第139話 ゴップ王国潜入任務 ⑥


 「そう言えば、一つ聞きたかった。シーマ、なぜ上級悪魔の貴様が人間に化けていた?」


戦いの前に、少しでも多く情報を聞き出したいところだな。


「フンッ、そんな事か。なに、人間の負の感情を集めたかったのよ。」


負の感情? 


「そんなもん集めてどうしようっての?」


「知れた事、人間の負の感情、怒り、恐怖、悲しみ、嘆き、苦しみ、そういった負の感情はカオス様復活の為の礎となるのよ。だから、この国をまず、手始めに陥れようとしたって訳。解ったかしら?」


ふーむ、なるほど。混沌の王、カオスを復活させる為に、色々とやってた訳か。


確かに、いい様に負の感情が集まった事だろう。


「それを聞いて、義勇軍として黙ってやらせる訳にはいかんよな。」


「ウフフ、たった二人で何が出来るのかしら? やってみるといいわ。」


「言われなくても、そうするつもりだ。いくぞ!!」


俺はナイフを構えつつ、精神コマンドの「必中」を使う。これで命中率100%だ。


続けてアクティブスキル、「フルパワーコンタクト」を使用。攻撃力1.5倍。


(よし、まずは第一段階。)


「よっしゃ! 一丁いきますか!」


さて、小手調べといこうか。


「ちびっ子! 周りのレッサーデーモンは任せる! 半分相手出来るか?」


「誰に言ってんのさ! あたいは「ドクロのリリー」の船長だよ! 任せな!」


どうやらちびっ子はやる気のようだ。血気盛んな若者は頼りになるな。


レッサーデーモン。劣等種レッサーとは言え、悪魔である。攻撃力、防御力、対魔法耐性、あらゆる面で人間族ヒューマンを上回っている。


だが、ちびっ子も負けていない。普通の戦士より遥かに強いのがちびっ子だったりする。


ここはちびっ子に任せてもいいか。


俺は一体のレッサーデーモン目掛けてナイフを投擲、真っ直ぐ飛んでいき、敵の頭部に突き刺さる。


次の瞬間、レッサーデーモンは砂へと変わり、ドサッと床に崩れ落ちる。


(まず一つ。)


一撃でレッサーデーモンは倒せる、敵が弱いのか、俺の強さのレベルが相応なのか、兎に角、俺の攻撃は通用する。ならば、いける!


レッサーデーモン共は、俺達を囲みつつ、ジリジリと近づいて来る。


アークデーモンは玉座の所で高みの見物を決め込んでいる様だ。


悔しいが、今はアークデーモンに構ってはいられない。大人しく様子見をしていて貰おう。


先ずは周りの雑魚モンスターを先に何とかしなければ。このままでは囲まれて袋叩きだ。


俺のナイフによる投擲を合図に、ちびっ子がレッサーデーモンに向かって突撃していった。


「おらあああああああ!!!」


ちびっ子の専用武器、錨型ハンマーは攻防一体の武器だ。その重量による攻撃は、破壊力抜群。


幾らレッサーデーモンでも、一溜りもないだろう。


案の定、ちびっ子のフルスイングで、早速一体のレッサーデーモンが砂に変わった。


「やるなちびっ子! その調子だ!」


俺も負けていられない、アクティブスキル「ブレイジングロード」を発動させる。


レッサーデーモン共の足元の床に、光の軌跡が浮かび上がり、その光の通りに辿れば、コンボ攻撃による連続攻撃が叩き出せる。


「よっしゃいくぜ!!」


俺はダッシュで駆け出し、ショートソードを抜きつつ光の軌跡を辿り、モンスター共を次々と切り払っていく。


(ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ!)


一気に5体のレッサーデーモンを倒し、砂へと変える。


召喚されたモンスターは、倒されると砂へと変わる。つまりこいつ等はボスによって召喚されたという事だな。


「なんだと!? レッサーデーモンが一撃で倒されるだと!? 馬鹿な!?」


おや? シーマの奴、驚いている様だな。何か問題かな?


「おのれえ! 我が魔法を受けよ! 爆炎よ、破ぜよ! 《フレアボム》」


チ、炎属性攻撃の広範囲攻撃魔法か!


俺はスキル「全属性耐性」を持っているから、ダメージをカットできるが、ちびっ子が危ない!


