第168話 モヒカン&逆モヒ ①




  アリシア王国 王都へと続く街道――――



 王都へと続く街道の途中、ある一団が何者かによって攻撃されていた。


「リース様!!? 危ない!!」


「くっ!? しまった!? こんなところまで暗殺者の追手が!!」


暗殺者である。暗殺者のナイフによる攻撃によって、リースは負傷した。


だが、同時にリースの攻撃範囲に入った暗殺者は、リースの持つ刺突剣「レイピア」をその胴体に突き入れられ、ドサリと倒れ込む。


そして、暗殺者は絶命したのだった。


「はあ、はあ、何とか退けたか………くっ、気分が………悪くなって………。」


リースは暗殺者を撃退したが、様子がおかしかった。


それを見ていた側近らしき鎧を着た老齢の男は、すぐさま駆け寄り様子を窺う。


「リース様、お怪我は? む? これはいかん!!」


男は直ぐにこの状況を理解した。振り向き、辺りを警戒していたもう一人の女性に声を掛ける。


「クリス! 急ぎ道具袋を持て! 大至急だ!」


「は、はい。父上!」


言われたクリスは馬を降り、道具袋を持ってリースが倒れ込んでいる場所まで駆け寄った。


「急げクリス! 解毒薬だ! 解毒薬を出せ!!」


「はい!」


リースが暗殺者によって攻撃された時には既に、ナイフに毒が塗られていたのだった。


リースは毒の状態異常に陥っていた。かなりの猛毒だった。


「た、大変です父上!? 薬が! 殆どの薬瓶が割れています!!」


「なんだと!? ええーい! あの時か! 初手でスリングを使った投石で狙ったのは、道具袋だったか!!」


クリスが道具袋を弄っているのだが、そこに入っていた数々の薬瓶、解毒薬は瓶ごと割れていた。


「はあ、はあ、はあ、」


「リース様………。」


クリスは心配しながら様子を窺い、周囲を見渡す。誰か通り掛からないかと思い、人を探す。


だが、そう上手くいかないのが世の常、このままではリースの命が失われる。


「最初に道具袋を狙い、次に毒を仕込んだナイフで対象を攻撃、自身が倒れても目的は果たせる。敵ながら見事な戦術だ。」


「感心している場合ではありません父上! 急ぎ町か村まで行き、解毒薬を手に入れなければ!!」


「解っておる、だが、この位置からでは間に合わん! 王都までの距離が掴めん!」


二人は焦っていた、仕える人物が負傷し、毒を盛られたので、下手に動かす事も出来ず、このまま成すすべも無く時間だけが過ぎて行った。


 だが、ここへ来て希望の兆しが見えてきていた。


「あっ、父上! 王都方面より誰か来ます!」


「なに! 山賊か!」


「………いえ、違うようです。見た所、冒険者風の二人組です。」


「そうか、お前は目が良い。馬を使ってその二人組に接触し、解毒薬を譲って貰え。大至急だ! 急げ!」


「はい!」


クリスは馬まで駆け、跨りつつ移動を開始した。


「待っていて下さいリース様、直ぐに戻ります。」


クリスは馬で駆け、二人組の男の方へ向かい、駆け出す。


鎧を着た老齢の男は、一人呟く。


「リース様、我々にはまだツキがあるのやもしれませぬな。」



  モヒカン&逆モヒ――――



 王都の冒険者ギルドから依頼された仕事をしに、奇抜な頭をした二人の男が街道を進んでいた。


「おいモヒカン、今日の仕事は何だったかな?」


「あれだろ、街道のモンスター退治だろう。こんなの王都の軍に任せればいいのによ。そうは思わねえか? 逆モヒ。」


二人はトボトボと歩み、街道を西へと進んでいた。


途中、モンスターと出くわす様な事は無かったが、一応警戒だけはしていた。


「あーあ、やんなるぜ。折角酒場で呑んでたってのによー。受付嬢がギルマスに一言余計な事言ったもんだから、俺達がこなさなきゃならなくなっちまったじゃねえか。」


「まあ、そう言うなよモヒカン。金がねえのは事実な訳だし、ここいらで一丁、稼がねえとな。」


二人は昼間から酒を呑んでいたが、そこへ受付嬢がギルマスへ暇な冒険者を見繕ったのだった。


「あーあ、どっかにうまい話でも転がってねーかなー。」


「そんな美味い話、そうそう転がってねえよ。」


「おい逆モヒ、お前、今月幾ら稼いだ?」


