第133話 ジャズー王兄との会話と極秘任務


 俺は今、案内してくれる王宮の側仕えの人に連れられて、ジャズー王子の私室へと向かっている。


ちびっ子はキョロキョロとしつつも、大人しくしている様だ。物珍しいのだろうな、王宮へと入るのは初めてのようだ。


「おいちびっ子、粗相のない様にな。」


「あたいは子供かい? そんなヘマしないったら。」


小声で会話していると、一つの扉の前まで来て、止まる。


扉をノックし、「お客様です、殿下。」と言い、返事を待つ側仕えの人。


直ぐに返事は返って来た。「通してくれ。」と、ジャズー王子の声。


何だか久しぶりだ。しかし、相手は王族。ここで気軽に接する事はやめておこう。


扉を開けてもらい、「失礼致します。」と言い、部屋の中へと入る。そこには変わりないジャズー王子が居た。


「やあ、ジャズ。話は聞いたよ、大変みたいだね、まずは落ち着いて話し合おう。椅子へ掛けてくれ。」


「は、ありがとうございます、失礼致します。」


促されて、椅子へと座る。その途端、メイドさんが紅茶を三人分淹れてくれた、その後、部屋を出て行く。


「人払いをした。ここでなら秘密の会話もできよう、ジャズ、それと君は誰かな?」


王子に言われて、立ち上がり、ちびっ子が挨拶をする。


「は、初めまして、ジャズと共に行動しております、リスティルと申します。御覧の通りのドワーフです。以後、お見知りおきを。」


ほーお、ちびっ子の奴、ちゃんと挨拶できるじゃないか。感心感心。


「リスティルだね、初めまして、ジャズーと言う。宜しく。」


まあ、お互いに挨拶し終わったところで、早速本題に入る。


「殿下、早速ですが、お頼みしたき案件がございまして。」


俺が王子に言うと、ジャズー王子は手で俺の声を制止し、笑顔で答えた。


「ジャズ、私と君の仲じゃないか、王子殿下などと他人行儀はやめてくれよ。ここには私達しか居ない。ジャズーでいい。」


「いえ、何処に耳があるか解りませんので、殿下と呼ばせて頂きます。」


「そうか、まあ好きな様にすればいいさ。で、用件は?」


「はい、サスライガー伯爵の件で、お話したき儀が御座いまして。」


王子は紅茶を飲みつつ、こちらの話を聞く姿勢を取った。


「伺おう。何か?」


「はい、実は、サスライガー伯爵が秘匿していた金鉱脈についてですが、その事を女王陛下の前で証言する事になっておりますが、………その、非常に言い難いですが、サスライガー伯爵の事を深く追求しないで頂きたいのです。」


俺が言い終わると、ジャズー王子は腕を組み、思案していた。暫くして、答えを出す。


「それは、この国にとっての大事な事なのでそうして欲しい。という事でいいのかい?」


「はい、詳しくお話する事が出来ず、心苦しく思っておりますが、決してサスライガー伯爵は悪人ではありませんでした。自分の目で確かめましたので、こればかりは信じて頂くしかありませんが。」


「ふーむ、せめて、金鉱脈から出た金が、何に使われて来たのかを教えては貰えないか?」


「あ、はい。それならば話せます。金はシャイニングナイツや義勇軍へと、資金提供されていたそうです。シャイニングナイツの方も、その場で話を聞いていたので、確証の高い事だと判断します。」


「ほう、そうだったのか。では何故、その事を公表しないのかな? 立派な行動だと思うが。」


「それが、色々と訳があるみたいでして、あまり公に出来ぬ様であるみたいでした。なので、女王の前での証言を軽いモノにして頂きたいのです。何処に敵の耳に通じている者が居るか解りませんので。」


俺が言い終わり、紅茶を一口飲み、喉を潤した後、王子は納得したような表情をして、共に紅茶を飲む。


「なるほど、お話は解った。ジャズがサスライガー伯爵の肩を持つつもりならば、こちらもそうしよう。それでいいんだね? ジャズ。」


「はい、詳しく話せず、申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。殿下から、女王へそれとなく手加減して頂けるように、お頼みして頂きたいのです。」


「なるほど、解った。他でもない、ジャズには大きな借りがある。また、この様な事で返し終えるとも思ってはいない。これからも私を頼ってくれれば、私としても有難い。君からの相談には極力乗るつもりだ。」


「は、恐縮です。ジャズー王兄殿下。」


よーし、ジャズー王子の許可は取り付けた。こちらの事を上手く話せないのは、本当に心苦しいが、秘密にしておかなければならない事ではあるからな。


紅茶を飲み、人心地ついたところで、今度は王子の方から頼み事があるそうな。


何かな? 


