第170話 モヒカン&逆モヒ ③



 ガーネットたちが、あーでもないこーでもないと言い合いをしている横で、リースを介抱していたクリスが、気付いた。


「………う、うう~ん。」


「はっ、リース様! 気が付かれましたか!」


「あ、ああ。何とかね。」


おや、リースさんが目を覚ました様だ。毒を受けたのなら今すぐに動く事は出来ないだろう。


「リース殿、この回復薬を飲んで下さい。」


俺はすかさずアイテムボックスから回復薬を取り出し、リースに向け差し出す。


「これは有難い、よいのですか?」


「ええ、どうぞ。」


リースは俺から薬を受け取り、直ぐに飲んだ。するとみるみるうちに顔色が良くなっていき、すっかり立ち上がれる様になっていた。


リースは立ち上がり、俺の方を向き頭を下げた。


「ありがとう、お陰で助かった。礼を言う。」


「いえ、ミニッツ大陸から来られたとか、遠路はるばる災難でしたな。」


「いえ、それにしてもクリス、何か周りが騒がしいようだが?」


リースに言われ、説明をしだすクリス嬢。その声はリースが元気になった事に安堵したのか、思いのほか気丈に振舞っていた。


「はい、実はあの冒険者風の男から解毒薬を譲って頂いたのですが、その代金というのが、どうも高いようでして。」


「幾らだい?」


「は、銀貨20枚だそうです。」


これを聞いたリースは、腕を組み、逡巡した後、こう切り出した。


「では、銀貨20枚を払ってやれ、クリス。」


おっと、気前がいいなリース殿は。やはり裕福そうな衣裳を着こなしている見た目通り、お貴族様なのかな?


「はい、リース様がそう仰るならば。」


「うむ、銀貨20枚でこの身が助かったのだ。安いモノさ。それに、彼等が通り掛からなかったら、私は死んでいたかもしれないのだからね。これも何かの縁さ。」


「はい、では、代金を渡しに行って参ります。」


そう言って、クリスさんはこの場を離れ、みんなが言い合いをしている所へ向かった。


リースはこちらを向き、俺に言葉を掛けた。


「先程は助かりました、私の名はリース。ミニッツ大陸にあるアゲイン公国から参りました。」


「これはご丁寧に、自分はジャズと申します。アリシアの兵士で、今は冒険者をやっています。」


「よろしく、ジャズ殿。」


「ミニッツのアゲイン公国からというと、アテナ王国領内の公国でしたな、確か草原の国と思いましたが。」


「ご存じでしたか?」


「ええまあ、噂程度ですけどね。」


まあ、ゲーム「ラングサーガ」にも出てきた国だし。覚えているよ、俺は。


「確かアゲイン公国は草原の国と言われているので、馬による機動戦術が得意と聞きましたが。」


「仰る通り、我等アゲインの騎士は殆どが馬による戦術を得意としています。よくご存じで。」


ふむ、道理でクラッチの町にある馬屋に馬が居なかった訳だ、クラッチから全て買い上げた訳か。


姐御は最初、馬で王都まで行こうと言い出したが、馬が一頭も無かったから不思議に思っていたところだった。


そういうカラクリがあったんだな。さぞ馬屋は儲かった事だろう。


 そして、クリスは銀貨の入った袋を取り出し、モヒカンたちに差し出していた。


「あの、モヒカン殿、これを。」


「あん? 何でい! 今忙しいんだ、後にしてくれ。」


だが、クリスはガーネットたちとの間に割って入って、ずいっと袋を差し出す。


「どうぞ、収めてください。銀貨20枚です。」


これを見ていたガーネットたちは、一瞬黙り、事態の行く末を見守っていた。


「な、何でよ? 銀貨20枚よ? ただの解毒薬に………。」


「はあ~、もうよしましょうガーネット。むこうがお金を渡したのだから、それで決着よ。」


姉御は他の二人を制して、この場は静かになった。


「へ、へっへっへ、こっちは貰えるモノを貰えりゃいいんだよ。それじゃあな、騎士さん。俺たちゃ忙しいんだ、これから冒険者の仕事をこなしに行かなきゃならなくてな、先を急ぐから俺たちゃこのへんで失礼するぜ。じゃあな、あばよ!」


