第171話 仲間探し ①
王都へと到着した、ここはいつ来ても賑わっているな。
まあ、交通の要所だから当たり前か。色んな種族の人が行き交っている。
事前に門衛にギルドカードを提示して、門を潜り王都の中へ入る。
順番待ちは慣れたもんだ、大勢の人が王都に用があるみたいで、行列が出来ていた。
俺達は乗合馬車を門の外で止め、そこから降りて歩いて壁門へと向かい、手続きして貰う。
すんなりと通されて、今、王都の大通りの隅っこに居る。
露店から良い匂いの串焼きが漂って来る。うーん、食欲をそそるな。
何か買ってこようかなと思うのだが、昼飯時にはまだ早い。ここは我慢だ。後で来よう。
「さあ、着いたわね。王都到着よ。」
「う~ん、ずっと座りっぱなしだったからケツが痛い。」
ガーネットとラット君は馬車の護衛の仕事が一段落したので、このまま王都のギルドへと行き、報告するそうな。
他のお客さんも、それぞれ目的があるようで、みんなそれぞれ別に行動していた。
「二人とも、お疲れさん。後はクラッチ行きの馬車の護衛の依頼を受けて帰るだけだね。」
「もう、ジャズったら何言ってんのよ。私達だって折角王都へ来たんだから、ジャズ達に関わる様な依頼を受けて手伝うに決まってんでしょ。」
「そうっすよ、手伝うっすよ俺等は。」
「あのね二人共、話聞いてたの? バルビロン要塞は危険な場所なのよ。あなた達を連れて行く訳がないでしょ。」
姉御は厳しく二人に言い聞かせ、ガーネットたちの気概を挫こうと言葉を掛けた。
まあ、二人共そこまで危険な仕事をしなくても、今回の分の報酬で美味いモンでも食って帰ればいいのに。
「ガーネット、ラット君、俺達はこれから命がけの仕事をするんだよ。正直に言って、二人を守りながら戦う事は出来ないと思う。いいね?」
俺が二人を諭すと、二人は渋々といった様子で引き下がり、そのまま冒険者ギルドのある方へ向かった。
「わかったわよ、それじゃあ私達はギルドへ報告しに行って来るわね。ラット、行くわよ。」
「ガッテン。それじゃあっす。」
ガーネットとラット君は聞き分けよく、この場を離れて行った。
やれやれ、血気盛んな若者は頼もしいが、勇気と蛮勇は違うからなあ。二人にはこのまま帰って貰うしかないな。
気を取り直して、俺は姐御に向き、声を掛ける。
「それじゃあ姐御、行きますか。」
「ええ、何処へ行くの?」
「盗賊ギルドです。まずはそこへ赴き、知り合いのドニって奴に接触しようかと思っています。」
俺が説明しだすと、姐御は顔の眉を下げ、言葉少なげに言い淀んだ。
「え!? という事はスラム街へ向かうの?」
「ええ、そうなりますね。どうかしましたか? 姐御。」
何やら姐御は腰が引けている様だ。スラム街は苦手なのかな?
「姐御、俺一人でも行きますので、姐御は冒険者ギルドで待機して貰ってもいいですよ。」
俺が声を掛けると、姐御は意を決したように顔を上げ、きっぱりと言いだした。
「大丈夫、行きましょう。ちょっと怖いけど、ジャズと
うーむ、姐御はスラム街が苦手のようだ。
確かに、あの独特の雰囲気にすれた匂い、目つきの悪い人が路上で座り込んで、道行く人に睨みを利かせている。
子供はみんな何かしらの違法行為に手を染め、その日暮らしがやっとの生活。
まあ、中にはまっとうに仕事をして、ゴミ拾いなどの仕事をして生計を立てている人も居る。
「姐御、スラムに住んでいる人達は、何も犯罪者って訳じゃありませんよ。」
「それは解っているわ、私もシャイニングナイツの予備隊として、人々に分け隔てなく接して来たつもりよ。だけど、苦手なのは認めるわ。私はスラム街が苦手なのよ。」
「まあ、気持ちは解りますよ。スラムは犯罪の温床になっているのは事実ですからね。」
「あー、そうよね。やだなあ、怖い人とかに目を付けられちゃったらどうしよう。」
「大丈夫ですよ姐御、目を合わせなければいいんです。さあ、行きましょう。」
姉御の護衛をする様な位置取りをしつつ、俺達は盗賊ギルドへと足を向けた。
それにしても、Bランク冒険者がスラムの人が怖いだなんて、姐御も女の子ってところだな。