「ジャズに頼みたい事は二つ、まず、君も知っての通り、アリシアとゴップの戦の話だ。グラードル将軍は戦端を開いてしまったようだ。そこで、君にはゴップ王国内部へと行き、グラードル将軍を連れ戻して欲しいと思う。」


「ふーむ、敵地潜入任務でありますか。」


「勿論、危険な任務だが、ジャズにしか出来ないと私は思っている。君に危険な事をさせるのは心苦しいが、戦火が広がる前に事を片付けたいと考えている。頼めるかい?」


ふーむ、ゴップへと行って、進軍中のグラードル将軍を連れて帰る事か、簡単な様で難しい任務になりそうだな。


「解りました、殿下が女王に働きかける事と同時に、自分がグラードル将軍に働きかける事でありますね。了解です。」


「すまないね、またジャズに危険な事をさせる事になってしまって、だが、これ以上被害が出る事を私は容認できない。頼む、ジャズ。」


「は! 最善を尽くします。」


ふーむ、交換条件と思えばいいか。俺がグラードル将軍の元まで行って、帰還命令を言付かっていく。


ジャズー王子殿下が女王レイチェルへ、サスライガー伯爵の証言の件を働きかけて貰い、クインクレインの存在を秘密のままにして、尋問を終える。


ざっとこんな感じかな。ふむ、やってみる価値はあるか。


「ここに、私が書いた命令書がある。これをグラードル将軍へ届けてくれれば、将軍も引き返してくれるだろう。だが、もし、この命令を聞かなかった場合、グラードル将軍の事は処罰する。すまないがジャズ、二つ目の頼み事は、そこも含めて君に頼みたい。」


「………了解です。その命令書をお預かりいたします。」


俺はジャズー王子から、手紙を受け取る。早速アイテムボックスへ入れる。


よし、準備は整った。後はやるだけだ。


「ジャズ、極秘任務となる。くれぐれも気を付けてくれ。」


「は!」


敬礼し、その場を立ち上がり、ちびっ子も同じように立ち、この部屋を後にする。


 さてと、やる事が出来た。まだ基地には帰れないな。


 王子の部屋を出て、廊下を進み、城の外へと出る。


ジャズー王子殿下より、極秘任務を賜った。やるしかないな。こりゃ。


「ちびっ子、ここからは本当の戦がある所へと行く。覚悟はいいか?」


「ああ、任せな。あたいだってキッチリやるよ。邪魔はしない。」


「あまり気負うなよ。お前は後ろで控えてくれればいいから。」


リスティルの強さは知っている。おそらくその辺の戦士より格段に強いだろう。


だが、戦場では何があるか解らん。事は慎重に運ばなくてはな。


ジャズー王子が女王に言ってくれるので、サスライガー伯爵の件は大丈夫だろう。


ナナ少尉の事は、申し訳ないが今は俺は自由に動けない。サキ隊長との関係修復は、このままナナ少尉に任せるほかないだろう。


大口を叩きながらこの様とは、ナナ少尉に合わせる顔が無い。


「だが、やるしかないよな。なあ、ちびっ子。」


「ん? ああ、そうだな。やるしかないよな。」


ちびっ子は解ってない様な解っている様な返事をして、お互いに気合を入れた。


さて、向かうはゴップ王国との国境線沿いだな。


グラードル将軍はどこまでやるつもりなのか、急いだ方が良さそうだ。


「戦争か、やだねえ。」


俺とリスティルは、このまま王都を出て、街道を東へと急ぐのであった。





















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