよ! じゃあなジャズ。」
ふーむ、リース公子か、公爵家って事は、王家の血縁者か。大層な身分の人だったんだな。貴族様とは思っていたが。
「俺達も指揮官用テントへ行こう。帰る前にリースさんに挨拶しないとね。」
「そうね、私達も行きましょう。」
こうして、俺達は指揮官用テントへと足を運んだが、テントの前で大きな怒鳴り声が響いた。
「なんだと!? それは誠か!!」
何だ? いやに騒がしいが。
「失礼します。」
俺達もテント内へ入ったのだが、そこではリースさん達アゲイン騎士団の面々と賢者ルカイン、それとドニが神妙な顔を突き合わせていた。
そこには何故かモヒカンコンビも居たが、さて、どう言う事かな?
「リース殿、別れの挨拶をしに来ましたが、何やらあったのですか?」
「おお!? これはジャズ殿、それとお仲間方よ。物は相談だが、我等に協力せんか?」
騎士ゴートが、俺達の顔を見るなり、いきなりそんな事を言ってきた。
「どういう事でしょうか? ジュリアナさんとはもう自分との雇用を済みましたが。」
「あら、そうよね。私はこれからリースさんに雇われる事になるのよね。」
「いえ、ジュリアナ嬢だけではありません。」
ここで、リースさんが声を掛けてきた。
「我々は強い人材を探しています、そして、共に戦ってくれる人を我等は望んでいるのです。」
「ん? どういう事でしょう?」
俺が訊き返すと、リースさんは真剣な表情で言葉を発する。
「実は、我が国アテナ王国の王都が、ワーズ帝国の侵攻を受け、陥落したとの知らせを、たった今聞いたところです。」
「え!? 陥落!」
うーむ、何やらきな臭くなってきたな。アテナ王国の王都が占領されたって事か。
「その、ワーズ帝国というのは、それ程危険な国なのでしょうか?」
「はい、ワーズ帝国は、邪神ゲンドラシルの教義を国教とし、女神教を信望している国に対して侵攻しているのです。」
ほう、邪神ねえ。聞いた事あるな。ゲーム「ラングサーガ」にも出てきたな。
「お話はわかりました。ですが自分は今すぐには動けません。他にやる事がありまして。」
「私も、用事があるので、行けません。」
俺と姐御は断った、だが、マトックとイズナが挙手をした。
「俺はいいぜ、手を貸そう。面白そうだ。」
「私も行きます。経験を積まねばなりませんから。」
ケイトは断る様だ。
「私は無理ね、これからユニコーンへ帰らないとならないから。」
話は決まった様だ、リース公子に付いて行く人は、ジュリアナさん、マトック、イズナの三人がリース公子に協力するようだ。
「では、儂の転移魔法。テレポートを使ってミニッツ大陸へ跳ぶかのう。」
「よろしくお願いします、賢者殿。」
「うむ、任せよ。」
賢者ルカインが杖をかざすと同時に、モヒカンコンビが慌てた様に言葉を発した。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺達もか!?」
「左様、そなた達も戦力として参加して貰うぞい。英雄よ。」
「そ、そんなぁ………………。」
俺が知らないうちに、モヒカンコンビはリース公子に執り立てられていたようだな。
まあ、身から出た錆だな。ほっとこう。
そして、賢者ルカインが呪文を唱えると、足元に魔法陣が現れて、リース公子達を巻き込んで転移していった。
何だか慌ただしいなあ。
「行ってしまったわね。」
「まあ、挨拶をした事には変わり有りませんから、いいと思いますけどね。」
「リースさん達、大丈夫かしら。」
「大丈夫だと思いますよ、魔剣グラムはマトックに渡したままですし、それにリースさん達は強いですから。」
「そうね、じゃあ私はアリシアの王都にある女神神殿に用があるから、ジャズとは王都まで一緒ね。」
「そうですか、では、ガーネット達と合流して、帰りましょうか。」
依頼も達成出来そうだし、ここでのやる事はもう終わったな。
まあ、要塞奪還作戦まで付き合う事になってしまったが、結果良ければ全て良し。だな。
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