第167話 指名依頼 ③
俺達は馬車に揺られて一路、王都を目指していた。
王都までの街道を、ガタゴトと揺られながら進んでいる訳だが。
今の所、山賊やモンスターの襲撃は無い。静かなものだ。
馬車には俺と姐御以外にもお客さんが乗り合わせている、馬車の護衛の冒険者も二人居る。
まあ、俺達冒険者はいざって時に手助けするという事で、乗車賃を安くしてもらっている。
護衛も付いているし、順調な旅だな。
王都まで二日の距離、特に何事も無く進んでいる。
しかし、その馬車の護衛という冒険者というのが………。
「ねえジャズ、姐御と二人っきりでどこへ行くの?」
「いやあ~、ジャズさんも隅に置けないっすねぇ~。」
ガーネットとラット君だった。
「二人共、私達は別に遊びに行く訳じゃないのよ。」
姉御が気を利かせて二人の会話に相槌を入れ、旅のまったりした時間を過ごしている。
俺は景色を見て、長閑な草原の風景を楽しんでいた。
「いいねぇ~、こういう旅は。時間がゆっくり流れていて、心が和む。」
気分は良好、見知った顔の冒険者仲間との旅は、また気心の知れた相手だけあって気兼ねなく過ごせる。
「ねえってば、ジャズ。教えてよ。どこへ行くの?」
「おいおいガーネット、お客さんを詮索するのは良くないぞ。ここは黙って仕事をするもんだ。」
「教えてくれたっていいじゃない。」
「うーん、あんまり面白い話じゃないよ。」
「どうせ暇なんだし、お話ししながら行きましょうよ。ね。」
やれやれ、女の子ってのはどこに行っても会話ってのが好きなんだな。
そういやあ、ガーネットとラット君に出会ったのも、二人が荷馬車の護衛をしていた時だったな。
なんだか懐かしい、もう随分前の事の様に感じる。だがあれから一年ぐらいしか経ってないんだよね。
冬の寒空の下、少し寒いが心地よい風が頬を撫でて、気分を涼やかにさせてくれる。
天気も晴れ、いや、曇り空ってところか。雨は降りそうにない。
昼時になり、みんなで一度降りて昼飯にする。
俺はパンにチーズ、干し肉とシンプルなもんだ。
姉御はパンとチーズのみ、あまり食べない人なのかな?
ガーネットとラット君は俺と同じ、しっかり食べて体力を付けている。
他のお客さんはパンのみだったりする、おそらく安く済ませているのかもしれないな。
馬の為に水場での休息だ、辺りにモンスターの気配も無い。ゆっくり出来そうだ。
姉御とガーネット達は、何やら会話を楽しみながら昼飯を食べている。
俺もその輪の中に入れて貰って、ラット君と会話をしている。
話はもっぱら、戦闘の事だったり、戦い方だったり、まあ、男ってのはそういうのが好きだよな。
「ジャズさんはショートソードを使ってるんすね。」
「ああ、あまり長物を使うと狭い場所での武器の取り回しが上手くいかない事があるからね。」
「さすが兵士っすね、戦場の事を考えて武器を選んでいるんっすね。」
「そういうラット君はどんな武器を使うんだい?」
「俺っすか、俺はこれです。」
そう言って、腰の鞘から剣を抜き、俺に見せてきた。
「ほーう、鉄の剣だね、これはミドルソードかな?」
「そうっす、こいつが俺の相棒っす。もう何度も戦いを潜り抜けてきたんっすよ。」
「うん、いいね。戦士は道具を大切にするものだからね、手入れもしっかりしているみたいだし、ラット君は優秀な戦士になれるだろうね。」
「へっへっへ、そんなに褒めても何も出ないっすよ。」
まあそんなこんなで、昼飯休憩も終わり、俺達はまた馬車に揺られて街道を進む。
その途中、ガーネットが姐御から聞いたのか、俺達の旅の目的を訊いて来た。
「ねえジャズ、姐御と二人で王都まで行くの?」
「いや、王都へは立ち寄るだけだよ、俺と姐御の目的地は王都じゃないんだ。」
「じゃあ、どこっすか?」
「ん? バルビロン要塞だよ。」
俺の言葉を聞き、二人は驚きを露わにして騒いだ。
「ええー-!? バルビロン要塞!!?」
「何だってまたそんな危険な所へ?」
「依頼を受けたんだよ、エルフの女性から。」
俺が説明しようとしたところ、姐御も聞きたそうにしていた。
「ジャズ、私にも詳しく聞かせて欲しいんだけど、一応私達パーティーを組んでいる訳だし。」
「そうですね、姐御にはまだ詳しく話してなかったですね、じゃあ取り敢えず話します。」
俺がこれから語ろうとしている事を、他のお客さんも興味津々といった様子で聞き耳を立てていた。
「まず、俺が受けた依頼は、そのエルフのお袋さんの形見である、魔法の杖を取り戻して欲しい。って内容だった。」
姉御が相槌を打つ。
「魔法の杖? 母親の形見か………。それは何とかしたくなるわね。」
「ええ、で、俺は依頼を引き受けて、奪われた場所がバルビロン要塞だったって事で、姐御を仲間にした。って訳なんだ。」
「奪われた魔法の杖ってのは、どんなのっすかねえ?」
「確か、ウィザードロッドって聞いたな。」
ガーネットが更に尋ねる。
「その、魔法の杖を取り戻すのが、今回のジャズ達の依頼内容って事?」
「ああ、そうだよ。その場所がバルビロン要塞なんだよ。」
俺が言い終わると、ガーネットもラット君もどこか興味を惹かれたのか、うずうずしている様子だった。
「言っとくけど、今回のバルビロン要塞はとても危険な場所なのよ。二人は連れて行かないわよ。」
「そんなあ~、姐御、俺達も連れてってくださいっすよ。」
「姐御とジャズの実力は知っているけど、それでも危険なんですよね? 私達も居た方が戦力になるんじゃないのかな。」
「まったく、二人共。遊びじゃないんだぞ。マジで危険な場所なんだってば。モンスターの数は半端じゃないし、要塞内部は入り組んでいるし、トラップだって。」
「じゃあ、ジャズはどうしてそんな危険な所へ行くの? 断る事もできたんでしょ?」
ふーむ、確かに。エルフの美少女、ユーシアの依頼を断る事も出来た。
普通に考えて、バルビロン要塞は危険な場所だ。そこへ赴き、奪われたアイテムを取り戻す。
何処にあるかも解らないアイテム探しに、オークの軍勢との戦い。
ハッキリ言って割に合わない依頼だと俺でも思う、だが。
「やってみる価値があると、俺は信じているんだ。」
「価値?」
姉御が訊き返してくると、俺はこう答えた。
「自分がやるべきだと思った事をやってるだけなんだ。」
エリック師匠が言っていた、「己が成すべき事を見つけ出せ。」と。
これは俺のゲーマーとしての勘だが、今回の依頼を受ければ、「何か」が前へ進むと思うんだよね。
「へえ~~、ジャズって、そういう風に考える人なんだ。」
何やら姐御が感心したように頷いている、何だかこっぱずかしい。
王都まで半分の距離まで来た。目的地の途中にある大岩がある場所だ。今日はここで野営する事になった。
夕食を取り、静かに過ごす。
「見張りお疲れ。」
「いいから、お客さんは寝てなさいよ。」
夜、月が明るく夜空を照らしている。
ホーホーと、
ガーネット達に夜の見張りを任せ、俺達は就寝に就くのであった。
さて、明日は王都へと到着する。そこで新たな仲間を見つけないとな。
明日も早い、今日はぐっすり寝よう。
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