「お前には言わん。言ったらお前、たかるだろう?」


そんなしょうもない、いつもの話をしていた時だった、突然目の前に馬に跨った女騎士が駆け寄って来た。


「うわっ、なんだ?」


「おい、道開けろ。馬に撥ねられっぞ。」


二人は道を譲り、女騎士が通り過ぎるのを待った。


ところが、その女騎士が二人の前に馬を止め、馬上から声を掛けてきた。


随分と焦っていた様子の女騎士は、二人に対してこう切り出した。


「失礼! 貴方方の中に、解毒薬を持っている方はいらっしゃるか?」


突然言われて、モヒカンも逆モヒも戸惑ったが、相手が美人である事と、急いでいる様子が解ったので、誰か毒にやられたのだろうと予想した。


「解毒薬? 一応持ってるけど、何かあったのかい?」


「私の………仲間が毒にやられてしまったのです。お願いです、お金は必ず払いますので、急ぎ解毒薬を!」


それを聞いた二人は、「困った時はお互い様だ。」と言いつつ、道具袋から解毒薬を取り出し、相手の女騎士に手渡した。


「かたじけない、ありがとう! 私はこの先の街道に居ます。お金は貴方方がやって来た時に払います。では! 急ぎますので!」


女騎士は、解毒薬を持った状態で馬を駆け、二人の下から去って行った。


「何だったんだろうな?」


「さあ? だが、いい女だったな。」


「お金、吹っ掛けてみるか? 逆モヒ。」


「やめとけ、いしゆみで武装してた。鎧を着てたって事は、多分どこかの国の騎士だ。」


「お前、見てる所は見てるんだな。」


「ああ、俺は人を見る目だけはあるからな、世の中を渡って来た俺の手にした得意技だ。ありゃアローナイトってやつだな。」


「アローナイトか、まあ、取り敢えず行ってみようぜ。」


こうして、二人はお金を受け取る為に、街道を歩き始めた。



  リースたち――――



 リースが倒れて呼吸が荒くなっていたところへ、クリスが馬で駆け戻って来た。


「解毒薬を確保しました! 父上。」


「よし! でかした! 直ぐに薬を飲ませよ!」


クリスは馬を降り、手にした解毒薬の蓋を開け、飲み口をリースの口にあてがい飲ませた。


「さあ、リース様。この薬を飲んで下さい。」


リースに解毒薬を飲ませたクリスは、ほっと肩を撫でおろしつつ、リースの様子を見る。


「はあ、はあ、………ふ~、ふ~、」


「よし! 呼吸が元に戻った! 薬が効いて来たみたいだ。」


「よかった、もう大丈夫そうですね、父上。」


「ああ、お前のお陰だ、我々はまだ運に見放されてはいなかった。リース様も大事ない。」


二人の騎士はその場でへたり込み、リースの回復を待った。


 しばらくして、クリスに解毒薬を渡した二人組の男が、リースたちの所へやって来た。


「その人かい? 解毒薬が必要だったのは?」


モヒカンが声を掛け、逆モヒも心配そうにリースの顔を覗き込んだ。


「ええ、貴方方のお陰で、こうして命拾いしました。なんとお礼を言えばよいか。」


「なーに、礼には及ばねえ。それより、薬の代金なんだが。」


モヒカンは早速、解毒薬の代金を要求した。逆モヒはそれを見ていて、なにやら嫌な予感がした。


「お幾らでしょうか?」


クリスが尋ねると、モヒカンは顔を二ヤリと綻ばせ、代金を告げる。


「まあ、あんたらの仲間を救った恩人な訳だし、そうさな、銀貨20枚。ってところかな。」


それを聞いた老騎士の男は、憤慨した様子で声を荒げた。


「な、なんだと!? 銀貨20枚だと!? なんと法外な! 相場では銀貨2枚だというのに!」


「おっと、俺たちゃ別にいいんだぜ? 幾らでも、ただなー。」


ここで、モヒカンはもったいぶって金額を提示して、金をふんだくる予定でいた。


「見た所、おたくら、騎士様だよな? 金を持ってるんじゃないのかい?」


騎士たちは顔の表情を曇らせながら、渋々銀貨を渡そうとした。


だが、その時、後方より声が掛かった。


「どうしましたか?」


声を掛けてきた人物は、クラッチの町からの乗合馬車に乗っていた、剣を帯びた女性からだった。


「何か問題ですか? 姐御?」
















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