二人でスラム街をテクテクと歩いていると、姐御が話しかけてきた。
「そう言えば、冒険者になりたいっていう人はスラム出身が多いのよね。みんな十五歳に成人して直ぐに冒険者登録をしに来てるみたいだったわ。」
「そうでしょうね、スラムに住んでいる人ってのは社会の荒波に揉まれて経験し、身体つきもがっしりした人が多いですからね。」
「まあ、冒険者は腕っぷしが強い人ほど出世するから、解る話だと思うけど、それだけじゃ精々Dランク止まりなのよね。」
「それは、何故ですか? 姐御。」
Dランク冒険者というのは一人前だ。しかし、それ以上のランクに昇格するには、何か別に必要となる事柄があるって訳か。
「いい? ジャズ、冒険者ってお貴族様の相手や依頼が舞い込んでくる事もあるのよ。お貴族様の相手をするには、それ相応の礼儀作法ってのが必要って訳。」
「あ~、礼儀作法ですか。そりゃ大変だ。俺はDランク止まりで結構ですけどね。」
「もう、ジャズ。そういう訳にはいかないでしょ。貴方はアリシアの英雄なのよ。一般礼儀作法ぐらいは身に付けて貰わないと。いざお貴族様の依頼を受けた時、恥をかくのは自分なのよ。」
うーむ、そんな事言われてもな、俺はDランク冒険者で十分だと思うのだが、姐御は更に上を目指せと言う。
ままならんもんだな。
「まあ、かく言う私も、礼儀作法の訓練が苦手で、エストールを抜け出してきた口なんだけどね。」
「え!? そうなんですか? それは意外ですね。まさか姐御にそんな過去があったなんて。」
「内緒よ、だって恥ずかしいでしょ。礼儀作法が苦手だったから抜け出してきたなんて、みっともないじゃない。」
「ははは、姐御の意外な一面を見れた感じですよ。姐御も人の子なんですね。」
「そりゃそうよ、私は実戦経験は豊富だったんだけど、礼儀作法を取得しなさいと言われた時は、流石に顔から血の気が引いた思いがしたわ。」
うーむ、姐御は力押しタイプが板に付いているって事か。
「でも姐御、言葉使いが丁寧じゃありませんか。その延長線上だと思えばいいのでは?」
「そりゃ最初は私も努力したわよ。お陰で少し口が良くなったと今でも思うわ。けどねえ~。」
「お貴族様相手の礼儀作法は厳しいという事でしょうか?」
「そう! 正しくその通り! これがまたメンドクサイのよ! もうやってらんないわ! と、思った時は、既にエストール大神殿を抜け出していたわ。そして、そのまま放浪の旅をしてクラッチに流れ着いたの。」
「ふむふむ、そんな過去があったんですね。姐御も苦労をしてきたって事ですね。」
そうこう話していると、いつの間にか到着していた。
「姐御、ここが盗賊ギルドです。」
「ふーん、なんか普通の家って感じよね。」
「まあ、あまり大ぴらには出来ませんからね。ほら、あそこに見張りの男が立っているでしょう。あれが盗賊ギルドの入り口ですよ。」
「なんか、普通の家の玄関って感じね。本当にここでいいの?」
「ええ、ここです。看板などは掲げていないですけどね、早速中へ入りましょう。」
さて、盗賊ギルドへと到着したのはいいが、ここへ来た目的は果たせそうかな。
ドニが居ればいいんだが。そして、ドニが仲間になってくれればいいんだがな。
盗賊ギルドの入り口を見張る男に目線で合図を送り、男が道を譲る。俺が先に行き、そのあとを姐御が付いて来る。
入り口のドアを開けると、部屋の奥で数人の男達がカードなどに興じていた。
俺は周りを見渡し、ドニを探す。居た。ドニだ。カウンターで一杯やっている。
「ドニ、元気か?」
俺が声を掛けると、ドニは振り向き、俺の姿を見つけ返事をする。
「おお、ジャズじゃねえか。活躍は聞いてるぜ。中々様になってきてる様じゃねえか。」
「勘弁してくれよ、俺はただの兵士だぞ。それより、頼みがあるんだ、力になってくれないか? 仲間を募集していてな。いいか?」
俺が尋ねると、ドニは顔の表情を曇らせ、言葉を詰まらせた。
「頼みか………、すまんジャズ。俺は今別件で動いていてな、あんたの力になってやれねえかもだ。」
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