「ちびっ子! 後方へバックステップして飛びずされ! 魔法攻撃が来るぞ!」


俺の指示を聞き、ちびっ子は後方へとジャンプし、俺との距離を取る。


その瞬間、俺の足元を起点に爆発が発生した。


「ぐっ、熱!?」


俺の体に容赦なく爆炎と衝撃が叩きつけられる。だが。


火傷の様な痛みが少しある位で、ダメージは無い。俺のスキルは優秀らしい。


「馬鹿な!? 無傷だと!? 我が魔法を食らって只で済む訳が!?」


(残念、ダメージ0でした。)


「何なのだ! 貴様は一体何なのだ!?」


「だから、只の冒険者だってば。」


アークデーモンが狼狽えている隙を逃さず、俺は剣を水平に構え、準備する。


まずは精神コマンドの「気合」を3回使用、これで気力がプラス30された。


必殺技を使うには、気力が高くないと使えない場合がある。気力が必要になる訳だ。


お次は精神コマンドの「魂」を使用、こいつは攻撃力が一度だけ3倍になる切り札だ、ジョーカーだな。


精神コマンドを5回使った、残り4回。準備は整った、後はやるだけだ。


「いくぜシーマ!」


狙いを定め、闘気を練り上げ、剣に闘気を纏わせる。


よし! いける。


腰だめに剣を構え、闘気を体全体に纏い、そして一気に振り抜く。


真空の刃が、勢いよく飛翔していき、アークデーモン目掛けて音速を越える速さで迫る。


「必殺! 横一文字斬りいいいいいいいいいいいい!!!」 


対して、アークデーモンは無詠唱で魔法を放った。


「スパーク!!!」


スパークか、電撃系魔法だ。当たると痛いが、それだけじゃない、痺れる効果がある。


だが、魔法ダメージは効かない、俺のスキルはそんな生易しいもんじゃない。


真空の刃と電撃が交差して、それぞれの標的に向かって飛ぶ。


先に攻撃が当たったのは俺の方だ、スパークの魔法は俺の体に当たり、電流が流れ、全身を痺れの様な痛みが走ったが、堪える。堪えきれる。


「ぐっ、いっつうぅ~。」


ダメージは無いが、痛みみたいなものはある。体もどうにか動かせるが、痺れの効果はあるみたいだ。


そして、アークデーモンの体に、俺の放った「スラッシュ」が炸裂。容赦なくその胴体を打ち抜く。


「グワアアアアアアッ!? おのれえええ!!!」


ふむ、どうやら一撃という訳にはいかないようだ。まだアークデーモンは立っている。


流石にボスモンスターだけの事はある。タフだな。


いや、確かアークデーモンは心臓が二つあるんだったか? 「ラングサーガ」ではそうだったし。


油断は禁物、という事か。


しかし、かなりのダメージは与えた筈だ。アークデーモンは後ろへと後ずさっている。


ふむ、もう一押し、って感じかな。


「何なのだ!? 貴様は一体何なのだ!? 女神の使徒でもなければ、女神によって選ばれた勇者でもない!!! 貴様は一体何者なのだ!!!!」


「おいおい、何度も言わせるなよ。俺は只の通りすがりの冒険者だってば。」


間髪入れず、もう一丁お見舞いする。


「もおいっちょおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


二発目の「スラッシュ」を叩き込む。狙いはバッチリ。威力十分。「魂」も忘れない。


真空の刃は、あっさりとアークデーモンへと迫り、その体を上下に真っ二つにした。


「ギャアアアアアア………………お、おのれぇ………ゆうしゃめええええええ。」


アークデーモンの体の切り口辺りから、その姿を徐々に灰へと変わっていき、床へと落ちていった。


「………フフ、フフフ、これで勝ったと思うなよ。もうじきだ、もうじきカオス様が復活される。その時まで精々震えながら過ごすといい。フハハハハハ………………。」


そして、完全に灰へとなり、アークデーモンのシーマは跡形もなく消え去った。


ちびっ子の方を見ると、あっちも丁度、レッサーデーモンを全滅させていた所だった。


「ジョーカー、切らせて貰った。勝負ありだ。…………あばよシーマ。」


やたらと広く感じる玉座の間には、静けさだけが支配していた。


ふうー、やれやれ、終わったか。しかし、只でさえ闇の崇拝者やダークガードだけで厄介だってのに、この上、混沌の王カオス復活の兆しまであるのか。


冗談じゃないよまったく、どうなってんだこの世界は。


まあ、そういうのはシャイニングナイツとかに任せておけばいいか。


戦闘を終えたちびっ子が、こちらへと歩み寄る。


「お疲れ、ちびっ子。」


「お疲れ、ねえ兵隊さん。さっき、あの悪魔が兵隊さんの事、「勇者」って言ってなかった?」


「さあ? 気のせいじゃないか?」


「いや、確かに聞いたよあたいは。「勇者めえ」って。」


「おいおい、俺は只の冒険者だぞ。」


「ふーん、ま、いっか。伯爵様にはちゃんと報告しとくからさ。」


やれやれ、勇者なんて柄じゃないんだよな、俺はさ。










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