第140話 ゴップ、崩壊
さて、この場に居るのは俺達と、ゴップ王だけだ。
今もゴップ王は玉座に座って、こちらをキョトンとした表情で見ている。
何だか心ここにあらずってな感じだな、大丈夫か?
心配になり、声を掛けてみる。
「ゴップ王、ご無事ですか?」
「………………。」
ふーむ、返事が無い。我を忘れている。とは言えないかもだけど、それに近い状況みたいだな。
「ゴップ王、貴方は悪魔によって騙されていたのです。お解かりか? もう戦争なぞ、せんでも良いのです。どうか兵をお引き下さい。」
俺の言葉にハッとしたのか、ゴップ王は玉座から立ち上がり、しかし床に這い蹲って、シーマだったモノの灰をかき集め始めた。
「おお、…………何という………何という事だ………………。」
ゴップ王は、一心不乱に灰をかき集めていた。
「………ゴップ王よ、悪魔は討伐した。もう大丈夫ですから、その様な事はなさらなくてもいいのです。」
俺が言うと、ゴップ王はキッとこちらを向き、俺を睨みつけながら罵声を浴びせた。
「うるさい! シーマをこんな風にしおって! これから先、儂はどうすれば良いのだ!」
「ゴップ王! 正気に戻って下さい! 貴方は騙されていたのです!」
「違う! 騙されてなどおらぬ! 儂は正気だ! 今までな!」
今まで正気だった? そうなのか? 俺達が戦っている時だって、虚ろな表情で見ていただけだと思ったが。
「何という事だ。シーマが、シーマが、儂はシーマ無しでは生きられんのだ。シーマだけが儂を理解してくれたのだ。シーマだけが儂に優しかったのだ。……………それなのに、こんな、こんな事になってしまって………………。」
「ゴップ王、貴方は………………。」
ゴップ王は、正気の沙汰だった。シーマにいい様に利用されていたにも関わらず、それを理解した上でシーマを拠り所としていたらしい。
「シーマは儂の事を一番に考えてくれた、シーマは儂にとってかけがえのない存在だった。シーマは儂の心の支えだった。」
「気を確かに! シーマは上級悪魔だったのです! 人の事など眼中にありません!」
「うるさい! 貴様に何が解る! 王族という立場にも関わらず、金持ち貴族相手に頭を下げ、媚びへつらい、他国からの援助を貴族共に借金返済の為に渡し、国内の食料は不毛な大地の為に作物は育たず、僅かな金で食料を買い、貴族共に持って行かれ、国民には何も行き渡らず、もう、嫌になったのだ。儂は。」
一頻り語ったゴップ王は、懐から一つの巻物を取り出した。
「ゴップ王? 何を?」
「儂は疲れた、疲れたのだよ。シーマがおらんのでは、生きている意味は無い。…………終わらせる。」
ゴップ王が取り出したのは、見た事がある。あれは「ラングサーガ」にもあった魔法のスクロールだ。
色といい、使われている紙質といい、間違いなく上級魔法が封じられた巻物だ。
「まさか! それは!」
俺はギョッとした。あのスクロールはおそらく「コメット」の魔法が封じられている筈だ。
「シーマがおらんのでは意味が無い。もう終わらせる、終わるべきなのだ。儂は生きる意味を見失った。さらばだ。我が国よ。」
「ゴップ王! そんな物をこんな人口密集地で使ったらどうなるか! 解っている筈だ!」
「コメット」の魔法。それは、上空より隕石が落ちてくる、広範囲殲滅魔法。
「やめろおおおおおおおおおおお!!!」
止めに入ろうと駆け寄ったが、魔法の
(間に合わなかった!)
「まだ居たのか? よそ者はさっさと出て行け。もう儂に構うな。」
「ゴップ王! あんたって人は!!」
どこが正気だ!! どうかしてる!!
