第142話 アリシアの英雄
俺達は今、アリシアの王都にある王城へと上がっている。
ここは謁見の間だ、女王レイチェルの前でこれまでのゴップでの経緯を報告している。
謁見の間には、ダイサーク様にカタリナ様、ジャズー王子も居る。
他にも軍務卿や宰相、近衛騎士、ブルーヘルムの面々、何かの文官など、偉い人たちが揃っている。
緊張する、こういうのはどうも苦手だ。女王に失礼の無い様にしなければ。
「………………以上が、自分が見聞きしたゴップ王国内での出来事であります。」
俺の報告を聞き、女王は顎に手を添えて、うんと頷きつつも真剣に聞いてくれている。
他の周りの人達も、俺の報告を聞いて、それぞれ口に出し、その詳細を確かめる為の言葉を放つ。
報告しつつ、意見が出たところで逐次詳細を伝えて、話が進む。
そして、あらかたの報告を終えて、一息つき、カタリナ様の方を向き、リード王子からの伝言を伝える。
「それと、レイチェル様とカタリナ様へ、リード様より最後の伝言がございます。」
「最後………………、聞きましょう。何か?」
カタリナ様が尋ねると、レイチェル様も固唾を飲んで聞く姿勢をする。
「は! では伝えます。「幸せならばそれで良い。」………と、最後に仰られていました。」
俺の言葉を聞き、女王もカタリナ様も、顔を伏せ、涙声で体を震わせながら労う。
「………………そう……ですか。解りました、ご苦労様でした、確かに伝わりました。」
「ジャズ曹長、リスティル、ご苦労でした。………よく情報を持ち帰りました。確かに聞きましたよ。」
二人共、どこか悲しんでいる様子で、しかし、気丈に振舞って俺たちを労った。
追い出されたとは言え、カタリナ様にとっては夫で、レイチェル様にとっては父親だ。
その遺言じみた最後の言葉を聞き、二人共悲しんでおられるご様子だ。無理も無い。
暫く沈黙が流れたが、そこでダイサーク様より、俺達に対して、何か褒美を取らせてはどうかと意見が上がった。
「うーむ、ゴップでの事は解った。ご苦労だったな、二人共、それにしてもゴップ王がまさかな、その様な暴挙に出るとは、これでは戦争どころでもあるまい。」
「ダイサーク叔父上の言う通りですね、ジャズ曹長等が持ち帰った情報は貴重です。戦は終わり、という事でよろしいのではないでしょうか。」
「そうだな、ジャズーの言う通りだ。今後は事後処理や戦後処理に追われる様になるだろう。ユニコーン王国からの使者も、こちらの正当性を理解してくれておる様だし、一先ずは良しとしよう、グラードル将軍の事は残念ではあるが、これも戦での事。遺族たちは覚悟をしておっただろう。」
ここで、ダイサーク様が一つ咳払いをし、俺達の方を向き言葉を掛けられる。
「さて、この者達に何か褒美を取らせようと思うが、何が良いかな? 女王よ。」
「そうですね、結果を見れば、アリシアとゴップとの全面戦争を回避出来た事になりますからね、この者達の活躍を考えると、褒美は必定ですね。二人は何か欲しい物はあるかしら?」
おっと、いきなりそんな事言われてもな、思い付かないぞ。
隣に傅いているちびっ子は、顔をニヤニヤしながら俺の答えを待っている。
(おい、褒美だってよ。どうする?)
