第177話 ある三人の傭兵 ①



 

  バルビロン要塞から西へ1000メートル地点 仮設基地――――



 この仮設基地には、四種族連合軍が駐留している。


 マトック、イズナ、ケイトの傭兵三人は、命からがら要塞より脱出し、仮設基地へ帰還していた。


到着早々、疲れた体を労わる為に水を一杯飲み、喉を潤しつつ三人で会話する。


「ふう~、やっとこさ戻って来たな。」


「大変な作戦でしたね。まあ失敗に終わりましたが。」


「ホントよ! あともうちょっとで目的の宝物庫まで行けたのに! お宝を手に入れてこんな所からさっさとオサラバ出来たのに!」


ケイトがプンスカしている所を、マトックがいさめる様に続く。


「おいケイト、お前はシーフだからいいが、俺たちゃ要塞を奪還するまで帰れねえんだぞ。」


イズナも、どこか辟易としている。


「そういう契約ですからね、私達が傭兵ギルドから受けた依頼は。」


「言っとくけど、私だって傭兵ギルドのメンバーだからね、あんた達と一蓮托生よ。まったく、何が悲しくてこんな消耗戦に付き合ってんだか。」


 三人はそれぞれ、別の故郷からやって来ていた。


 マトックはセコンド大陸にある国から、イズナは極東の島国ファーイースト国から、ケイトはユニコーン王国からそれぞれここ、アリシア王国へ渡って来ていた。


 みんなそれぞれに目的があり、その目的を果たす為に集って来た傭兵ギルドのメンバーであった。


イズナが他の二人に質問する。


「今回の指揮は誰が執っていたのでしょうか?」


「まあ、間違いなくバルク将軍じゃない事は確かだな。」


「あ、私知ってる。ユニコーンから来た石鹸臭いお貴族様だってさ。確かザーリアスとか言ってたっけ?」


「げ! 貴族かよ。あーあ、どうせまた突撃馬鹿の手柄独り占め野郎だろうな。」


「私はバルク将軍に指揮を執って貰いたいですね、あの方ならば信用できます。」


「そりゃ俺だってそうさ。けどなあー、アリシアはここじゃ肩身が狭いからなあ。」


「アリシア軍が撤退して、代わりにユニコーン軍がやって来て幅を利かせているのよね。やだやだ。」


三人が水がめの水で顔を洗い、人心地付いた時、不意に横合いから声が掛けられた。


「傭兵諸君、ご苦労。生き残りは諸君たちだけのようだな。」


 バルク将軍だった、バルク将軍がそれぞれの兵に声を掛けながら基地内の士気高揚を促していた。


「これは! バルク将軍! お疲れ様です。」


「「 お疲れ様です、バルク将軍。 」」


「うむ、聞いたぞお前達、宝物庫に一番近づいたらしいな。」


バルク将軍も水を一杯飲みながら、会話に参加した。


「いやあ、結局はモンスターの大軍に押されて逃げてきましたけどね。」


「あともうちょっとだったんですよ、将軍。」


「しかし、武器も限界でしたので、撤退するしかありませんでした。自分の不甲斐なさに歯がゆく思っています。」


三人の傭兵は、それぞれ肩を落として報告した。それをバルク将軍は大した活躍だと褒めた。


「いや、大したもんだわい。兵士の中にもそこまで辿り着いた者はおらん。流石は傭兵っと言ったところだな。」


「いえ、バルク将軍の指揮の元で、いい経験を積ませて貰ってますよ。」


「はは、謙遜だな。若いのに持ち上げよる。」


「ですが、今回の突撃作戦を指揮していたのは、ユニコーンから来た指揮官だそうですが、何故将軍が指揮を執らないのでしょうか?」


「あ、それ私も聞きたい。何故なんですか? 将軍。」


三人はバルク将軍に尋ねたが、バルクは過去に失敗しているので、上手く答えられずにいた。


「すまんな、お前達傭兵に割を食わせてしまって。儂は指揮官として既に一度失敗しておるのだ。だから、今はザーリアスの様な貴族の若造に指揮を任せるしかないのだ。許せよ。」


