第179話 ある三人の傭兵 ③




  四種族連合軍  仮設基地――――



 朝、結局答えが出ぬまま、三人の傭兵は要塞奪還作戦が開始される時まで休んでいた。


「マトック、何か考えがありますか?」


「いや、ねえ。イズナは?」


「ありません、何が正解か浮かびませんでした。ケイトの方はどうですか?」


「うーん、何も思いつかなかったわ。そもそも、この突撃作戦が無謀なのよ。」


「今に始まった事じゃないだろう。ザーリアスに言えよ。」


三人の傭兵は、味方を盾にする作戦を良しとせず、他に何か案があればと顔を突き合わせて色々案を出していたが、結局朝になってしまっていた。


「こうなったら仕方ねえ、俺達だけで要塞内部へ侵入し、宝物庫まで一気に駆け抜けよう。」


「それが出来ないから悩んでいたんでしょう。まったく、あの突撃馬鹿と変わらないじゃない。」


「しかし、力押しで勝負する事は決して間違いではありませんよ。モンスターが数で押してくるならば、こちらは質で勝負すればいいのでは?」


「イズナの言う通りだぜ、こっちが全力全開でアタックすりゃあ、意外と何とかなるかもしれないぜ。」


「そんな都合よく行く訳ないじゃない。もう。」


長年に渡り、要塞奪還が成っていない事を、三人は失念していた。


まだ若い三人にとって、このバルビロン要塞はそこまで脅威には感じていなかった。


前回の作戦で失敗したのは、確かに指揮官のザーリアスの不味い指揮でもあるが、モンスターが際限なく湧き出て来るという事態が、ここまで事態を悪化させていた。


 四種族連合軍は総勢400名ほど、皆続々と集結しだし、朝の出撃に備えて装備の点検などを行っていた。


そこへ、指揮官のザーリアスが出て来て、士気高揚の演説を行った。


だが、誰も聞いてはいなかった。やれ「突撃あるのみ」だの、やれ「死に物狂いで戦え」など、聞き飽きていた。


欠伸をしつつ、マトックが周囲を見渡すと、見知らぬ新顔が何人か目についた。


「おや? あれは昨日の新顔だな。ちょっと行って挨拶でもしてくるか。」


「私も行きましょう、戦場で背中を預ける訳ですから。」


「あ、私も。」


 そうして、三人の傭兵は見慣れない人物たちの下へ近づいて行った。


それに気が付き、騎士風の男が若者の剣士を庇うような位置取りで立ち塞いだ。


「やあ、いい天気だな。」


「そうですな。」


「まあ、そう警戒するなよ。俺はマトックだ。戦士で中級職のウォーリアだ。よろしく。」


「私はイズナと申します。御覧の通り異国の者です。剣士で中級職のソーズマンです。よろしく。」


「はいはい、次私。ケイトよ、盗賊でシーフ。よろしくね。」


三人は自己紹介し、相手の出方を窺った。


そして、挨拶をした三人に対して、一歩前に出てきたのは、貴族風の若者だった。


「おはよう、私はリース。異国の騎士を率いている者だ。宜しく頼む。」


「儂はゴート、騎士だ。オールドナイトというやつだ、宜しく頼む。」


「私はクリス、弓騎士のアローナイトです。よろしく頼みます。」


こうして、リース達も戦いに参加するのであった。


 そして。


「アンタ等も見かけないな、新顔か? どっから来たんだい?」


マトックが話しかけると、リース達以外にも他に新顔が居る事に気が付き、声を掛けていた。


声を掛けた相手も、三人の男女だった。


一人はイズナと同じ匂いがする、異国風の恰好をした男。


一人は騎士風の女剣士、ぱっと見冒険者かと思う様な風体だった。


そして、一人はどこからどう見ても、娼婦だった。一応二振りのスティレットで武装していたが、エロい恰好をしていたので、娼婦と勘違いしそうな盗賊風の女性だった。


「中々、ユニークな面子が揃っているじゃないか。俺はマトック、よろしくな。」


「よろしく、俺はジャズだ。すまんが、俺達三人は四種族連合軍に参加してないんだ。」


「え? そうなのか?」


「ああ、俺達は、ある目的の為に要塞内部へと突入し、宝物庫へと辿り着いてから、目的の物を取り戻す為にここまで来たんだ。」


宝物庫と訊いて、マトックはチャンスかと思った。同じ目的を持つ奴ならば、共に戦おうと思ったからだ。


「へー、宝物庫ねえ。じゃあさ、俺達と行動を共にしないか? 俺達三人の傭兵組も、ここの要塞内部にある宝物庫まで行く事が目的なんだよ。どうだ?」


ジャズと言う男は、一瞬考えていたのち、こう答えた。


「解った、いいぜ。その話乗った。まあ、「ガーゴイルゲート」までは一緒に戦う事になりそうだがな。」


「よっしゃ、決まりだな。よろしくなジャズ。互いに生きてここを出ようぜ。」


「ああ、お互いに生きて出よう。」


「そっちのお嬢さん方も紹介してくれよ。」


言われて、姐御は答える。


「私は姐御と呼ばれています。剣士です。よろしく頼みます。」


次いで、ジュリアナが答える。


「うっふ~ん、ジュリアナよ、宜しくね。坊や。」


「おいおい、坊やはやめてくれよ、こう見えて成人してんだぜ。まあ、よろしくな。」


 こうして、ジャズ達もバルビロン要塞奪還作戦に一時参加する運びとなった。


 ガーゴイルゲート。


要塞入り口を強固に守っている鉄扉である。


造りはドワーフ製。鋼鉄の板に樫の木の板を何枚も張り重ねた、非常に強固な扉である。


この扉を突破しなければ、要塞内部への進入は叶わない。


当然、モンスターもこのゲートを利用している為、その守りは鉄壁を誇る。


だが、隙が無い訳ではなかった。


 ガーゴイルゲートが開かなければ、そこからモンスターの増援が送れないからである。


 よって、要塞入り口前での戦いに勝利して、敵増援を待てば、ゲートは開くのが道理であった。


 そこを突いて突撃し、要塞内へ侵入し、中庭での戦いにもつれ込む作戦が基本となっていた。


 だが、モンスターの増援が際限なく沸いてくるので、戦いは膠着状態から、徐々に負け戦へと流れが変わるのであった。


そこを何とかしたいのが、四種族連合軍全員が思っていた事であった。


モンスターの増援さえ無ければ、何とかなりそうな戦いである。


果たして、この作戦は、上手く事が運ぶのか。


400の味方に対して、敵の数、おおよそ3000。


それぞれの奮起に期待する戦い、バルビロン要塞奪還作戦の前哨戦。


ガーゴイルゲートの戦いが、火蓋を切ろうとしていた。











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