(あたいは何でもいいよ、兵隊さんが決めなよ。)
ふーむ、そう言われてもなあ。真っ先に思い付く事は、やはりお金かな。
「恐れながら、我等には、金一封を頂ければ、これに勝る喜びは御座いません。」
「うーむ、その様な物で良いのか? なんとも俗っぽい事よな。もっと欲しい物はないのか?」
ダイサーク様はこう言うが、お金は大事である。俺はスローライフを送る為に、お金を貯めているのだ。
ちびっ子も、目の中がコインの形をしていた。お金が欲しいのだろう。
と、ここで女王レイチェルから、こう意見があった。
「では、金一封と、それから、わたくしから「アリシアの英雄」の称号を授けます。おめでとう。ジャズ曹長。」
アリシアの英雄!? 俺が? 似合わねえ。
「やったね! 兵隊さん。」
「あ、ああ。」
ちびっ子は喜んでいたが、俺は正直、過分な称号だと思う。
英雄や勇者など、柄じゃないのだ。俺は只の兵士なのだよ。
しかし、称号を賜ったからには、お礼を言わなければならない。金一封も貰えるし。
「は! 有難き事で御座います。その名に恥じぬ様、日々精進して参ります。」
ここで、女王から声高らかに宣言をする。
「アリシアの英雄に、祝福あれ! アリシアを救った英雄に、幸あれ!」
そして、周りから拍手喝采が巻き起こる。
「「「「「 おめでとう! アリシアの英雄よ! 」」」」」
「君達のお陰で、戦争は終わったのだ。よくやってくれた! 英雄よ、この先の活躍に期待する。」
パチパチパチパチパチパチ。
「「「 わああああーーーーー。 」」」
なんてこった!? 英雄に祭り上げられてしまった。こんなのは俺の性分じゃないんだよな。
「ど、どうも。」
声がカラカラだ。喉が渇いている。英雄など、俺には似合わないだろうに。
そして、ジャズー王子から、声を掛けられる。
「二人は後ほど、私の部屋へ。」
「は! 殿下。」
そう言えば、本来はジャズー王子から受けた極秘任務だったんだよな、本当ならまず先に殿下に報告すべきだったかもしれない。
まあ、リード王子との約束もあったし、女王レイチェルへの報告が先になってしまったが、より詳しい内容をジャズー王子に報告するという事だな。
こうして俺は、「アリシアの英雄」の称号を貰い、金一封も頂いた上、二人で謁見の間を退出したのだった。
待合室で待っていると、メイドさんがやって来て、俺達を案内する。
ジャズー王子の私室の前で止まり、ノックをして返事を待つ。
「どうぞ。」との返事を聞き、俺達は部屋の中へと通される。
ジャズー王子の私室だ、既に王子がソファーに腰を掛けていた。
「やあ、座ってくれ二人共。」
「は、失礼します。」
促されて、ソファーに座る。メイドさんがタイミングを見計らったかのように、紅茶を出してくれる。
「さて、まずは「アリシアの英雄」おめでとう。ジャズ。」
「は、恐れ入ります。それと、先ずは殿下にご報告しなければならなかった筈でしたが、女王に報告する形になりました。」
「いや、それで構わない。よくやってくれた。グラードル将軍の事は残念だったが、全面戦争に発展しなかった事が、何よりの戦果だったと私は思う。」
「はい、戦など、しない方がいいのは間違いない事ですからね。」
紅茶を飲みながら、しばし談笑をする。話題は俺の英雄になった話がもっぱらだ。
肩身が狭い、英雄など柄じゃない。だが、ちびっ子も殿下も、面白がって話題を振る。
俺は「ははは。」と、適当に相槌を打ち、話を流す。
そして、ゴップ王国で見聞きした事柄を、ジャズー王子に詳細に報告した。
「うーむ、アークデーモンに、カオス復活の兆しか。ゴップ王国も色々と大変な状況だったみたいだね。」
「はい、義勇軍やシャイニングナイツとの連携が今後、必要になってくるかもしれません。また、それらの後方支援組織、「クインクレイン」との情報交換の精度を密にしなければ、対応できないかもしれませんね。」
会話の内容は、暗く沈んだモノになった。今後、混沌の勢力がどの様に行動してくるのか、それを見極める必要が出てきた。
冗談じゃないよまったく。混沌の王、カオスだって?
只でさえ、闇の崇拝者の動向が落ち着いて来たってのに、また厄介事が舞い込んで来たって事か。
ふーむ、俺のスローライフは、まだまだ出来そうにないな。こりゃ。
こうして俺は、ゴップ王国での任務失敗を、ジャズー王兄殿下に報告したのだった。
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