「そんな、バルク将軍はよくやっていますよ。少なくとも、俺は、いや、俺達はそう思ってます。」


「ふふ、ありがとう。その言葉だけで救われるわい。」


 話が一段落したところで、話は要塞内部で傭兵達が感じたある「異変」について考える事に至った。


「そういえば、モンスターを倒しても倒してもキリが無かったのは、何故なんでしょうね?」


「ホントよ、あっちこっちから沸いて来てやんなっちゃう。」


「バルク将軍、何かご存じありませんか?」


この意見を聞き、バルクは考えを巡らす。


「うーむ、確かな情報とはいかんが、儂もバルビロン要塞の事はあまり詳しくないのだ。噂では、地下通路があって、万一の時の為に、重要人物が脱出する為の通路があると、聞いた事があるくらいだな。」


「地下通路、ですか。」


「まさか! そこからモンスターが次々と増援を送ってくるのでは?」


「ええ! じゃあ、それを何とかしないと駄目じゃない!」


三人は意見を言ったが、バルクはそうでは無いと諭す。


「いや、もしそうなら、30年もの長きに渡る戦いに、決着が着いてもおかしくはない。おそらく敵の増援はもっと他の事柄だろうて。」


バルクは三人に説明し、他の案件があるのではと、尋ねた。


「うーん、俺達が要塞内部へ侵入したのだって、たまたま上手く事が運んだから宝物庫近くまで行けたと思うし、うーん。どうなんだろう?」


「兎に角、モンスターの数を減らさなければ、一歩も前に進めませんでしたからね。」


「倒してもキリが無いってのが、厄介よね。」


そこで、更にバルクはある問題を上げた。


「それに、あの問題もあるからのう。」


「ああ、あれですか。」


マトックが答え、イズナとケイトが続く。


「今はどこかへ行っているのよね?」


「ええ、今度何時舞い戻ってくるのか解りませんが。」


四人は空を見上げて、口々にこう言う。


「「「「 レッドドラゴン。 」」」」


 ただでさえオークやゴブリンに手を焼いているのに、更にレッドドラゴンまでこの要塞の屋上に棲み付いてしまっていたのだった。


 レッドドラゴンがいずこかへと飛び立っていった隙を突き、今回の要塞奪還戦が開始されていたのだったが。


「厄介な事、この上無いわい。」


バルクが零す。だが、ここで元気よく声を上げたのがマトックだった。


「俺の夢はさ、ドラゴンスレイヤーになる事なんだ。だからこのアワー大陸までやって来て、修行をしてたんだが、中々思うように動けねえよなあ。」


「またその話ですか、赤竜退治など、夢物語の事でしょうに、マトックは現実が見えていないのですか?」


「まったく、ドラゴンスレイヤーなんかになれる訳ないじゃない。精々食べられちゃって終わりよ。」


「なんだよ二人共、俺にだって夢ぐらい持ってもいいじゃねえか。」


マトックは本気だった。だが、イズナもケイトも信じてはいなかった。


「見てろよ、必ずレッドドラゴンを倒してドラゴンスレイヤーになってやるからなあ!」


「はっはっは、いいぞ若者よ。その意気だ。」


バシバシとマトックの背中を叩くバルク将軍であった。


「では、儂は他の隊の事も見て回らねばならぬでな、さらばだ。」


そう言って、バルク将軍はこの場を離れて行った。


「あーあ、あの人が指揮官だったらいいのに。」


マトックは零し、イズナとケイトはうんうんと頷いて、将軍の背中を見つめていた。


 と、そこへ、またもや横合いから声が掛けられた。


「失礼、ここに賢者ルカイン殿が居るとお聞きしたのだが、いずこかにおいでか?」


振り向くと、三人の騎士風の者達だった。


マトックは答える。


「賢者? それなら、ほら、あそこに指揮官用のデカいテントがあるだろう? その隣のテントが賢者ルカインの居るテントだよ。」


答えたマトックは、何処かの国の増援かな? と思い、貴族風の若者を見た。


 取り立てて強そうな騎士には見えないと思ったマトックだったが、その後ろに控えている二人の騎士はベテランの匂いがした。


「ありがとう、あのテントだね。」


貴族風の若者は礼を言って、直ぐに立ち去り、賢者の居るテントへ向けて歩いて行った。


「誰? マトックの知り合い?」


「いや、俺は知らねえ、イズナは?」


「私も存じません。ケイトはどうです?」


「私も知らないよ、味方かな? 何処かのお貴族様だろうけど。」


「ふーん、みんな知らないか、何なんだろうな?」


 朝、リース達はバルビロン要塞奪還作戦本部があるここ、四種族連合軍仮設基地へ到着していた。












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