第106話 旅 ③
王都アリシア 王城 謁見の間――――
ガーネットとジャズー王子は、二人揃って王城へと上がっている。
勿論、自分達の前に、他にジャズーを名乗る者の姿も確認できている。
つまり、偽物が大勢押しかけて来ているのだった。これには流石にジャズー王子は困惑した。
「よくやるわね~、バレたら牢屋行きだってのに。」
ガーネットが一人、
「まあまあ、金貨5枚は流石に人を呼び込むには、十分な効果じゃないかと思いますよね。」
そして、件の女王レイチェルはというと、度重なる偽者相手に辟易としていた。
しかし、自分で蒔いた種である。
終わらせるのも自分だと考えている女王は、次々とやってくる偽者相手に、適当にあしらう。
余談だが、女王の前で虚偽を働くのは重罪である。当然、偽者は牢屋へ。
と、言っても。二、三日で出てこられるので、皆、自分こそはジャズーだと名乗り出てくるのだった。
「次、………さっさとしなさい。」
女王が次のジャズー候補を呼ぶ。ガーネットたちはまだ呼ばれないようだ。
謁見の間は大きく開かれている。
今も女王に懇願したり、偽ジャズーがやってきたりと、人でごった返している。
衛兵や近衛兵も常に見張っているので、安心ではあるが、油断は出来ない。
女王の玉座の後ろには、王族直属の秘密部隊、「ブルーヘルム」も待機している。
ところで、叔父のダイサークや母カタリナは、レイチェルの後見人という立ち位置なので、それぞれ国を動かす要職へと就いている為、ここにはいない。
つまり、レイチェルは一人、兄を見極める事に、集中できるのだった。
しかしながら、現在までにまともなジャズーの情報は得られず、やってくる者も偽者ばかり。
正直レイチェルはめんどくさいな~と思っていた。
最初は金貨5枚も出せば、何か有益な情報が得られると思っていたが、結果失敗。
来る日も来る日も、偽者ばかり。ウンザリしていた。
今、目の前に居る男も、偽者丸出しであった。容赦無く切り上げる。
「もういいわ。次。」
衛兵に連れられ、男が退出させられる。
「ま、待ってくれレイチェル! 話はまだ………。」
「連れて行きなさい。」
「「 は! 」」
衛兵が男の両脇を抱え、連れ出す。そして次のジャズー候補へとバトンが渡される。
「次、前へ。」
どうやら次はガーネットたちのようだ。ガーネットが声を掛ける。
「行きましょう、王子。」
「ああ。」
ゆっくりとした歩調で、謁見の間の中央を歩く二人。女王の前まで来て、膝を落とし、畏まる。
「女王陛下、ジャズー王子殿下をお連れ致しました。」
ガーネットは緊張ぎみに答え、返事を待つ。
ここまでレイチェルは、ほぼ流れ作業的にやっていたが、今回は少し毛色が違った。
目の前の男と女は、女王の前に傅いたのだ。普通、兄ならば傅いたりはしない筈である。
王族ならば尚の事、しかし、目の前の二人は傅いていた。
レイチェルは聞く、兄の両親の名を。
「まず初めに、貴方の父親の名前は?」
「フランクです。女王。」
男は即答した。迷う事無く言い切ったので、これには女王も期待した。
「では、母親の名は?」
「カタリナ・アリシアです。」
これは即答であろう。第一王女の名前は有名である。田舎の人でも知っている。
「貴方は、今、歳は幾つなのです?」
「はい、19歳です。」
「母親と別れてからは、何をしていましたか?」
「お恥ずかしながら、山賊に身を落としていました。今は足を洗っています。」
淀みなく言い切る男に、どこか品性を感じさせる物腰を漂わせているので、レイチェルは更に聞く。
「何故、今まで姿を現さなかったのですか?」
この問いに、男は少し間を置き、そして答える。
「隣国へと嫁ぎに行った母上と、その御子レイチェルが、国を追い出された原因は、市井の子の存在が明るみになった事だからです。自分のせいで、母上や妹に迷惑を掛けた事への罪の意識の為、今まで顔を出せなかったのです。」
「つまり、私が兄を恨んでいると?」
「はい、そう思ったから、姿を見せませんでした。」
レイチェルはどこか、確信めいたものを感じ取っていた。
この目の前の男こそ、本物の兄ではないかと。
更に女王は問う。
「今では、どう思っているのですか?」
「はい、もう逃げ続ける必要を感じなくなったので、思い切って真正面から話をしようと決心しました。」
そして、このタイミングで第一王女カタリナが登場する。
「レイチェル、この資料の事なんだけど、今いいかしら?」
「ちょっと待ってお母さん。今大事な話をしているの。後でいいかしら?」
「大事な話?」
カタリナは、傅いている男と女を見て、咄嗟に状況を理解し、そして男の顔をまじまじと見つめる。
そして、カタリナはこう切り出した。
「あら? あらあら、貴方ジャズーよね? 太っていた筈なのに、見違えたわよ。痩せたの?」
この言葉に、謁見の間の空気は騒然となり、どよめきが起こり、そして、ジャズー本人である事が判明した瞬間であった。
他でもない、母親であるカタリナから、ジャズーだと認められたのである。
これには流石に、後に控えていた偽者たちも、そそくさと城を出て行くのであった。
そして、女王レイチェルは。
「………………に、兄さん、なの?」
「………そう、なるね。」
お互い、見つめ合い、沈黙が流れ、言葉が出てこなかった。
「話したい事、いっぱいあったのに、何から話せばいいのか解らなくて。」
「迷惑を掛けたね、レイチェル。それに母上、ご壮健そうでなによりです。」
「まったくですよ。一体今まで何処で何をしていたの?」
「話せば色々と事情がありましてね、ご心配をお掛けしました。母上。」
ジャズーとカタリナは、二人共顔を知っていたので、何の問題も無く、すんなりと受け入れた。
女王は、そんな母親との光景を目の当たりにして、心底ほっとした。
「ああ、これでようやく偽者たちから解放されたのね。よかったわ。ホント。」
「あらあら、この子ってば。」
こうして、ジャズーは、ジャズー王子である事を認められたのであった。
「ねえ、………お兄ちゃん。」
女王レイチェルが、遠慮しがちに声を掛けた。
「何だい?」
ジャズーも、どこか、緊張した面持ちで聞き返す。
そして………。
「お帰りなさい、お兄ちゃん。」
と、レイチェル。
「………ああ、ただいま。」
こうして、ジャズーは、無事に家に帰って来たのであった。これからは、兄妹で仲良く暮らしていく事であろう事は、ガーネットにも容易に想像できた。
「あの~~、約束の金貨5枚は?」
ちゃっかりしているガーネットだった。
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