そう言って、モヒカンたちがこの場を離れようとした時だった。ガシっとその腕を掴み、縋る様に声を掛けたのが騎士ゴートだった。


「お待ちください、モヒカン殿。貴方方はあの「アリシアの英雄」とお知り合いだとか、お願いです、是非我等に引き合わせては下さらんか?」


これを聞いたモヒカンたちは、顔色を悪くして、しかしそれを悟られない様に振舞っていた。


「い、いやあ、あの人は忙しい人だからさあ、俺たちが言っても多分無理なんじゃないかなあ~。」


さて、ここで黒い笑みを浮かべた姐御とガーネットは、ここぞとばかりに畳みかける。


「あらあ、いいじゃない。紹介してあげなさいよ。知り合いなんでしょう。」


「そーよそーよ。」


「そーだそーだ。」


まったく、三人共よくやるよな。ラット君もどこか楽しそうだ。


「ちゃんと「アリシアの英雄」を紹介してあげなさいよ!」


「う、うるせー! そこまで言うならお前等が紹介してやれよ! 知り合いなんだろ!」


「何言ってんのよ! あんた等が先に関わったんでしょ! 責任取りなさいよ!」


「そーよそーよ!」


「そーだそーだ!」


おやおや、みんなここぞとばかりに言いたい放題だな。モヒカンたちに同情するよ。


「う、うるせー! あんた等が紹介してやれよ!」


「そっちこそ! それとも何? あんた達、まさかとは思うけど口から出まかせじゃないでしょうね!」


「な、なにをー!」


「もし、そうだったら。あんた等のその髪型のモヒカンと逆モヒを合体させて一つの髪型にしてやるわよ!!!」


「な、なんだとおおー--!! 俺たちゃこの髪型に命懸けてんだ!!」


なんてモンに命懸けてんだ。


と、ここでゴートさんがモヒカンたちに言い縋る。


「兎に角、我々は「アリシアの英雄」に会う為に此処まで来たのは目的の一つなのです。お願いです。英雄に合わせて下さらんか?」


流石に困っている様子のモヒカンたちは、この場を逃れる為なのか、適当に言ってお茶を濁す事に決め込んだようだ。


「わかったわかった、後でな、俺たちゃ冒険者依頼を受けたから、まずはその仕事をこなしてからだ。その後で考えてやるよ。」


「ほ、本当ですか!? 有難い。では王都の冒険者ギルドでお待ちしております、我等は先を急ぎます故、これにて失礼致します。」


そう言って、騎士ゴートは礼を言ってリースさんの下へ戻って来た。モヒカンたちの顔色は悪い。


「やりましたぞリース様。我等の目的の一つを取り付けましたわい。」


「うむ、ご苦労、ゴート。」


「リース様も、お元気になられたようで、ホッと致しました。」


「うむ、私は大事ない。では、王都へ参ろうか。」


「「 はは!! 」」


「では皆さん、我等はこれで失礼します。薬の件は助かりました、ありがとう。では!」


こうして、リース達一行は、王都アリシアへ向けて馬を走らせて、王都方面へ駆けて行った。


 さて、こうなっては俺達も王都へ向けて、移動を再開しなくては。


「さあ、みんな、馬車に乗ろう。王都までもう直ぐだよ。」


「あーあ、これからが楽しかったのに。」


「仕方ないわよガーネット、私達の目的もあるし、先を急ぎましょう。」


「ちぇえ、もう終わりか。嘘つきを懲らしめる機会だったのに。」


やっぱりみんな、楽しんでいたか。まったく、よくやるよ。


 こうして、俺達も馬車に乗り込み、王都までの移動を再開した。


他のお客さんもこの間、待っていてくれていたみたいだ。まあ、人助けだから付き合っていたのかもしれんが。


 馬車に乗って移動をしている最中、姐御がこんな事を言ってきた。


「ねえジャズ、ああいう手合いが現れたらはっきりとモノを言わなきゃ駄目よ。」


「うーん、俺は別に気にしないんですけどね。」


「それじゃあ困るわ。「アリシアの英雄」は今じゃ有名なんだから。しっかりして貰わないと。」


うーむ、そんな事言われてもなあ、噂が独り歩きしている事だってあるだろうに。


そこまで対処できんぞ、こっちは。




そして。


ジャズ達が去って行った後、モヒカンと逆モヒは相談していた。


「おい、どうする逆モヒ? やっちまったぞ俺達。」


「お前なあ、吹っ掛けるなって俺があれ程………。」


「どうしよう、アリシアの英雄なんて知らねえぞ。」


「うーん、こうなったら仕方が無い。なぁモヒカン、あの手で行くか………。」












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