この状況に、ちびっ子が狼狽えている。
「何? これからどうなるの? 兵隊さん。」
「ちびっ子! 兎に角ここを脱出するぞ! 急げ! 俺の腕を掴め!」
「え? え? どうするの?」
「テレポートリングを使う! 本来は一人用だが、四の五の言っていられん! 兎に角やってみるしかない!」
ちびっ子はこちらへと駆け寄り、俺の腕を掴んだ。
「よし! いくぞ! テレポートリング発動。転移場所は、王都の外。」
俺は転移先をイメージし、指輪を天高く掲げた。
テレポートリングが輝き出し、一瞬の浮遊感を感じて、周りの景色が一転する。
重力を感じ、一瞬で外に出た事を理解する。
だが、ここはまだ、王都の敷地内だった。しかも体勢を崩しながらの着地だったらしく、地面に倒れ込んだ。
「いてて、大丈夫かちびっ子。」
「いたた、大丈夫。何ともなってないよ。」
周りの景色を確認する。ここはまだ、王都の中だ。上手くテレポートリングの効果が働かなかった様だ。
こんな所に居たんじゃ駄目だ! もっと遠くへ行かねば! ここは攻撃範囲内だ!
「おいちびっ子! 走るぞ! 急いでここを出るぞ!」
「え? まだ安全じゃないのかい?」
「駄目だ! ここも危険だ! 壁門まで一気に駆け出せ!」
俺とちびっ子は急ぎ、駆け出す。壁門までまだ距離がある。急がねば。
「ねえ、兵隊さん。街の皆に避難を呼びかけなくていいのかい? 不味いんだろう?」
「そんな余裕が何処にある!! もう隕石は落ちて来てんだぞ!! 自分の命を守る事を考えろ!!」
俺の全力疾走と、ちびっ子の足の速さでは開きがある。
俺はちびっ子を脇に抱え、ダッシュで壁門まで駆け出す。
「ちょっとちょっと兵隊さん。どうせ抱き上げるならせめてお姫様抱っこで………………。」
「喋ると舌噛むぞ!」
俺は急ぎ、壁門目掛けてダッシュする。全力疾走だ。
スキルのお陰で、他の人達からは、何かが過ぎ去っていった。としか見えていないだろう。
残念だが、避難を呼びかけながらの脱出は困難だ。自分の事だけで精一杯だ。
壁門を越えた所で、更に外へ駆け出す。後ろを振り向くと、もうそこには隕石が着弾する寸前だった。
そして、隕石が城に着弾した。
次々と降り注ぐ隕石。
爆発音。
衝撃波。
爆音。
怒号。
悲鳴。
あらゆる音が、鼓膜を容赦なく打ち突ける。
爆風による衝撃波は一瞬で到達し、俺の体を容赦なく吹き飛ばす。
「うわあああああああああああああ!!??」
「きゃあああああああああああああ!!??」
衝撃波を浴び、宙に舞い上げられ、放物線を描きながら落下していく。
ちびっ子の頭部を守る為、手をちびっ子の後頭部へと持って行き、抱え込む。
そして、地面に叩きつけられながら、ゴロゴロと転がり、至る所が痛かったが、そんな事言ってられない。
物凄い爆発。轟音。衝撃。それらが連続して起こる。
これが、「コメット」の魔法。これこそが、広範囲殲滅魔法。
破壊。圧倒的な破壊。
ちびっ子を抱えながらも、俺は地面に転がされる。
そして、地面に投げ出されてから、止まる。
朦朧とした意識の中で、俺は無事である事に安堵した。
俺達の体を、粉塵が覆い、辺りを暗い影が落とされた。
{キャンペーンシナリオをクリアしました}
{経験点15000点を獲得しました}
{ショップポイント3000ポイント獲得しました}
{スキルポイント10ポイント獲得しました}
頭の中で、いつもの女性の声を聞き、安心したところで、俺の意識は暗転し、意識を手放した。
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